第23話 最良なケースと最悪なケース


「それとな、これからは苗字ではなくて下の名前で呼べ。これは生徒会長命令だ!」

「あ、はい。分かりました。」


まぁ、九重先輩と言うと大地先輩も反応してしまうからな。


「おっと、そろそろ私は行くが……最後に宣言しておく。

我が生徒会では真面目に規律正しく、そして楽しくをモットーに活動している。お前が男だからと言って特別待遇とか、特別扱いはしない。むしろ、力があるようだからこき使う予定だ。一応、覚悟はしておけよ。」


指を刺されながら宣言をされる。


「は、はい……精一杯頑張ります。」


まぁ、むしろそっちの方がいいかもな。だって、この世界に転生してきてからずっと特別扱い。そろそろそれにも嫌気が刺してきたのだ。


空先輩に言われ、身が引き締まる。


「じゃあ、私は行くぞ。これから大地から昼ご飯を貰いに行かなければならないかな。」


謎のいらん情報を言いながら、教室のドアに向かって踵を返す空先輩。


「あ!そう言えば、生徒会室に今日の放課後来るようにな。臨時の生徒会があるんだ。それじゃあ、また後でな。来なかったら……分かってるよな?」


そう言い残し、空先輩は教室からそそくさと出ていった。


「…………………」


俺も、周りにいたクラスの女の子達もぽかんと口を開けていた。


((((それって1番大事な情報だろうが!先に言えよ!))))


クラスにいるほぼ全員がそう思ったとか……


クラスのもう1人の生徒会の夜依も動揺をしているというかかなり呆れていた。


「はぁ……本当に大丈夫なのか?」


あんな自由奔放とした人が人を引っ張れるのか?

今見た感じだと俺はそうは思えない。


今の所、生徒会に入った事に若干後悔しているんだけど。


今から委員会を変えることは、何とかすれば行けるだろう。生徒同士でまだ挨拶をしていないし、書類もまだ通っていないはずだからだ。

でも、そうして逃げれば空先輩がここにわざわざ来た時間が無駄になるし、俺のレッテルと信頼に傷が着く。それに夜依と一緒になった意味も無くなってしまう。


それだけは嫌だったので委員会を変えるという選択肢は破棄した。


☆☆☆


──ピロリンッ!!!


「うおっッ!!」


もう、チャイムが鳴り、奈緒先生がいつ来てもおかしくない頃なのに………ヤバいって!


月ノ光高校はスマホが極力使用禁止だ。

もし、それがバレたら怒られる。1発で生徒指導だ。


音がしたってことは、携帯をマナーモードにしていなかったという事だ。

急いでスマホをカバンから取り出しマナーモードに設定した。


「ふふっ♪」


あ、前の席の春香から笑われた。

恥ずいな。


もう……いいや。

ついでにメールの中身を見よう。


1番後ろの席だから別に奈緒先生が来てもちょっとやそっとではバレないだろう。


俺はメールの画面を開く。


あ、お母さんからだ。

もしかして、時計の事か?


そう予想して内容を見たが、予想通りメールの内容は時計のGPS機能の事だった。

お母さんの褒めて褒めての文は流し読みし、内容をしっかりと読み取る。


えっ、見つかったの?時計は壊れているけど、GPS機能は壊れてなかったのか!


あれ……でもこれって明らかにおかしく無いか?


だって、お母さんが一緒に送ってきたGPSを示す地図は、どう考えても雫の家では無いと思われる違う場所を表示していた。

雫の家は俺の家から近いって前に聞いていたから、このGPSの表示は考えられないのだ。


「…………………ッ!」


俺はつい、無意識に立ち上がってしまう。

クラス中の視線が、俺に集中するが……今の俺には全く気にならない。


俺はつい深く考えてしまう。最良なケース~最悪なケースまで色々と……


例えば、雫は風邪で病院にでも行っているのかな?

でも、それなら学校に親が電話ぐらいすると思うし俺や由香子にも連絡をするはずだ。それに……病院に俺の壊れて使い物にならない時計を持っていくか、普通?

俺だったら持って行かない。例え持って行っても何の役にもたたない。


それか間違って俺の時計を捨てたのか?でも、ありえない。雫はそんな奴じゃない。まだ1週間くらいしか一緒に過ごしていない仲だけど、断言できる。


でも、すぐにそれは理屈が通らないと分かる。

それで最良なケースがどんどん減って行き、最悪なケースが残って行く。


もうダメだ!最良とか最悪とか考えていたら頭がパンクしてしまう。


もうなんなんだよ!?意味わかんないよ!?雫は一体どこにいて、何をしてるんだよ!

