最強クラン決定戦 本戦(9/10)
「……は?」
真っ二つに叩き折られた愛剣を見て、ゲイルが唖然とする。
「ふぅ。これで貴方は武器がなくなったわけだけど、まだ俺と戦いますか?」
覇国の切っ先をゲイルに向けながらハルトが尋ねた。相手の武器を破壊したわけだが、それでもハルトは油断しない。
世界の西側半分で彼が最強なのは、所有する剣が強いからではない。<限界突破>というスキルを保有し、わざわざ魔界へ遠征してレベル370までステータスを強化したというゲイル自体が化け物なのだ。
しかし彼は動かなかった。
「ば、バカな……。
現実を受け入れられなかったようだ。
30年かけて鍛えたという大剣、ヴァーミリオン。寿命が500年ほどある鬼人族のゲイルにとって、30年はさほど長い期間ということではない。しかしそれだけの期間ほぼ全てヒヒイロカネの塊を剣の形状にするためだけに費やしてきた。
心血注いだ製作物が無残な姿になり、放心せずにはいられなかった。
加えて言えば、ヴァーミリオンは悪魔すら両断可能な大剣だ。実際にこれまで3体の上位悪魔を屠り、世界の危機を救ってきた。悪魔の攻撃をヴァーミリオンで受け止め、身を守ったこともある。
悪魔の攻撃にも耐えうる武器が破壊されたなど、信じられるはずがなかった。
「ど、どうなっている? なんなんだ貴様のその剣は!?」
「この剣の素材は、貴方の大剣と同じヒヒイロカネですよ」
「ありえぬ!! この世界にヒヒイロカネでできた武器など、
「はい。これが覇国です」
実はこのゲイルという鬼人。世界最強と呼ばれるようになってから、自身にふさわしい武器を手に入れたいと考え、アルヘイムを訪ねたことがある。世界最強の剣と噂されていた覇国を譲ってもらえるようエルフ王に願ったのだ。
だが、エルフ王であるサイロス=アルヘイムは、その願いを退けた。
ゲイルは勇者ではなかったからだ。先代のエルフ王から覇国は勇者に渡すよう言われていた。それに当時は魔王が君臨していたわけでもなく、世界は平和だった。
ティナと並び最強と称されるゲイルに余計な力を与えるのは、世界の戦力バランスを崩壊させかねないと考えられた。そのためいくら彼が交渉しようが、エルフ王は覇国を渡さなかった。
そして、どうしても最強の武器を手に入れたいと考えたゲイルは悩んだ末、自ら造ってしまうことにしたのだ。
「ありえない。貴様が、勇者だとでもいうのか? ……いや、違う。その剣が相応しいのは貴様ではない! 俺は、あの御方以外が勇者であるなど、絶対に受け入れない!!」
絶望から一転、ゲイルの目には怒りの炎が宿っていた。
「覇国は俺が使う! あの御方から、この世界を託された俺が!!」
膨大な魔力を纏い、ゲイルがハルト目掛けて攻撃に出ようとした時──
「もう止めなさい、ゲイル」
ティナがやって来て声をかけた。
我を忘れかけていたゲイルの殺気が和らぐ。
「……ティナ様。お久しぶりです」
「はい、お久しぶりですね」
ティナに対して、何故か腰が低いゲイル。実は彼らは昔からの知り合いだった。互いに世界最強だから知り合ったというわけではない。もっと昔から、ふたりには面識があったのだ。
ゲイルがハルトを指さしながらティナに尋ねる。
「この男は強い。恐らく、今の俺よりずっと高みの存在だ。世界史最強だと言って良いでしょう。しかし、何故ですかティナ様! 貴女の伴侶となるのは、あの御方のはず!! 貴方だって、ずっと彼を待つと──」
「ふふふっ。だから、ハルト様なんです」
そう言ってティナがハルトの腕に抱き着いた。
「あの御方が異世界に戻られてから、私は何人もの男性に声をかけられました。100年も彼を待っていたんです。時には心が動かされそうになるくらい素敵なプロポーズをされたこともあります。でも私はそれを受け入れられませんでした。私の魂が、彼以外を拒絶していたんでしょうね」
「あ、あの、それはどういう意味で」
ティナがハルトの顔を見上げる。事実を話しても良いかと許可を求めていた。それに彼は軽く頷いて了承を示した。
「私がずっと待ち続けていた守護の勇者様は、再び人族としてこの世界に転生してこられました。それが、ここにいるハルト様です」
「お前が──い、いや。あなたが、守護の勇者?」
「うん、そうだよ。俺がつけた名前を今も使ってくれてるって分かったとき、凄く嬉しかった」
笑顔でハルトが答える。
彼は昔の様に砕けた口調で話した。
今からおよそ100年前、まだオーガであったゲイルに名前を付けたのは守護の勇者としてこの世界に来ていた西条遥人だ。その遥人が邪神によって強引に転生させられハルトとなった。
守護の勇者に名付けられたことをゲイルは誰にも話していない。その場にはティナもいなかったため、名前のことを知っているのはハルトが守護の勇者であること証明していた。
「あ、あぁ……。うあぁぁぁぁぁああああああ!!!」
世界最強と呼ばれてきた鬼人がみっともなく大粒の涙を流しながら、かつての恩人であるハルトたちに抱き着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます