50話.冒険者ギルドの苦悩


 ロムの店を後にしたクロムは、ビネガに先ほどの木の枝と竜人王聖石を渡して杖の制作を依頼した。

そして、クロムからの依頼を受けたビネガは早速拠点に戻り、杖作りを開始するのであった。


 ビネガに杖作りを依頼したクロムは、カルロたち竜人族の3人にギンを指揮官とする魔物軍団の拡大をギンと相談して進めるように指示した。

そして、残ったクロムとアキナは冒険者ギルドに向かうことにした。


「どうして冒険者ギルドに??

 何かダンさんに話あったっけ?」


「ダンさんには特にないよ。

 たまにはアキナと二人で気軽に依頼でもしたいなぁって思ってさ」


「ふ~~ん、急にどうしたの?」


「気晴らし…… かな」


 クロムは本当の目的をアキナに隠しつつ、冒険者ギルドの中に入っていった。

中に入ると、時間が昼過ぎであるということもあってかなり空いておりすぐにスズに声を掛けられることになった。


「クロムさんにアキナ!? 

 こんな時間にどうしたんですか?

 ダンさんでしたら先ほど出かけてしまいましたけど……」


「こんにちは、スズさん。

 今日は何か軽めの依頼がないかなって探しにきただけですよ。

 そうですね、なにか討伐系の依頼残っていませんか?」


 アキナと同じくダンへの用事だと勘違いしているスズに訂正をいれつつ、おススメの討伐系の依頼が残っていないかを尋ねた。

少し考えこむような表情を浮かべたのち、申し訳なさそうな表情に変わったスズは、1枚の依頼表を奥の棚から出してきた。


「これは?」


「えっと…… 

 報酬と依頼内容があっていないので受けてくれる方がいないままでいる依頼でして……

 本来であれば受け付けることすらない依頼なのですが、議員の方が無理やり……」


「……いわゆる塩漬けになっている依頼ってことか。

 しかも議員が無理やりに通した依頼であって、ギルドも困っていると……」


「はい……」


「ということは、何時まで経っても依頼が達成されていないことで、それなりの嫌がらせも発生していそうだね……」


「……その通りです」


 本来ならクロムが受ける必要もない依頼である。

しかしいつもお世話になっているスズが議員の嫌がらせのような依頼で苦労しているところを見てしまっては無視もできず、とりあえず内容を見せてもらうことにした。

 依頼内容は、依頼者である議員が聖セイクリッド神国より取り寄せた彫像が移送中に鬼の一団に奪われたため、その奪還と該当の鬼の一団の殲滅依頼であった。


「鬼ってきっと強いんですよね?

 それに……

 これって彫像の奪還が主目的だと思うのですが、何故一団の殲滅まで依頼に含まれているのですか?

 そもそもその鬼の住処って何処にあるのかわかっているんですか?」


「普通なら奪われたものの奪還が依頼であり、必要となった場合に限り討伐も発生するというタイプの依頼になりますね。

 また、鬼の住処はルイン南部に存在することは判明はしていますが、鬼は人族以上の知性をもっているうえに力も強いので本来ならばAランクの依頼になりますね……」


「報酬的にはCランクっぽいけど?

 はぁ……、つまりはギルドそのものへの嫌がらせも兼ねた依頼ってことか……」


 クロムは内容を確認したことを軽く後悔していた。

依頼自体は胸糞悪いむなくそわるい気持ちのみが募るつのる内容の依頼であり、それで苦労しているスズたちの助けをしたい気持ちになっていた。

しかし、ここでこの依頼を安易に受けることによって今後ギルドや議員などから便利に使われるようになることも避けたかったのである。

 しばらく黙ったまま考え込んでいたクロムであったが、あることを理由に受けることを決断した。


「スズさん受けさせてもらうよ、いつもお世話になっているからその恩返しということでね」


「ホントですか!!!?

 ありがとうございます!!!」


「え? クロムいいの?

 こういう便利に使われる系はあんまり好きじゃないイメージがあったけど……」


「あはははは、否定はしないけどさ……

 今回はちょっとした思惑が俺にもあるし、何よりこういう嫌がらせは嫌いだからさ」


 ギルドの塩漬け依頼を受けたクロムたちは、スズにすごく感謝されつつ鬼の住処とされるルイン南部の集落へと向かうことにした。

アキナはクロムが明かそうとしない思惑に若干の不安を感じつつも、クロムの後についてゆくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る