第4話 先輩と話をする。
俺は先生の後をついて行った。
階段を降り、少し廊下を歩き、厳重そうな扉を潜り抜けてある部屋に入った。ここはモニタールームとドアの近くの標識に書かれていた。
モニタールームは部屋全体が白い部屋でパイプ椅子が2つと大きなモニターが置かれているだけであとは何も無いかなり殺風景な部屋だった。
椅子が2つ置かれているという事は俺の他にも誰かが来るということだ。察するに男の先輩だろう。
そう言えば、男の先輩って一体どんな先輩なんだろうか……
頼れて信頼出来る、良い先輩だといいなぁ。
俺は理想の先輩の姿を想像して、パイプ椅子に座り先輩が来るのを待った。この世界で初めて会う男だ、俺はドキドキしながら先輩を待った。
──ガチャ
ドアが開き、誰かが入ってきた。
恐らく男の先輩だろう。
「やぁ、君が新しく入学した男の後輩くんかい?よく来てくれたね。」
先輩は黒髪のくせっ毛でその髪が目元まで伸びている。顔は中の中の普通くらいで影の薄い陰キャみたいな雰囲気だった。
「はい。神楽坂 優馬です。よろしくお願いします。」
なんだろう。俺の思っているのと違った。
「優馬君だね。僕の名前は九重
「はい。ありがとうございます。」
俺と大地先輩は握手をした。
「──これから入学式を始めます。」
握手が終わり、少し雑談をし始めて数分後、勝手にモニターに映像が流れ始めた。
「お、入学式が始まったな。席に着いてないと先生に怒られるから早く座らないとな。地味にここ監視カメラがついてるからふざけてるとすぐに先生が注意に来るんだよ。気を付けた方がいいからね。」
大地先輩が天井当たりを指さしたのでその方向を見てみると小さい監視カメラを発見した。
ちゃんとしなきゃな。そう思った。
「はい、分かりました。」
俺と大地先輩はパイプ椅子に座り、入学式をやっているモニターを見た。
モニターにはステージの上の画像しか映し出されておらず、ステージの下に座っている女の子達が一切見れない。
今は校長先生の挨拶かな?
校長先生はもちろん女性で、まだ30代くらいの人だ。でも、貫禄は感じる。
この世界は明らかに美人が多い。おそらく昔から男が少なく女は顔が良くないと子供すら作れなかった、だから顔が良くない女は淘汰され美人の遺伝子だけが残った。と、俺は考えている。
校長の話も終わり次は生徒会長の話の番だ。生徒会長は黒髪のショートカットで目がパッチリしていて更に、顔が整っていて可愛いと思った。
「あれはね僕の姉なんだよ。」
「え?!マジですか?」
大地先輩はモニターに映る生徒会長を指さして言った。
「マジだよ。」
確かによく見ると少しだけ雰囲気が似ている感じがした。何となくだけど。
「すごいですね。お姉さんが生徒会長だなんて……」
「昔から人を引っ張って行く性格で人望が凄かったからね。でも……僕は苦手なんだけどね。」
何で苦手なんだ?いいお姉さんじゃないのかな?もしかして何か裏の顔でもあるのかな?
結局、大地先輩のお姉さんの事を聞き出せず、生徒会長の話も終わり入学式が直ぐに終わってしまった。
「あ、そうだ!今後とも男として色々と話し合うこともあると思うから、コトダマで友達にならないか?」
大地先輩がいい提案をする。
「いいですよ。コトダマですね。」
俺は新品のスマホをポケットから取り出した。このスマホは高校生になったのでお母さんから買ってもらったもので、真っ白なデザインだ。
そして、コトダマとはスマホを持っているほぼすべての中、高生や大人も利用している人気のアプリのことで友達登録をしておくと無料でお手軽に話がし合えるという便利な連絡アプリだ。
大地先輩からコトダマのIDを教えて貰い、コトダマのID検索にそれを打ち込み追加のボタンをタップした。
ピロリン♪
「よし。出来たな。」
友達登録が完了した。俺の初めての高校でのコトダマ友達が男の先輩になるなんて思いもしなかったけど良かった。
凄く嬉しい。
「僕は最近スマホを持ち始めたばかりで、まだ全然使い方が分からないから、返信が遅れるかもしれない。」
「そうなんですか。あ、俺もですよ。」
俺だってまだスマホを持ち始めて数日しか経過していない。それに、元から機械は苦手だ。
俺は時間を確認した。
「あ、時間だ。すいません教室に行かないと、クラスのオリエンテーションが始まってしまうので……」
「うん。わかってるよ。一応先輩なんだ困ったことがあったらなんでも気軽に声をかけてくれよ。」
「ありがとうございます。それでは…」
俺はモニタールームを出て、少し早歩きで教室に戻った。
☆☆☆
「すみません遅れました。」
そう言って俺は教室に入り、自分の席に着く。
あ……やっぱり、女の子しかいないんだな。
改めて思う。
「全然大丈夫です。今は自己紹介をしていて最後は、あなただけですよ。」
そう奈緒先生から言われた。
最後って……マジか。俺みんなの自己紹介聞いてないんだけど……
俺はゆっくり立ち上がり、その場で自己紹介を始めた。
