男がほとんどいない世界に転生させられたんですけど………どうすればいいですか?
かえるの歌🐸
転生&雫 編
第1話 転生
俺は鈴木
無難な高校受験をし、何とか合格して中の中くらいの高校に入り高校生活を過ごしていた。
友達は数える程しかいなかったが友達がいなかった分、勉強や部活に費やしたので学力では中の上くらいをずっとキープし続けることはできた。部活はサッカー部に入っていて高校1年生からずっと猛練習をしてきたことが実を結び、やっとレギュラーに入ることができた。ここのサッカー部はかなりの強豪校だったのでレギュラーに入れた時は心の底から嬉しかった。
女の子と付き合ったりする甘い青春では無く、汗を流して頑張る熱血の青春を送っていた。
今日の部活も終わり俺は自転車に乗ってのんびり家に帰っていた。家から高校までは3キロくらいで20分くらいで着くくらいだ。
サッカー部の練習は強豪校な分かなりハードだ。それが毎日続きいつもヘトヘトだ。
あー、今日も頑張った。明日も明後日も明明後日も全力で頑張っていくぞ!!来週には大きな大会もある。頑張らなければ……
そんな事を思い、気分よく自転車をこいでいる時だった──
信号は青というのはハッキリと覚えている。そのため、俺はゆっくりと自転車をこぎ信号を渡っていた。
自転車は最近買った最新のクロスバイクだけど、漕ぐ力が弱いのでそこまでの速さは出ない。
「──────おい、危ないぞ!!」
唐突に、俺の後ろにいた歩行者のおじさんが叫んだ。
俺がその声に気付き、瞬時に右を見た瞬間。
「──えっ……」
俺は自転車ごと宙を舞っていた。
大型のトラックが信号無視で俺に突っ込んだのだ。
数十メートルは吹っ飛んだのだろうか……そんな事は分からなかったが、ガードレールに強く激突してやっと止まった俺はゆっくりと意識が無くなって行く…………
もう体には痛みすら感じず、指1本も動かすことが出来ない。声を出すことすらも出来なかった。
「……………………………っ。」
あぁ……俺は……死ぬ……のか……やっと。やっと。サッカー部のレギュラーになれたのに……やっと……学校も充実してきたと思ったのに……俺の人生はまだまだこれからなのに………なんで……俺が……
視界が赤くなり、狭まっていく……
そこで俺の意識はパタリと閉じ、魂が深い闇に沈む感覚が体を支配した。
☆☆☆
(やっほー。起きたかい?)
「……え?」
俺は気付いた時には、真っ白な空間にぽつんと1人で立っていた。まるで、初めからそこにいたかのように……
そして、頭の中に性別は女よりの高めの声が直接聞こえて来る。
「っ……なんなんだ?」
俺は酷く取り乱す。
事故の事を思い出したからだ。
(まず、落ち着こうか。)
その声が頭に流れると同時に何故か心が落ち着く。なぜかは分からない。不思議な感覚だった。
(ふぅ、落ち着いたね。じゃあ、どうして君がここにいるのか、私から説明させてもらうよ。と言っても、わかってると思うけどね。
君は不慮の事故で人生を終了したんだよ。享年17年だ。合ってるかい?)
