男がほとんどいない世界に転生させられたんですけど………どうすればいいですか？

第55話 林間学校の買い物

マスクを付けた俺は案外バレる事は無く、少し制限はあるけどそれでも自由気ままに外を歩けるのは素晴らしいと思った。

……と言うか2人の美女に囲まれながらの買い物っていう状況を一旦考えたらそれなりにすごい事が起こってるよな。正しく両手に花だな。

「さぁ、さっさと行きましょう。初めにあなたの変装用のサングラスを買いに行きますよ。」

「本当に悪いね。俺の為に付き合わせちゃって。」

「全然大丈夫ですよ！！気にしないで下さい。」

「そうです。格好を指摘したのは私で、サングラスを付けた方がいいと助言したのは私です。なので、今回ばかりは本当に気にしないでいいです。」

2人共ありがとう。そう思いながら俺は歩いた。

夜依から案内され、少し老舗感が漂うメガネ屋さんに入ると、棚にズラリと並べられた様々な種類のメガネが俺達を出迎えた。

「ほぉー」

買うものは俺の顔を隠すサングラスだけど、これだけ種類があると逆に選べないかも。

でも、俺の為に付き合ってくれる2人の時間をあまり無駄にしたくは無かったので、俺はほとんど吟味せずに選ぼうとする。

だが……

「──も、もしかしてそれを買うつもりですか？」

夜依が俺を止めた。後もう少しで購入する所だったけど……どうしたんだろう？

俺がチョイスしたサングラスはこれ……

フレームからレンズまでもが真っ黒で、レンズがバカでかいサングラスだ。値段も安かったし、顔がマスクと合わせるとかなり隠れるのでいいと思いこれをチョイスした。

「う、うん？そうだけど。ダメだったかな？」

俺がそう答えると、夜依は呆れ顔になりながら……

「なるほど、そうなんですか。あなたって、なんでもパーフェクトに出来る人だと思っていたんですが……それは私の思い違いのようだったんですね。」

んんっ、なんだろう。今、普通に罵倒されたよな？

「つまり、もっと無難な物を選んで下さいという事です。こういう物だと目立ってしまいますから。」

「え……そうなの？」

隠さないとダメなのに、隠しすぎてもダメなのか！？うーむ、よく分からんな。もう。

「じゃあ、もう俺には分からないや。

──だから、悪いけど、選んでくれないかな？俺の為にさ。」

そう言うのならば、俺の為に選んで欲しい。俺はそう2人に頼んだ。別に面倒になったとかそういう訳では決して無い。単純に俺のセンスの問題であろう。

「え……」

「わ、分かりました！！」

夜依は何となく嫌そうだったけど、葵としっかりコミュニケーションを交わし、俺の為にサングラスを選んでくれた。

「2人共ありがとう。」

俺は2人から選んでもらった黒色、黒レンズのサングラスを付け、完全に顔が隠れた状態で2人を褒める。

少し怪しい雰囲気を漂わせる感じがするけど、無難に身を隠せているかな？

「すごいです！！優馬くんって知らなかったら、私正体に気付けないですよ！！」

「そう、ですね。これなら問題ないと思います。」

葵も夜依も俺の変装に満足そうであった。

☆☆☆

それから俺達は街に繰り出した。もちろん俺は変装をしているので、正体がバレるはずも無く、問題無く買い物は進んだ。

「あ、そうだ。そういえば、実行委員長から購入資金を貰ってたんだっけ。」

「そうでしたか。それで、いくら程貰ったんですか？値段によっては色々と考えなければならないので……」

「お、うん。はい、このぐらいだけど。」

今回購入を頼まれた物は安価な物ばかりなので、そこまで多くの資金は貰ってないけど、足りなかったら自分達で一旦払って後で領収書をくれと言われていた。

1分程夜依は考え、方向性が決まったのか……

「それでは効率良く買い物をしましょう。まず始めに行く場所は……」

そこから俺達は近くの店で虫除けスプレーを数十本、熊よけの笛も数十個も購入したり、電気屋さんでトランシーバの電池を買ったり……と、夜依が考えたプランで効率的に俺達は回った。

☆☆☆

「──よぉーし、これで大体買ったかなー？」

「はい……疲れましたー」

「ええ、今のが最後でした。」

俺達は早々に買い物を終わらせていた。

俺と葵は荷物を両手いっぱいに持ちながらの移動、購入だったので、既にバテバテ。夜依も俺達と同じぐらいの荷物を持っているのにも関わらず、息切れひとつせずに俺や葵がやるはずだった購入リストにチェックを入れていた。