「えっと、名前は、神楽坂 優馬って言います。
ずっと家にいたのでルールとかよく分からないことが沢山あると思うけど……えっと……よろしくお願いします。」
ずっと考えに考え抜いた完璧な自己紹介の挨拶は、緊張のせいで頭が真っ白になり、ただの陰キャのたどたどしい挨拶になってしまった。
俺は落胆しながら座る。
クソ……っ悔しい。何事も最初が重要だったのに、それを逃してしまった。
パチパチパチ、と拍手が起こり俺の自己紹介が終わったが、やり切れない気持ちでいっぱいだった。
「皆さん、我が3組には、国の宝である男の子が来てくれました。おそらく優馬君はこの高校で婚約者を決めるつもりだと思うので全員にチャンスがあると思ってください。なので優馬くんを取り合ってケンカなどしないこと。それに優馬君に迷惑をかけないこと、これだけは絶対に守ってください。もし優馬君にケガをさせたりでもしたら法律で重く、厳しく裁かれますから充分に気をつけてください。」
奈緒先生は最後に厳しいことを言ったので教室は静まり返る。
今日は入学式と教室でクラスのオリエンテーションだけなので奈緒先生がしばらく高校の話をして今日は終わりになった。
☆☆☆
放課後……
「よし。帰るか。」
別にやる事も無いので帰る事にした俺は席を立とうとする。
でもその前に……
「あの……優馬君?もし、よかったらだけど……コトダマで友達交換しない?」
「私も。」
「私もいいかな?」
「私もいい?」
教室にいたほぼ全ての女の子達が俺の席に集まっていて声を掛けられた。よく見ると数人は来ておらず、その中に雫も入っていた。
「う、うん。全然いいよ。ちょうどコトダマの友達がいっぱい欲しかったんだ!」
俺のコトダマ友達はお母さんとかすみさん、それにさっき交換したばかりの大地先輩しかいない。妹の茉優とはまだ交換していない。
俺はコトダマのIDを皆に教えた。
もちろん、拡散しないことを条件にだけど。
すると、俺のスマホから着信音が沢山鳴った。
クラスの皆が一斉に俺のIDを検索したためだろう。
そして、一気にコトダマ友達が32人も増えた。
おー、なんかいいな……と満足する俺。
──ピロリン♪
そんな中、1回だけ着信音が鳴り、確認するとお母さんからのメールだった。
“優くん学校はどうだった?楽しかった?学校には直ぐに馴染めそう?お母さんは優くんがずくに馴染めることを信じてるよ。今日はもう終わったぐらいだよね。すぐに帰ってきてね。お母さん、心配で心配で今すぐ優くんと合わないと、高校に行っちゃいそうだからね!それと、優くんに渡したいものがあるから。お母さん待ってるからね。ずっと待ってるからね。ずっとずっと待ってるからね。
………………By お母さん”
かなり長い文章で送られて来た。うん……これは早く帰らないといけないな。じゃないとお母さんがおかしくなっちゃいそうだ。……いや、訂正。元から少し天然で奇想天外だけど、更におかしくなっちゃいそうだ。
「ごめん皆。ちょっとした、用事が出来きたから帰るね。」
「うん!また明日ね優馬君。」
「バイバイ。優馬君。」
「またね♪」
俺の席に集まっていた女の子達に断って、俺はカバンを持ち教室を出た。
そこから急いで家に向かった。
歩きでは20分ぐらいかかる家までの帰路だが、俺の全力ダッシュだったら15分くらいで家に着くはずだ。
俺の予想通り、15分程で家に帰ってこられた俺。
──ガチャ。
家の門を潜り、家に入った。
「ただいまー。」
家にいる人に聞こえるように大きめの声で言う。
「おかえりぃぃー。優くんっ!!!」
「ぐはぁっ。」
お母さんが俺が入った瞬間に飛びついて来る。何とか倒れずに受け止められたが一瞬気づくのが遅かったら頭から地面に落ちてケガをする所だった。
危なかった……と冷や汗が垂れた。
「う、うん。ただいま。それで、俺に渡したい物があるってメールで言っていたよね?それって何なの?」
俺は早速本題に入る。
「うん。優くんには安全に学校生活を送って貰うために特注でGPS付きの時計を買ったの。」
そう言ってお母さんは紙袋を渡してきた。
「初期設定はお母さんがしておいたから後は優くんで好きに設定してね。さぁ、そろそろ昼ご飯よ、早く着替えて一緒に食べましょ、優くん!!」
「わかった、ありがとうお母さん。」
プレゼントが、すごく嬉しかったので笑顔で微笑む。
今に俺にはこれぐらいしか出来ないけど、これで感謝の気持ちが少しでも伝わって欲しいと願う。
「くぅっっっっ。その一言で明日からも仕事頑張れ
るぅぅぅ。」
俺のために買ってきてくれたんだお礼をするのは当たり前だ。でも、たったの一言で頑張れるなんて相当な親バカなんだなお母さんは……
そこからかすみさんの作ってくれた料理をお母さんと2人で食べた。和食料理で美味しかった。
茉優は学校でその場にはいなかった。
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