確かに俺は大型のトラックに跳ねられて死んだ。今、思い出すだけで身震いがする最悪な経験だった。
「は、はい。」
声を腹の底から押し出した。それでも本当に小さな声だった。まだ、自分が死んだことを信じられないのだ。
(混乱するのもしょうがないね。
あ、そうだった。一応、自己紹介をしないとね。姿は見えないけど私は“神”というものだ。)
「は……はぃ?」
ちょっと頭がついて行かないんですけど……
「神?ってあの神…………の事ですか?」
今は頭が大混乱しているのに、神という言葉で更に俺の頭がごちゃごちゃになった。
(そう!髪とか紙じゃない。正真正銘本物の純白の神様だよ。すっごい偉いんだよ。)
姿は見えないけど、絶対偉そうな態度をとっているのは何となく想像できた。あまり、興味は無かったけど。
「じゃあどうして死んだ俺をこんな所に呼んだんですか?」
俺は死んだんだだったら普通は天国とかに行ってるんではないだろうか?それともこういう感じなのだろうか?まぁ、そんなの分からないけどね。
1回自分が死んだことを認め、これからの事を話す俺。どうしてここまで冷静になれたのかは、分からない。
(説明するけど、君は後悔をたくさん残して死んだ。そういう死に方をするとね、悪霊になったり怨霊になったりして現実世界にホコリのように溜まりこびり付いて、残留してしまう可能性が少なからずあるんだ。
それは現実世界の人々にも神である私にもすごくすごく、迷惑を掛けるんだよ。そういう時に、私がここに魂だけを呼び出して特別に転生させて新しい生活を送ってもらうという特別措置を取っているんだよ。)
確かに俺はたくさんの後悔を残して来た。悪霊とかになってもおかしくはないと思う。自分でもそんな気がした。
(それじゃあ転生させていいって事かな?もし拒否するのなら私が強制的に君を魂ごと浄化させてこの世から完全に消滅させるしか方法はないんだけど……どうする?決定権は私には無い。決めるのは君自身だよ。)
それって……選択肢は1つしかないよね。
でも……もう俺は……いや………これからだ!
「転生で……お願いします。」
俺は頭を下げてお願いした。
(わかったよ!それじゃあ君を新たな世界に転生させるよ。君の記憶は特別に残したままで転生させてあげるから感謝するように。
それと、転生だから赤子からの再スタートだけど精々頑張ってね。応援はしているよ!)
「はい。まぁ……一緒懸命頑張ってみますよ。」
記憶を残してくれるのはとてもありがたい。
……もう切り替えて新たな世界でも楽しくやろう。
俺は心の中でそう思った。
そう思う事しか今の俺には出来なかった。
さて、俺はどんな世界に転生するのだろう。
ファンタジーの世界なのか?それとも、世紀末とかか?それとも俺の予想出来ない異次元な世界なのか?そんな事に期待と不安で胸を膨らませていたら、意識がどんどん無くなっていく気がした。
この感覚は、俺が死んだ感覚と近い。
「あ……れ……?」
数秒後完全に俺は意識が無くなった。
☆☆☆
和也が意識を失って数秒後。
和也の体が光を帯び始め、粒子となって虚空に消えて行く。転生が始まったのだ。
それを見ながら、神は願う。
(頑張ってね。君が転生した世界はなかなかすごい世界だ。君なら絶対に大丈夫だと私は信じるから。)
☆☆☆
深夜遅く…………ある大きな豪邸の一部屋。
そこには、2人の人間がいた。
1人は妊娠の痛みに耐える女性。もう1人はそれをサポートする女性だ。
「おぎゃあぁ。おぎゃあぁぁぁっ。」
そこに元気な“男の子”が生まれた。
「生まれました!……っ!?し、し、しかも……男の子ですよ!」
「お、男の子!?や、やったわ!この子が、私の子供なのね。嬉しいっ!」
母親は呼吸を荒くしながらも優しく毛布に包まれた赤子を抱いた。母親の差し出された手に赤子は小さい手で力強く握り返す。
うっ、生まれてすぐ意識は……あるんだな。でも、目が見えない。それに体がほとんど動かない。俺は何もする事が出来ないのでとりあえず大声で泣くことにした。
☆☆☆
そこから数日経過した。
俺は目がうっすらと見え始めていて、耳もだいぶ聞こえるようになった。
明らかに成長速度がおかしいのは、俺が転生者だからである。
俺の新たな名前は神楽坂
今、俺はオムツを履き揺りかごで横になって寝ている。まだ産まれたばかりの赤ちゃんなので上手く体が動かせないし「あーあー。」ぐらいしか言葉を発することしか出来ない。泣くことでしか親に何かを伝えることが出来ない。赤子のどうしようも無い気持ちがわかり言葉の大切さを改めて知る事が出来た。
