39話.竜人の試練②
「ソルトの手当をしてくださってありがとうございます」
「気分で治療しただけだから気にしなくていいよ」
族長が武舞台に招いた竜人族は笑顔でクロムにお礼を伝えたのち、武舞台にて自己紹介を始めた。
「次は我が行かせて頂きます。
我は
「初めての魔術師同士の戦闘…… 楽しませてもらうよ」
不適に笑い合う二人を苦笑しながら見つめる族長は開始を宣言した。
対峙する二人の身体を魔力の
凍てつく冷気を纏うクロムと灼熱の熱気を纏うビネガ。
徐々に肥大化を続ける真逆の属性を持つ二人の魔力の靄は、ついにぶつかり合うことになり水蒸気をまき散らし始めた。
「漏れ出た魔力のぶつかり合いでこんなことが起きるんだな」
「魔力が拮抗していないと起きない現象ではありますが……
まさか我の魔力と拮抗できる者がいるとは驚きですよ」
「あははは、じゃあお互いそろそろ本気を出してみようぜ」
クロムの魔力の靄が急激に肥大化を始めた。
すると、冷気と熱気のバランスが崩れ始め、水蒸気の発生が少なくなる。
そして、周囲の気温が一段階下がった頃、クロムの魔力の靄はビネガを包みこみかけていた。
クロムの魔力の靄がビネガを完全に包み込んだと思われた時、突如ビネガを包み込んでいたクロムの魔力の靄が爆散し、灼熱の魔力が周囲に吹き荒れた。
「この程度が限界ではないですよね?」
「徐々に楽しんでるんだからあんまり焦るなよ!」
クロムは爆散されて周囲にまき散らされた自分の魔力を全て氷の杭に変換し、一切にビネガへと向けて放った。
突然全方位から氷の杭の攻撃を受けることになったビネガであったが、冷静に周囲の灼熱の魔力を自分近くに圧縮展開し、氷の杭を蒸発させつつ受け止めた。
氷の杭が熱で防がれることが想定の範囲内の出来事であったクロムは、氷の杭を放つと同時にビネガの足元の地面を一気に泥沼化させていた。
しかしここでクロムの予想を超えることが起きる。
氷の杭を蒸発させたビネガを包み込む灼熱の魔力が泥沼まで一気に蒸発させたのだった。
そして、泥沼へと変化させた地面はクレーターのような穴へと変貌し、その中央でビネガが佇んでいた。
「まじかよ……」
「面白い攻撃をする方ですね、ですが我には無駄ですよ」
クロムの必勝パターンとなっていた泥沼での足止めが不発に終わってしまい、クロムは次の手を決めあぐねていた。
すると、ビネガは
クロムは突然自身に向かって迫ってくる灼熱の塊に対して、全力で凍てつく魔力を放ち迎撃した。
相反する属性の魔力同士の衝突は最初の魔力の靄同士の衝突を再現することになる。
そして強烈な水蒸気が辺り一面の視界を完全に奪った。
その中、ビネガはすでに次の行動を始めていた。
発生した水蒸気が特に濃い場所に飛び込んだビネガは、その位置から巨大な炎の槍をクロム目掛けて投げ突けたのである。
その攻撃を全く予期できていなかったクロムは、突然の周囲の温度変化を感じて反射的に身体をひねることで炎の槍の直撃を奇跡的に避けることができた。
しかし完全に回避できたわけではないクロムの横腹は炎の槍により
「ぅ……」
そして、その一瞬で不思議なことが起こる。
突如、クロムの全身を回復魔術の光が覆いつくしたのだ。
さらに、クロムが右手を突き出すと巨大な竜巻がビネガを包み込む。
ビネガを包み込んだ竜巻はビネガが纏う灼熱の魔力の靄を全て吹き飛ばした。
そして、クロムが頭上にあげていた左手を振り下ろすと、ビネガの頭上より猛烈な冷気の濁流が襲い掛かる。
ビネガを包む竜巻は冷気が周囲に拡散するのを阻害し、むしろ逆にビネガに冷気を収束させていた。
そして竜巻が収まる頃には、クロムを包み込む光は収まりその場に倒れこむ。
倒れているクロムと氷像のビネガ、その異様な光景にその場の誰もが言葉を失うのであった。
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