第52話 魔界でピクニック

魔界に秋がやってきた。

今日はカール一家と唄子とヒース夫妻、モテないトリオとケルベロスでピクニックにやってきた。裏山できのこを取ったり、栗を拾ったり、ごはんを食べたりするのだ。


「ダモ!あっちにも栗の木があります。」

お昼ご飯を食べる場所だけ決めており、ゆるゆるとそこに向かっているのだが、子供たちが元気だ。

出発するなり右に左に走っては木の実やキノコを採取している。

採取したものはインベントリに収納しておけば手ぶらで済むので身軽だ。


モテないトリオと一緒の子ケルベロスも嬉しそうだ。

シスコンなモレクの子ケルがケリー、鬼畜眼鏡なイブリースの子ケルがベル、ラッキースケベなアルコンの子ケルがローズだ。

ケリーとローズはおっとりしていてキャラ被りで、ベルだけが勝気な性格だ。

子ケルたちはエマとデイモンに負けないくらい、あっちにこっちに駆けまわっている。


「きゃあ、ダモ!ヒール!エクストラヒール!」

地面に横たわり、四肢をピクピクさせたデイモンにエマが癒しの魔法を重ね掛けする。

「モンたん!」

驚いたカールとダイアナが駆け寄ると、むくりと起き上がった。

「いやあ、これは失敗でしたねえ。」

「モンたん、いったい何があったのじゃ?」

心配顔のカールとダイアナがデイモンを覗き込む。

「鑑定魔法を使わずに美味しいきのこを沢山集めるチャレンジです。正解は食べて確かめるんですが、失敗しちゃいました。連続正解記録も5で終わっちゃいました。」


「・・・・・ばっかもーん!」

可愛らしくテヘペロする孫フェンリルに雷を落とす。

カールとダイアナに叱られ、項垂れるデイモンとエマ。


『ベニテングダケをたべていたわ。』

『だいひょうてきな、どくきのこじゃない。』

『フェンリル族ってバカなのかちら?』

『天使族もバカなのかちら・・・』

『わたちたちは真似ちないようにちまちょう。』

子ケルたちがデイモンとエマを冷たい目でみていた。


ケロリと復活したエマとデイモンが再び、右に左にと寄り道する。

今度は鑑定魔法を使っているようだ。


「さあ、着いた。ここでお昼にしましょう。」

水場の近くに拠点を定め、インベントリからテーブルや椅子、敷物を出して並べる。唄子はピザ窯を取り出した。


「エマちゃんとモンたんはジュースな。」

大人たちが早速ビールで乾杯を始めた。

飲みながら食事の支度をするらしい。

ダイアナが肉の塊を焼く隣でフェンリル姿のカールが肉塊を見つめる。

旬の食材を乗せたピッツァを次々と釜に入れる唄子。

インベントリから取り出したサラダや前菜を並べるヒース。

あっちこっちを冷やかすエマとデイモン。

飲み物担当はモテないトリオだ。用意した盥に泉の水を張り、ビールやワイン、サングリアを冷やす。もちろん子ケルやダモエマ向けのソフトドリンクも忘れていない。


「焼けたよ!どんどんカットしとくれ。」

釜から出したピッツァを並べる唄子、モテないトリオアがピザカッターで8等分にしてゆく。

前菜やサラダもいきわたっている。


「乾杯!」

「いただきます!」

ダモエマが真面目に採取したキノコのピッツァだ。

「もっ!もっ!もっ!」

たっぷりと乗せられたチーズが伸びて困った。

「美味しいです~!」

「エンマの取ったキノコ、美味しいですね~」

デイモンはすでに2枚目だ。

「次が焼けたよ、どんどん食べておくれ!」

ピッツァ、サラダ、お肉を2周するとエマはもうお腹いっぱいだ。

エマはもう食べられないが、みんなはまだまだ食べ続けそうだ。エマ一人、この雰囲気に乗り遅れるのは残念過ぎる・・・・そう思って隣を見ると、まだまだ食べ続けそうなデイモンが見えた。


「はい、あーん。」

「あーん、もぐもぐもぐ。エンマ、次はソーセージを食べたいです。」

フェンリル型デイモンに食べさせることで食事に参加することにした。

愛するエマが給餌してくれてデイモンも有頂天、食事に参加してエマも満足、Win-Winな関係だ。



出発からずっとはしゃいでいたエマは電池が切れるようにお昼寝した。フェンリル姿でお昼寝するエマを抱えていたデイモンも一緒に眠ってしまった。

モテないトリオは子ケルたちを連れて散歩に行った。普段充分かまってやれない分、今日は遊んでやるのだと張り切っている。



「源氏の里で過ごす休暇は、ずいぶん楽しかったようだねえ。」

「そうなの、レティは相変わらずレティだったようなんだけど薫君が大人だし、レティは光さんの言うことならきくから・・・。」

唄子の問いかけにダイアナが答える。

「デイモン君がエマちゃんに出会った時と同じくらい小さい時に、レティちゃんは光さんに出会ったんだよね?」

「そうなの・・・何度も家出をして光さんに会いに行って・・・。」

「その度に、野犬センターで保護されて・・・。」

ヒースの問いかけにカールとダイアナが恥ずかしそうに俯く。

「いろいろやらかしたけど、光さんがレティを気に入ってくれて・・・光さんが犬好きでよかったわ・・・。」

「レティが無茶をする度に、オワタ・・・レティの恋・・オワタ・・・と胃を痛めたものじゃあ・・・。」

カールとダイアナが遠い目をする。


「でも朱雀君が光君とレティちゃんはベストカップルだって言ってたよ。」

「それが不思議なのよねえ・・・。」

「そうじゃなあ・・・。」


「でも、今日デイモン君が毒キノコを食べてピクピクしているのを見た時には、ああ、レティちゃんに似ているなあって思ったよ!」

鑑定せずに匂いも確かめず、目の前にあるものに食いつくというのは、いかにもレティのやりそうなことだ。

ヒースの感想にカールとダイアナが遠くをみる。


ちなみに、唄子とヒースの娘のちよ子は、光の兄の朱雀と結婚しており、唄子とヒースの孫であるキースはデイモンや薫の従兄弟にあたる。



モテないトリオと子ケルが戻ったころ、ダモエマが起きた。

エマが子ケルたちを可愛いとかまっているところにデイモンが声を掛ける。

「エンマ、そろそろ風が出てきたからカーディガンを羽織りましょう。」

カーディガンを広げて見せるが

「やだ。エンマ寒くないもん。」

プイっと拒否された。

「この空色のカーディガンを羽織ったエンマは、それは可愛らしいのに・・・。」

可愛い?

エマはカーディガンを着た。すぐに着た。


「ちょろいな。」

『天使族ってちょろいわね。』

モテないトリオと子ケルたちが同じ感想を抱いた。


楽しいピクニックだった。

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