第50話 勇者、お土産をもらって帰還する
「立派なじゃがいもっすね!」
予定していた収穫の日と勇者の滞在が被っていたが問題ない、なぜなら勇者が収穫を手伝ってくれるから。
ヒースが魔法でおおざっぱに畑をえぐり、風魔法で泥の塊を落とすと、エマが水魔法で空中に作った水球でじゃがいもを洗う。
デイモンが魔法で大きなザルを空中で操る。目の粗いザル、中くらいのザル、細かめのザルの三層でサイズを振り分け、魔法で樽に移す。
おおざっぱな3人の作業から漏れたジャガイモを勇者が堀って、洗って振り分ける。3人と比べてかなりの重労働だが楽しそうだ。
「収穫っていいすね!うちサラリーマン家庭だったんで、こういうのしたことないんすよ!」
勇者が爽やかに笑った。
「でも、こんなに収穫してどうするんすか?」
食べきれないでしょ?と勇者が不思議そうだ。
「これは魔王軍の賄いになるんだよ、先週収穫したにんじんとたまねぎと一緒に届けに行くんだ広治君も一緒に行こう。」
ヒースに誘われてリヤカーで野菜を運ぶ。
「なんか、全然重さを感じないんすけど・・・?」
「エンマの補助魔法です!」
広治の目の高さでホバリングするエマが胸を反らせる。
「補助魔法というのは、文字通り作業を助ける魔法だよ、この場合は重さを軽減させているね。」
「すっげえ!いいな、こんな魔法が使えたら、じいちゃんやばあちゃんが助かるのに、俺には覚えられないかな?」
「うーん、これは適正次第なんだよね、残念ながら広治君には魔法の適性がなさそうだよ。」
そっかー!と、勇者は明るかった。
「たーのーもー!」
ヒースの呼びかけで開門され、獅子や虎の獣人や、見るからに強くて邪悪そうな魔人族や悪魔族の集団が現れた。
「ヒースさん、お疲れっす!」
「お疲れっすー!」
「野郎ども!福神漬けは買ったか?」
「10㎏買いました!」
「調理当番!うまいカレーを頼むぜー!」
「おおー!」
怖い顔の男たちが、カレー♪カレー♪と浮き足だっている。なんならちょっとスキップしている。
「皆さん、強そうっすね!」
勇者は怖いもの知らずだった。腰に剣を挿した怖い顔の男たちに興味深々だ。
「手合わせしてみるか?」
「いいんすか?!ぜひ!俺、子供の頃から剣道をやってて、本物にこてんぱんにされてみたいなって思ってたんす!」
勇者は悪魔軍の猛者たちと約束の握手を交わした。
魔王家も今日の夕食はカレーだった。
「自分で収穫した野菜を食べるなんて、すげえ贅沢っすね!」
大喜びの勇者は二回おかわりした。
夕食後の団らんで、勇者はカールとダイアナに挟まれ、一家のアルバムを見ていた。
「これは生まれたばかりのモンたんじゃな!」
「よちよちしてて可愛かったのよ。」
「これはエマちゃんと初めてのデートじゃ。」
同じくらいの身長の可愛らしい二人が手を繋いでいた。
「いいっすね!幼馴染で両思いでそのまま結婚っすか?」
「・・・・・・・・。」
「あれ、俺なんか変なこと言っちゃいましたか?」
「ううん、そうじゃないの。モンたんはフェンリル族だから番がわかるの。モンたんにとってパートナーはエマちゃんしかいないの。でもエマちゃんは番の習慣のない天使族でしょう?将来、恋人同士になっても別れるかもしれないし・・・。」
勇者が隣のソファを見ると、ぴったりとくっついてタブレットで2ショットを自撮りし、写真加工アプリで加工しては「エンマかわいい~」「ダモこそ、かわいい~」と、いちゃついていた。
「いちゃラブっすよね?」
「広治君はそう思うかの?」
魔王様の耳がピコンと立った。
「はい。俺も幼馴染がいて、ずっとつかず離れずな距離感だったんすけど俺が大学で東京に引っ越す時に思い切って告って、付き合うことになって。
幼馴染って、なんかこうきっかけが必要なんすよね。桃子も、あ、彼女の名前が桃子なんすけど、桃子もずっと言いたくて言えなかったって言ってました。教員資格取ったら地元に帰って結婚します!」
勇者が爽やかに宣言した。
爽やかな勇者は使い魔たちと教育について熱く意見を交わし、唄子から料理を学び、魔王軍と手合わせをし、充実のホームステイを終えた。
「お世話になった上にお土産までいただいちゃってすみません。」
ペコリと勇者が頭を下げ、お土産のメロンとマンゴーを持って人間界に帰還した。
今回の勇者も、一度も魔王と戦うことなく帰還した・・・。
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