117話.狂乱の魔導王

 魔導王が放った灼熱の炎に周囲を囲まれたクロムは、ため息をついていた。

魔導王の怒りの感情が乗り移ったかの如く暴れてるそれは、クロムを飲み込もうとしていた。


「はぁ……、この程度の煽りあおりで怒り狂いやがって」


 迫りくる炎がクロムを飲み込むかと思われた時、その炎はクロムに吸い込まれるかのように消えて行った。


われが放った炎が消えてゆくのじゃと!??

 貴様、何をした!!!!!」


「少しは自分で考えろよ。

 噂の魔導王さまがこの程度とは正直かなりの興ざめきょうざめだな」


 クロムはあえて煽るような言葉を選んでいた、このまま自滅してくれればそれが一番だと思ったのだ。

しかしクロムの目論見通りに進むことはなく、逆に魔導王は冷静さを取り戻してゆく。


「……煽り下手な奴じゃな、おかげで冷静になったわ」


「そりゃ悪かったな、あまり慣れてないのでな」


 クロムが罰の悪そうな表情をしている中、魔導王はまったくそんなことを気にすることもなく、思案を巡らせていた。 

なぜ自分の右腕は切断されたのか、なぜ自分が放った炎が消え去ったのかを。

先ほどまでの激昂の表情とは全く違う、静かな表情で目を閉じている魔導王。

クロムはそんな魔導王が放つ異様な雰囲気に言葉を失うのだった。


「ふむ、そういうことか。

 まさか我以外にも半神となっている者がいるとは考えたこともなかったわ」


 魔導王は一つの答えにたどり着いていた、クロムが自分と同じ半神であるという結論に。

そして、なんらかの方法で空間を歪めて炎を消し去ったことを推測したのだった。


「さすがにそれくらいは想像できるよな、ただ俺は半神ではないぞ」


「ん? ならば何であると申すか」


「半神を傷つけることが可能な存在、半神以外で想像できるものって1つしかないと思うがな」


「神である…… とでも言いたいのか?」


 人族が神になるなど絶対に不可能であるとしてクロムの話を完全に否定した。

そして、ふたたび灼熱の炎をクロムへと放つ。

放たれた炎は先ほどと同様にクロムの元にたどり着く前に消え去った、そしてクロムは居るべき場所から姿を消していた。


「どこに――」


 クロムの姿を見失った魔導王は発し始めたはっしはじめた言葉を途中で止めざる得なかった、なぜなら自分の目の前に自分の左腕が浮かんでいるのを視認してしまったのだから。


「なぁ、もう降参してくれないか?

 できるなら殺したくはないんだけど……」


「ふざけるな!!!

 我が人族に下るなど死んでもあり得ぬわ!!」


「……お前も王なら王らしいところを少しは見せてくれ。

 悪魔王は王としての矜持きょうじを示し、王としての在り方を俺に教えてくれた。

 魔導王ヘイムダル、いや精霊王マクスウェルよ、お前には王としての矜持はないのか?」


「……そんなものはすでに捨て去っておる。

 我の愚かな行為の代償で我らが神を失い、自我を失って全ての同族を吸収したわれが王を名乗るなど烏滸がましいおこがましい

 我にできることは暴君として憎き人族を殺めるあやめることだけじゃ!!」


 魔導王から白い煙のような魔力が放出され始める。

やがて魔導王の姿は白い煙に包み隠され、クロムからは視認できなくなった。

そして、その白い煙の中から無数の光が飛び出してくる。

しかし特に照準を合わせることをしていないその光は、その大半がクロムとはまったく別の方向に飛んでゆくのだった。

そして煙が収まってきた頃、魔導王の声が鳴り響いた。


「人族ごときが我の禁忌に触れるな。

 お前にはこの場で消え去ってもらう」

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