第64話 象はともだち

閻魔大王の目の前に二頭のフェンリルがお座りしていた。

「確かに・・・ちょっと舐め過ぎたかもしれませんが・・・・。」

「けっしてエマちゃんをないがいろにするつもりは・・・。」

二頭とも巨大な身体を丸めて、耳を倒し、お目目ウルウルで悲しそうだ。

閻魔大王が腰に両手を当てて二頭を見下ろしている。


エマがポテ腹に落ちてきた日、ひどく傷つき泣いていた。あの日のエマの泣き顔が浮かび、つい厳しい目で二頭を見てしまう。


「以前からエマちゃんを地獄に迎えたいと思っていたの。せっかくの機会なのでしばらく滞在してもらうつもりよ。」

閻魔大王の代わりにガネーシャが言う。

「そ、そんな・・・。」

「エマちゃんはまだ学ばなければならないことも少なくないし、魔界ランドなら教育体制も整っているし・・・・。」

二頭が食い下がる。

「・・・・今はまだエマちゃんが帰りたがらないと思うの・・・。」


ショックを受けた二頭が「ガーン!」という文字を背負っている。

「ひんっ・・・・エンマ・・・・・・・エンマ・・・・・・ひんっ・・・・。」

ダモフェンリルが悲しそうな顔つきでポロポロと涙をこぼす。

動物好きな閻魔大王とガネーシャの胸が痛む。


いやいやいや!あの日のチビの涙を思い出せ。チビが帰りたいと言い出すまで保護するのが儂の役目だ。

ぎゅっと目をつぶり、ぷるぷると顔を振って、決意を新たにする。

「ね、ねえ。水鏡でエマちゃんの様子を見るくらいならいいのではないかしら?」

ガネーシャが日和った。

「そ、そのくらいなら・・・こっそりな、チビにばれないように・・・。」

閻魔大王が水鏡を出すと二頭が身を乗り出す。


映像と音声が繋がった。


「うわあああああん!来ないでくださいいいいいいいい!!!!」

エマが泣き叫びながら象から逃げていた。

「エ、エンマ!エンマーーーーー!!!!」

「エマちゃん!上じゃ!上!お空に逃げなさい!!」

泣きながら走って逃げるエマの映像に必死で呼びかける二頭と、瞬間移動で消える閻魔大王とガネーシャ。


「エラワン!ジャンボ!ステイ!」

ガネーシャのコマンドで二頭の象が停止した。

「グッジョーブ!グッジョーブ!」

褒めるコマンドもセットだ。

ジャンボと白い象のエラワンはガネーシャのペットで躾もばっちりだ。


ポンポン。ポンポン。

「ひっく・・・すんっ。」

エマと子猫たちを掬い上げて宥めるように背中をポンポンするとエマが泣き止んだ。

「ちび、あの二頭はガネーシャのペットなのだ。ちびと仲良くなりたかったようだぞ。でも大きくて驚いたな、追いかけられて怖かったな。」

ポンポン。

「すんっ。」

ポンポン。


ガネーシャの横で二頭が尻尾を振ってお座りしている。デロンとピンク色の舌を垂らす表情が可愛い。何かを連想させるが、あえて思い出さない。


「あのね、エンマちょっとびっくりしたの。泣いてごめんね。」

こてんと首を傾げながら、象たちに「ごめんね」と話しかけると、さらに尻尾がふられる。

「あの子たち、エマちゃんとお友達になりたかったみたい。」

「二頭とも、まだチビなんだぜ。」

「そうなの、まだ生後一年も経っていないの。」

ジジとマリーにガネーシャが答える。

「お友達になってくれますか?」

象たちの顔が期待に輝く。

象たちとエマが和解した、いきなり仲良しだ。


怖い思いをしたエマを連れ帰るつもりでいたのに・・・予想外の和解に、一部始終を水鏡で目撃していたカールとデイモンが撃沈する。

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