41話.竜人の試練③
クロムたちが武舞台にたどり着いた時には、族長ともう一人の竜人族がすでに待っていた。
「待たせてしまったみたいだな、すまない」
「いえいえ、我々が早く着すぎていただけですので、お気になさらなくて結構ですよ」
「次の試練を担当させてもらうソイソと申します、お見知りおきを。
「魔剣士ねぇ……
経験不足であることを絶賛痛感中の俺にとってはいい経験になりそうな相手で有難いよ。
手の内がバレている状態でどの程度戦えるのかも気になるし、それに今回はちょっと試したいこともあるしね」
やる気に満ちているクロムとソイソ。
族長が試練開始を宣言すると、クロムは速攻で大きめのかまくらのような氷のドームで自分を覆い始めた。
「突然どうされたのです? 氷の中に引き籠ることが試したいことなのですか?」
「これは時間稼ぎ用の防壁だよ。
試したいことをするためには少々時間がかかりそうだからね、それに……」
「私の力試しも兼ねている…… とでも言いたそうですね」
目の前の氷のドームが自分への試しでもあると解釈したソイソは、白色に輝く片手剣を振りかぶりながら氷のドームへと飛び掛かった。
そしてソイソが氷のドームまで接近したとき、突如白色の剣は緑色の光を纏った。
「ほぉ、剣に風属性を付与する魔術剣…… といったところかな」
「さすがに見抜きますか!
この刃の切断力を甘くみないことです!」
ソイソの斬撃が氷のドームに激突した瞬間、キンッ!と甲高い音が響き渡った。
その斬撃はドームを切断することはできなかったが、10センチ程度の切れ目を入れることに成功していた。
「一撃でそれだけ斬れるのはさすがだね、でも数分ぐらいは大丈夫そうかな。
時間もないし早速試させてもらうね」
クロムは自身を中心とした半径2メートル程度の範囲で強烈な上昇気流を伴う竜巻を発生させた。
氷のドームを切り刻むソイソにも竜巻は襲いかかることになったが、自身の周囲に風の膜を発生させることによって、竜巻の影響をかなり軽減させていた。
クロムは魔術にそういう使いかたもあるんだなぁと感心しつつも、実験の続きをすることにした。
竜巻の下部を火魔術で温め、上部を氷魔術で冷やすことにより上昇気流の速度をさらに引き上げることに成功した。
それによってクロムの頭上には急激に冷やされた空気が集まった結果、徐々に雲が生成され始めた。
そして肥大化を続けるその雲から大粒の雨が降り始めるのであった。
クロムは発生した雲の内部の水分を魔力で激しく運動させる。
すると、雲は運動によって発生した静電気を帯びた雷雲へと変化していった。
一連のクロムの行動の意図が理解できないソイソであったが、ソイソは無心で氷のドームを刻み続けた。
そしてついにソイソが氷のドームを切断した。
「ギリギリギだったけど、間に合ったみたいだね」
「何をするつもりか知りませんが、次に斬るのはあなた自身ですよ!」
そう言ってソイソが片手剣を構えた時、クロムは頭上の雷雲に対して魔力で命令を与える。
目の前の相手にその力を示せ と。
クロムの命令を受けた雷雲が貯め込んだ電気を一気の放電すると、それはソイソに対しての一筋の落雷となって降り注いだ。
一瞬の出来事であり予見もできていなかったソイソは直撃されるしかなかった。
「……」
言葉を失ってしまった族長を尻目にクロムは落雷の直撃を受けたソイソの元に駆け付け、急いで治療魔術を施した。
全身に酷い火傷を負い意識のないソイソではあったが、本人の強い生命力と落雷の規模が小規模であったこともあり、かろうじてではあるがまだ息があった。
「死なないでくれ……」
クロムは強い願いを込めた治療魔術を必死にし続けるのだった。
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