雫と会えないだけでこんなにも頭が混乱するなんて思ってもみなかった。


突然、頭を抱え唸る俺にクラスの女の子達は不自然に思う。春香や隣の子が俺に対して声を掛けてくれるが、全く俺は反応できない。頭が混乱してそれ所ではないためだ。


「そうだ。このGPSが表示されたマップと俺のスマホの細かいマップ機能を連動させて見てみれば何か分かるかもしれない。」


早速やって見た。電子機器に疎い俺には難しい操作だけど何とかでき、GPSの場所が正確に表示された。


連動させて分かったのは、GPSの指す場所がとある住宅街の1軒家だということ。


病院とかだったら、心配もするけど安心は出来た。

だけど……この地図を見た瞬間から不安も増して、緊張感が出て来た。


あぁ、おばあさんの家に行っているのか?でも……それだと土日に連絡が付かないのがおかしいし学校を休むのもおかしい。


──もしかして誘拐か!?最終的に思い至った俺の結論はそうだった。

もう最悪なケースとしか考えられなかった。


「はぁ……」


って、落ち着けよ俺。

深呼吸して気持ちを整える。だけど……全然収まらない。俺の考えすぎだ!と思いたい。


そんなのある訳ないよな。そうだよ。そうだよな!

そう何度も何度も自分に言い聞かせた。


「優馬君?どうしたの♪」

「──え、あ。ごめん、ごめん。ぼーっとしてた。」

「考え事?スマホ片手にそれは中々、大胆の行動だ

ね♪」

「あ、あぁ!」


やばい、やばい。考え事をしててスマホを片手に握りしめていることを完全に忘れていた。

本当にマジで生徒指導を食らってしまう。


慌ててスマホをポケットにしまいこみ席に着く。

ふぅ……ようやくクラスの視線が俺から散らばり、落ち着く。


「それで、どうしたの♪何かあったの?さっきの優馬君は挙動不審すぎたよ♪」

「えっと……ね。」


俺が春香に簡単に説明をしようと思った時、隣の子達の噂話が聞こえた。


「──ねぇねぇ聞いた?化学の毒牙先生の化学準備室からやばい薬品が沢山見つかったんだって。怖いよねー」

「それ聞いた聞いた。あの人前々からヤバい人だと思ってたけど本当だったとはね。」

「それでさ、その薬ってかなり体に有害ですぐに学校が処分したらしいんだけど、毒牙先生音信不通じゃん。なんか事件を起こしてるかもって先生達焦ってたよ……」


この2人、確か榊原 真希まきさんと近藤 まいさんだ。クラス順位に上位に2人共入っていたから印象深く覚えていた。


一旦、春香には待っていてもらい、2人の元に行く。


「ねぇ、話に割り込んで悪いけど、榊原さんと近藤さんが話してる事って本当なの?」


急に俺から声を掛けられた2人は驚き、顔を真っ赤にするが俺は気にせずにグイグイ聞く。


「えっと、えっとね。私達の名前覚えててくれたの。すごい感激。」

「私も私も。嬉しすぎて泣きそう。」


2人は途中で話が分断されたのにも関わらず全く怒らず、良い笑顔でとても嬉しそうだった。


「当たり前だよ。それで、その話は本当なの?」

「う~ん。本当かは実際は分からないけど、職員室を通りかかった時に先生達が話している所をたまたま聞いたんだよね。だから多分本当かな。」

「本当に、やばいよね。」


…………っ。俺が予想した最悪なケース。その未来に徐々に近づいて行っている気がする。冷や汗が垂れ始め、顔の血がすぅーっと引く。


「なるほどね。ありがとう。榊原さんと近藤さん。」

「うん。どういたしまして!」

「また、いつでも話しかけてきてね。」


俺は2人にお礼を言った。

そんな時、


────ガタァッ!!!!


「「「「ッ!?」」」」


勢いよく、教室に入って来た奈緒先生にクラスの俺含めた全員が驚いた。


「優馬君!優馬君!ちょっといいですか?」


相当慌てふためく奈緒先生が俺の名前を連呼した。


「えっと、はい。なんですか?」


俺は返事をして立ち上がった。

なんだなんだ?

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