第164話 ボス令嬢、暴走の前触れ

「エマさんは算術が得意なのね、私は苦手なの。」

「私は千寿ちずと違って算術が好きなの。」

放課後、家からの迎えを待ちながら宿題をしていると千寿ちずが算術が苦手であると打ち明けてきた。双子の片割れである佳寿かずは算術が好きらしい。

「双子でも苦手なものは違うのですね。」

千寿ちずさんは素晴らしい絵を描くではありませんか。」

ボス令嬢、麗華れいか千寿ちずの長所を指摘する。

「お二人のお家は素晴らしい小物を作られているでしょう。創作の才能とご商売の才能をそれぞれ受け継いだのではないかしら?」

「それは素敵ですね。」

双子って感じです!とエマが楽しそうだ。

「エマさんは時間をかけて取り組むタイプなので、計算問題も焦らず諦めず、じっくりと取り組むので算術に向いているように感じます。千寿ちずさんも真似してみたらいかが?」

「くすくすくす。」

佳寿かずちゃん?」

千寿ちずにエマさんの真似は無理よ、とても短気なのだから。くすくす。」


双子の話で盛り上がっていると、式部がエマを迎えに来た。

「あ!式部ちゃんが来ました。麗華れいかちゃん、千寿ちずちゃん、佳寿かずちゃん、また明日!」

「ごきげんよう、エマさん。」



「…千寿ちずさん、佳寿かずさん。」

エマを見送った後、ボス令嬢、麗華れいか千寿ちず佳寿かずに向き直る。

「エマさんは、お父様のお仕事の都合で一時的に横浜に滞在されているでしょう。」

「ええ。」

「そう聞いているわ。」

「いつか必ずお別れしなければならないなんて淋しいわね…。」

麗華れいかさん…。」

「鬼の目にも涙ね。」

「だから私、やるわ!」

「何を?」

「エマさんが、いつ日本を離れても良いようにビシバシ鍛えるつもりよ。エマさんが日本の貴婦人としての嗜みを身に着ける機会は、今後ないかもしれませんもの!」


ボス令嬢、麗華れいかが暴走しそうな予感に顔を見合わせる千寿ちず佳寿かずだった。

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