62話.カイリの力

 場に合わないほど、和やかな雰囲気の中で会話を交わしていたクロムとカイリ。

しかしクロムの提案にカイリが笑顔で返答をしたときから場の雰囲気は一変することになった。

先ほどまでの和やかさが嘘だったかのような二人の殺気がこの場を埋め尽くしていた。


「ク、クロム!??」


「アキナ悪い、こいつとはタイマンでやらせてくれ」


 アキナはクロムが放つ今まで感じたことがないほどの殺気に戸惑いながらも、クロムの想いを尊重するために頷いた。

クロムはそんなアキナに目線で感謝を伝えた後、カイリを改めて睨みつけた。


 恐ろしいほどの殺気を放つクロムの視線を全く臆するおくすることなく受け止めるカイリ。

そして、カイリがわずかに笑顔を浮かべた瞬間、両者ともに初手を放つこととなった。


 クロムはいつもの氷の杭アイスランスを周囲に大量に漂わせつつ、大量の氷の杭アイスランスを一気に放つ。

対するカイリは地面より無数の黒い物体を召喚した。


 クロムが放った氷の杭アイスランスは次々とカイリが召喚した黒い物体を破壊していったが、黒い物体は数を減らすどころかドンドンと数を増やしていく。

そして氷の杭アイスランスの放出が収まったころには、クロムとカイリの間には50を超える黒い物体が存在するのであった。


「……ネクロマンサーかよ」


「あたり♪

 あたしは自分が殺した命の魂を自在に操ることができるのよ」


「ということは……」

 

 カイリの死霊術によって召喚された謎の黒い物体は、カイリによって蹂躙された元カロライン王国の国民たちの魂(死霊)であった。

そして、無言で無表情の死霊たちはただ命令が下るのを静かに待っていた。


 クロムはわかりやすく命を冒涜しているカイリの死霊術に対して激しい怒りと嫌悪感を抱かざる得なかった。

そんなクロムの心の動揺が手に取るようにわかるカイリは、死霊たちに命じてクロムを襲わせたのである。


 黒い物体の正体を知ってしまったクロムは、それを吹き飛ばすことに抵抗を覚えて躊躇ちゅうちょするようになっていた。

そしてそんな躊躇ちゅうちょの隙をつくようにカイリは死霊たちでクロムを取り囲ませた。

手を出すことに躊躇ちゅうちょするクロムに対して、何も迷わず突撃をしてくる死霊たち。

クロムがまともに対応できずに回避のみに専念していると、ついに一匹の死霊の拳がクロムの左肩にヒットした。


バキッ!!!!


「ぐぁぁ……」


「クロムくん何を躊躇してるの?

 その子たちのパワーを舐めちゃダメだよ?」


 死霊に殴られたクロムの左肩は骨が折れており、クロムを殴りつけた死霊の右腕は粉々に粉砕されていた。


「自分が壊れることすら顧みないかえりみないほどにリミッターを外せば、そこらへんの人間でもそれくらいの破壊力をだせるの。

 いい加減反撃しないと…… 自分が死んじゃうよ??」


 頭では理解しているが、心がついていかない。

クロムはそんな心理状態のまま回復と回避を続けるしかできずにいた。


「クロムのバカ!!!!」


 そんな状況を打開したのはアキナだった。

疾風迅雷しっぷうじんらいの双剣を両手に持ったアキナがクロムを取り囲む死霊の群れに飛び込んだのである。


「アキナ!??」


 クロムがそんな状況に戸惑っている間に、アキナは右手の疾風の短刀の一閃で死霊数匹を一気に斬り裂き、そこから舞うように上空から飛び降りて左手の迅雷の短刀の一突きでもう1匹の死霊を消し去る。

そんなアキナの剣舞がクロムの目の前で繰り広げられるのであった。


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