ふぅ、大分時間が余ってしまったな。

椅子に座り、呼吸を整えた俺は予定より早く買い物が終わった事に気付く。

よし……！

「っと、ねぇ、提案なんだけどさ。このまま帰るのも勿体ないし、これから自分達の買い物をしに行かないかい？」

本来、今回の林間学校での買い物はただの後付けの理由だ。メインはコッチの買い物なのだ。

「はい、もちろん行きます！！」

葵は即答で、すぐに賛成してくれる。

「えっと……夜依はどうかな？俺的には荷物を学校に置いていかなきゃならないから、別行動は避けたいんだけど。」

「…………」

夜依は俺の誘いに動揺し、少し考え込んだ。

「はぁ、わざと……断りにくくしましたね。」

夜依はため息混じりに愚痴を呟いた。

「よしっ！じゃあ行くって事でいいね。」

……という事で俺達は購入した荷物を近くのコインロッカーに預け、大型スーパーに立ち寄った。

「俺が思うに、林間学校には沢山のおやつが必要だと思うんだよね。」

「え、おやつですか？」

「そう、おやつだ！」

林間学校というものは多分、結構歩くし疲れる。それに俺達は仕事で動き回る事も多いだろう。だから用意されるご飯じゃ足りないと思ったのだ。

……それに班の皆とおやつをつまみながら愚痴を話し合う……なんて、俺が思い描く“理想”だしな。

「あの、林間学校の荷物でおやつは持ち物には書かれてませんが？」

「う、うん。それはわかって──」

「──ですが、私もおやつには賛成です。」

「え？」

絶対に夜依は否定してくると思った。何故ならルールの微妙な所をついているからだ。だが、予想とは違い夜依は食い気味にその話に食い付いた。

「えっと……夜依はおやつ好きなの？」

感じ的にそうだよね？じゃなきゃ、そこまで食い付かないよね？

「うっ……そう、ですね。でも別にいいじゃないですか。」

言いにくそうに夜依は教えてくれた。なんだろう、少しだけ背徳感を味わったかのような気がした。

「なんですか意外でしたか？こんな冷酷な女が駄菓子とか甘いものが好きで？」

「いやいや、全然。全く。」

むしろ、夜依が庶民的である事を知れて嬉しかった。

「では、行きましょう！早く行きましょう。人気のおやつが売り切れる前に！」

「あはは……」

やはり率先的に行動してくれる夜依、だけど今まで以上に集中してたようだった。本当に好きなんだろうな。

俺は多くのおやつを購入した。葵も夜依も各々でおやつを購入したようだった。

3人共、満足が行く買い物が出来た所で、コインロッカーから買い物した物を回収し、学校に荷物を置きに戻った。

外はもう夕方。おやつ選びに案外時間が掛かってしまったのだ。街では帰宅ラッシュと重なり人混みに揉まれながらなんとか帰った。

ようやく学校の敷地に入ると、俺はマスクとサングラスを取った。ようやく、素の自分に戻れた……

マスクは息がしづらいし、サングラスだと周りの2人もちゃんと見れなかったのでもどかしい気持ちでいっぱいだったのだ。

「ふぅ、中々に疲れたね。」

「そうですね！！ですけど私は優馬くんと一緒に居れたのですごくすごく楽しかったです！！」

「うん。俺もだよ。よぉーし！絶対に思い出に残るような林間学校にしような！」

「はい！！」

そんな俺と葵が話で盛り上がっている時、荷物を置いてきた夜依は、「では、また。」と、一言だけ残して帰ってしまった。

「あれ……夜依？」

もう少し3人で話していたかったんだけどな。

……だが、夜依は俺が家に帰った頃に一通のメールをして来た。

“今日は楽しかったです。林間学校必ず成功させるようにしましょう”

最近交換したばかりの夜依との唯一の連絡手段。

一方的に俺が使うものだと思っていた。だけど、

……ったく、素直じゃないんだから。

俺は無意識に笑顔になってしまう。ちょっと嬉しかったのだ。だから今度は夜依の口から聞きたいものだな。

──という事で林間学校の買い物が終了した。

葵と夜依。それに雫、後皆のために。必ず林間学校を成功させてみせる。そう俺は強く決意するのであった。