いくら頭は高校二年生だと言っても体はまだまだ赤ちゃん。なのでオシッコがしたくなったら止めることは出来ないしお腹が減ったら我慢も出来ない。1番辛かったのはうんちをしてしまった時だ。しょうがないのかもしれないがついつい高校二年生になって漏らしてしまったと感じてしまいお母さんに申し訳ない気持ちになった。その度に俺は大声で泣いてしまいお母さんを呼んだ。
お母さんは俺の事を優しく大事に育ててくれた。
そこから数日経つとやっと目がしっかりと見えるようになってきた。お母さんの顔は一体どうなのかとドキドキしながら見てみるとびっくりするほど美人で一瞬女優さん!?かと思ってしまった。父親の顔も見たくてしばらく待ってみたけど……そこから数日たっても父親が現れる事は無かった。
☆☆☆
転生して1歳になった。俺はもうオムツを卒業して普通にトイレに歩いて行っていた。声も少しだけ出るようになって試しに「お母さん。」と呼んでみた。ここは恐らく日本だ。だって日本語を使っているのだから。なので俺は普通より早く言葉を喋ることが出来るようになった。それでお母さんは呼ばれた瞬間、感動して俺に抱きついてきた。お母さんは美人なので普通に嬉しいし頑張った甲斐があった。
そしてそこから数ヶ月後に俺に妹が生まれた。初めての妹だ。妹の寝顔を見るととても癒された。かわいすぎる。絶対大人になったら美人になるなと直感でわかった。妹の名前は神楽坂
☆☆☆
茉優が生まれてから数年が経過し、今の俺は5歳。もうすっかり言葉がすらすらと話せるようになった。茉優も成長し4歳でもう既に可愛いすぎる。服も子供用のドレスみたいな服を着ていたので余計にだ。茉優も俺にすごく懐いてくれていて、いつも「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」と言い俺の隣にいてくれる。
初めて茉優が発した言葉も「お兄ちゃん。」だ!!
もう幸せだ。転生してよかったとも早々に思う事が出来た。
そんなある日、たまたまテレビがついていた。そう言えばこっちの世界でテレビを見たのは初めてな気がする。俺はどんなニュースをやっているのか疑問を持ったのでちゃっかりテレビを見てみた。丁度そのときはニュース情報の番組の時間だった。
席に座っているのは女のニュースキャスター。
隣にいる、解説役の人も女性。専門家みたいな人も女性。画面に映る全ての人が女性だった。
それなりに美人なのは当たり前だ。
「ニュースの時間です。今日はなんと1人の男の子が生まれました!!これで今年産まれたこの国の男の子は500人となりました。今日は皆さんで盛大に盛大に喜びましょう!!」
ニュースキャスターは興奮しながら言った。何故かとても喜んでいるようだ。
は?何を言っているんだこのニュースキャスターは?たかが男の子が生まれただけで喜びすぎな気がした。それに最後の方に言った「これで今年産まれたこの国の男は500人となりました。」という言葉が意味不明だった。普通、人類の半分くらいは男がいるんじゃないのかな?
なにか……おかしい。
っていうか、いくらなんでもおかしいぞ。俺はリモコンを小さな手で巧みに扱い、次々とチャンネルを変えてみる。やっぱり、おかしい。おかしいぞ。テレビに映るのは全て女性ばかり、何でどのチャンネルにも……男がいないんだ…………!?
俺は気になってお母さんに聞いてみた。
「お母さん……………男の人がいないよ?どこに行ったの?」
まだ難しい言葉を使ったりすると不審がられたりするかもしれないと思って子供ぽく尋ねてみた。
お母さんは少し驚いた表情を見せ、何かを決心したのか話してくれた。
「優くん。心して聞いてね。今からとっても大事な話をするから。」
「うん?いいよ。」
お母さんの顔色は代わり真剣な表情になった。そんな初めて見るお母さんの表情に少し驚き、俺はどんな話をされるのか、かなり不安になった。
数秒の間を開け、お母さんは口を開いた。
「昔からね。優くんみたいな男の子が圧倒的に少ないの。理由は何だかわからないのだけど数百年前から突如として男の子が生まれて来なくなったのよ。今でもその現象が続いるの。つまりね、優くんはとーっても貴重な存在なの!!!」
お母さんは俺を優しく抱きしめて言った。
「え?」
俺は転生をするとか言われた時と同じくらい頭が真っ白になって何も考えられ無かった。
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