59話.作戦前の束の間

 この世界に転生後最大の屈辱を味わった相手へのリベンジを行うことを決めたクロムたちは、主要メンバーを集めて作戦を考えることになった。


 クロムたちが把握している情報は、王都全体が制圧されており、王都陥落後に数人の人型の何者かが王城入りしたということ。

王都の住人たちはほぼ全滅しており、一部生き残った人もいるらしいが、具体的な消息は不明であること。

王族の安否も不明であること。

陥落そのものは魔物のスタンピードによって行われたということのみである。


 本当はじっくり偵察をして作戦を練り上げたいところではあったが、あまり時間をかけているとダンたちと鉢合わせしてしまう恐れがあるためにクロムたちは急襲作戦を選択することになった。

その作戦内容は至ってシンプルである。

 幹部たち全てにルームの出入り口を作る権限をもたせた上で、カルロたち竜人族、ゴランたち鬼族、ギンたち魔物軍団にて一斉に王都を襲撃させる。

そして王城に到達したものがルームの出入り口を設置し、その後ルーム内で待機していたクロムとアキナが王城を強襲するという流れである。


「私たちはなんか楽させてもらうみたいで心苦しいわね……」


「兄貴とアキナはうちの大将なんだからさ、元気な状態で相手の大将にぶつけたいだけさ。

 それに俺たちの相手は所詮雑魚、本当に大変なのは二人だから気にしなさんな!」


 カルロが笑ってそう言うと、ゴランも同じく笑いながら、


「お前たちが早々負けるとは思えないが……

 あんまりグズグズしていると雑魚の処分を終えたワシらがお前たちの見せ場を奪うからのぉ!」


 ゴランの豪胆すぎる発破はっぱにみんなが笑い声を上げる。

クロムは心強い仲間たちと出会えたことに感謝しつつ、だからこそ余計に必ずリベンジを果たさなければならないと改めて心に誓うのであった。


「悪いが見せ場を譲る気はないからな?

 じゃあ、今から1時間ほど休息をとったのち、そのまま作戦を開始する!

 時間になったら声をかけるからそれまでゆっくりしていてくれ」


 クロムはそう言ってみんなにしばしの休息の時間を与えたのち、自分はアキナを連れて自室へと姿を消した。

 そして、それからの時間はそれぞれが思い思いに過ごすことになる。

武器の手入れを始める竜人族たち。

軽く手合わせを始める鬼族たち。

ギンの元に集結し、力を静かに溜め込み始める魔物軍団。


 そんななか、クロムとアキナは二人だけでしばしの休息を楽しんでいた。


「いつものことではあるが…… なんかドタバタばっかりでごめんな」


「クスクス、何言ってるのよ、私は結構楽しんでるわよ?

 クロムと出会えて、従属できて本当に良かったと思ってるの。

 出会う前まででは想像もできないくらい毎日が充実していて楽しいよ」


「そう言ってもらえると嬉しいけどさ。

 危険な目にあわせちゃうのはさすがに心苦しいんだよね……」


「私のことを十分強いといつも言ってる人が何言ってるのよ……

 それに私以外には危険なことも普通に指示するくせに……

 私って…… そんなに頼りないのかな??」


「そんなわけない!!!!

 アキナは俺がもっとも信頼している人だよ!!!

 危険な目に合わせたくないのは……

 ただアキナのことが大切すぎるからだけだよ……」


「クロム……

 ……嬉しいんだけどさ、そこはちゃんと私を信じて欲しいかな。

 私はいつでも、いつまでもクロムの隣に立ち続けるつもりなんだからね!!!!!」


 クロムとアキナが毎度のようにいちゃつき始めると、どこからか声が聞こえるのであった。


『僕には全部聞かれてることわかってるはずだよね?

 聞きなれたとはいえ……

 さすがに小っ恥ずかしいこっぱずかしい…… というのは忘れないでよね?』


 ナビの声で急に恥ずかしくなった二人は、揃って顔を赤らめることになるのであった。

そしていつかナビという人格に肉体を持たせて、自分のプライベートを確立させなければと強く思う作戦実行直前のクロムであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る