【共犯者たちの企み(No.16.1)】
「さて、じゃあどうやってアンクの『
パトレシアとナツと私で3人、輪になって私たちは計画を立てた。
「どうする、天罰行っちゃう?」
「そんなラーメン屋行くみたいなノリで……」
「パトレシアさん、それは危険が高いです。天罰に要する魔力は尋常ではありません。かのサティ・プルシャマナでさえ数回しか行っていない魔法です。今の私たちが使った場合、反動で瞑世の魔法が解ける可能性すらあります」
「……じゃあ直接行くとか」
「そちらの方が危険です」
神の代替物を現世に降臨させる。
サテ・プルシャマナがシスターサティとして、現世に降り立ったことは、彼女が招いた結果を考えても最大の悪手だった。
「代替物を現世に降臨させた瞬間に、神の座にいる私たちは睡眠状態に入ります。無防備な状態で
「そっか、今度は自分たちが狙われる危険性があるってことね」
「そういうことです」
「あー、もー神さまって面倒臭いなー!」
ナツはイライラしたように自分の頭をガシガシとかいた。
「もっと、バシーンとか。ドカーンと行かないものかなぁ」
「ですから、女神もわざわざ英雄を降臨させたのでしょう。自分ではいけないから、他人を使った。今考えると非常にエコな手段です」
女神の行動にはかなりの制限がある。
世界を成立させる存在として神の座を守ることが、第一級の使命と考えた方が良いだろう。
「そうなると、アンクが『
「……こうなったら誘いに乗りますか」
「誘いに乗る?」
パトレシアが不思議そうな目で私を見つめた。
「でも、『
「はい、その代わりに神ではなくなる。神ではなくなりながら……神のごとき力を震える存在として一時ですが現世に立つことが出来ます」
「さっきのユーニアみたいに?」
「そういうことです」
『
「ですが、この作戦はお2人を危険に晒します。間に合わなければ、2人とももう1度死んでしまうことになります」
「へぇ……でも他に手はないんでしょ」
「私が思いつく限りでは……」
「じゃあ、それで決まり!」
パトレシアは手を打って、ぐっと親指を立てた。
「分かりやすくて良いじゃない。『
「気合が入るなぁ」
「……2人とも私のわがままに付き合わせてしまって、すいません」
私の言葉にナツは首を横に振って否定した。
「だから、『私たち』ね。ここまで来たらレイナちゃんとナツとわたしで一蓮托生、
「呉越同舟は少し違いますが……」
「いや恋敵っていう意味では、まだわたしたちの決着は付いていないもの」
パトレシアは軽やかにウィンクして言った。
「そうでしょ、レイナちゃん」
「私は別にアンクさまに恋だなんて、そんな……もったいない」
「え、違うの?」
「私は……ただ、あの人が楽しそうに笑って生きているのが嬉しいです」
彼の優しい笑顔が誰にも奪われることは、もうないのだ。
「なんか、それってあれね……」
パトリシアはどこか呆れたような顔で私を見て言った。
「ストーカーみたいね」
「すっ……!?」
「そうだね。変態だね」
「ナツさんまで……そんな……」
自分が変態だなんて思ってもみなかった。
もしかして自分はすごく間違ったことをしているのではないだろうか。急に不安が押し寄せてきた。
「なにぶん、そういうことには
「あはは、冗談、冗談。そんな毒キノコを丸呑みしたような顔しないで」
「悪い……冗談です」
「あ、怒った? ごめんごめん。まぁ、恋っていうのはすべからくして心の異常みたいなものだから、おかしくて当然だよ、大丈夫」
「励ましになっていません……」
ナツはぽんぽんと落ち込む私の肩を叩いて言った。
「そうね、私たちも異常。目的のためなら手段を選ばない」
「とりあえずアンクが『死者の檻』を解いたら、返り討ちにすれば良いかな。鍵を破られても力でねじ伏せれば同じ事なんでしょ」
「はい、
「よし、アンクたちとの全面戦争ね。そうなると、これしかない!」
パトリシアはコートの中から、大きなガラス瓶を取り出した。中には
ふんわりと香る臭いにナツが目を輝かせた。
「わー、ワインだ! どこで手に入れたの?」
「
「雑だね! でもとても良い! 待って、グラスなら私が作るから」
ナツが片手をひねるようにして回すと、綺麗なグラスが出現した。
そこにパトリシアが軽快にワインを注いでいく。鮮やかな紫が、グラスの縁で踊るように跳ねる。
「はい、レイナちゃんの分」
「わ、わたしですか。今は封印がありますので」
「良いから、良いから。アルコールなんてすぐに分解しちゃえば良いじゃん」
「決起集会だから、パーっと」
ナツとパトリシアが期待を込めた目で、こちらを見てくる。嫌な風向きにも関わらず……いや、だからこそ、明るく振舞う事が出来る彼女たちが眩しかった。
「い、いただきます!」
「そうこなくっちゃ!」
「じゃあ、今夜は呑みましょう!」
こうして夜も昼もない世界で私たちは、酒盛りを始めた。
時間の感覚がないので、どれだけ長く続いたかは分からない。何より彼女たちは底なしで、酒は無限大に出てくる。何を話していたのかはあまり覚えていないが、「アンクをこてんぱに返り討ちにする」ということで意見がまとまったのは記憶に残っている。
いつの間にか、私は平穏な眠りについていた。目を覚ましたときに、にやけた顔で眠る2人を見て、なんだか楽しい気持ちになった。
……そして、私がこういう感情のある存在でいられるのも残りわずかなのだと考えると、今度は寂しい気持ちになった。
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