33話.スタンピード

「さっきから無言だけど大丈夫か?」


「頭の整理が追い付かないまま…… 今ここにいるかも……」


 クロムは苦笑いをしつつ困惑しているアキナを抱きしめて頭を撫でた。

すると、アキナは少しだけ落ち着きを取り戻し、笑顔を取り戻すのであった。


「少し前にステータスを移譲させた時にブラッディーベアの大群相手でも蹴散らせるほどには強くしたけど、今までにないレベルで危険であることは間違いない……

 全力でアキナを守るけど、物量で攻められた場合間に合わないことも考えられる……

 自分の身を守ることを最優先にしてくれ、頼む……」


「自分はどうせ危険なことするくせに……

 でもわかったわ、これもクロムの相棒の宿命と思って諦めるわ」


「ありがとな。

 ナビ、魔物たちの現在位置と迎撃に適した場所の検索を頼む」


『はいはい、現在位置はまだ遠いから遭遇までには少しは余裕があるわよ。

 迎え討つ場所は…… 

 この先にある狭い渓谷だろうね』


 ナビが示した場所はルインから東へしばらく行った場所であり、竜の牙の切れ目がもっとも狭くなっている場所であった。

クロムたちはその場所に急行しながら、どのような作戦で迎え撃つのかの相談を始めた。

 いくら狭くなっている場所とはいえ、横幅1キロはある渓谷である。

そのため、クロムは分厚い土の壁で渓谷を塞ぎ、その壁を背にして迎え討つことにした。


(これも背水の陣はいすいのじん…… なのかね)


 前衛としてクロムが魔物の群れを迎撃し、アキナが後衛としてクロムの討ち漏らしを退治するというのを基本戦術とし、ギリギリまで粘ったらルームに退避するという作戦にした。

そしてルームの入り口を設置する権限をアキナにも共有し、あとはスタンピードの到来を待つばかりになった。


 それから20分後……

地割れでも起こったのかと思うほどの足音が響き、二人はスタンピードの規模を改めて実感することになった。


「さすがにこの音を聞くとビビっちまうな……

 アキナ、絶対に生き残るぞ!」


「うん!!! クロムもね!!!」


 クロムは宣言をすると共に大量の魔力を練り込み始めた。

手始めに魔物へ向けて台風並みの突風を継続的に吹かせて少しでも進行速度を遅めようとした。


「ぐ…… この規模の魔術を継続させるのは結構きついな……」


 突風により進軍が遅くはなっている魔物たちであったが、徐々に接近を続けていた。

弱音を吐きつつもクロムは続けて横幅いっぱいに底なしの泥沼をできる限りの広範囲で生成した。


「で、ここからが本番だぁ!!!」


 クロムは、オークの巣穴を氷の世界にしたときとは比較にならない規模の氷の世界を前面に展開した。

視界を埋め尽くすほどの魔物の大群は突風に吹き飛ばされ、泥沼に足を取られて、いたるところで氷の彫像となっていた。


 さらに追撃とばかりに無数のアイスランスを放つクロム。

放たれたアイスランスは魔物たちを次々に粉砕していくが、如何せんいかんせん数が多すぎる。

前にいる魔物を盾にして後方の魔物が前進を続けてくる。


 このままでは押し込まれるだけと判断したクロムは突撃を開始した。

両手でエアカッターを放ちつつ突撃するクロムは修羅のごとく魔物たちを駆逐くちくしてゆく。


 しかし当然討ち漏らす魔物も多数存在し、それらがアキナに襲いかかる。

アキナは速度を生かした双剣術を駆使して、それらを斬殺してゆく。


 とても二人で魔物の大群を撃退しているとは思えない展開でなんとか魔物の大群の前進を押しとどめていた。

ただ……

人の体力は無限ではない……


 特に序盤から全力で飛ばしているクロムにはそれが顕著であり、徐々に打ち漏らす魔物の数が増え、身体に刻まれる裂傷れっしょうの数を増やしていくことになった。


「やべぇな…… さすがにこの数は多すぎ……

 でも…… これで最後だぁ!」


 クロムは残りの魔力を全開放する勢いで前方に大量の巨大なアイスランスを放った。

放った直後、クロムは膝をつき自分の限界が近いことを痛感していた。

クロムが最後に放ったアイスランスは大量の魔物を倒したが、全部を退治しきることはできなかった。

そろそろ逃げるしかないと思った時、かすかに笛の音が聞こえ魔物の群れが引き上げていくのであった。


「あはははは、君すごいね~!

 まさかここまでできる人がルインにいるとは思わなかったよ。

 ご褒美として今日はこれで引き揚げてあげるけど……

 はい、お土産ね!!」


 どこからともなく聞こえた謎の声がお土産と言い残した瞬間……


クロムは自分の右脇腹にテニスボールサイズの穴があき、大量の血が噴き出すのを目撃したところで意識を失った。


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