最強クラン決定戦 予選(9/22)


「アイツら、負けたのに盛り上がってますね」


「えぇ。でも息子が精霊王様にもモテモテで、母親として鼻が高いわ。レオンも早く結婚しちゃいなさいよ」


「はいはーい」


 水の精霊王ウンディーネがハルトの家族になった場面を見ながら、アンナはニコニコしていた。一方、弟の嫁が増えたことで結婚を催促されたレオンは、適当に返事をしてその場から逃げ出した。


「カイにぃ。ウンディーネ様って、グレンデールの守護神的な感じじゃなかった?」


「そうだよシャルル。だから兄さんは今、すごく頭が痛い」


 ウンディーネがハルトと召喚契約を結んでいたことはカインも以前から知っていた。召喚契約ならハルト以外の者が召喚者になる可能性もなくはない。しかしそれが弟の家族になったと言うと、また話が変わってくる。


「あまり気にするなカイン」

「えっ……。へ、陛下ぁ!?」


 いきなり背後に現れた国王ジルにカインが驚愕する。ハルトたちに気を取られていたとはいえ、超直感でも気づけないほどジルの気配は完璧に消されていた。


「ハルトは存在なんだ」

「ジルちゃん。久しぶりね」


 この付近にいる者だけに姿を見えるようにしていたジル。公の場ではないということで、アンナはいつものように国王に話しかけた。


「お久しぶりです、アンナさん」


「な、なぜ陛下が母上に敬語を?」


「先々代の王様の頃から何回か国を救ってあげたからかな」


「……マジですか」

「マジなんだな、これが」


「あ、もしかして陛下が私を取り立てて下さったのは、母上の影響が?」


「そうだと思うか? お前のスキルなら分かるだろう」


 カインの超直感は彼の仮説を否定していた。


「違うようですね」


「わかったのならそれで良い。今後も友として、私を支えてくれ」


「御意!」


 それからアンナたちに少し応援の言葉を贈り、ジルは姿を消した。ちなみに彼はハルトたちの陣営にも足を運んでいる。



 ──***──


「星霊王殿のおかげで幸先良い出だしになったな。この調子でいこう。次は俺が行く」


 真っ赤な髪の大男に人化している竜神が歩み出た。


「頼もしいですね。期待していますよ、竜神様」


「おう。任せておけ」


 ハルトと戦わなくて良いと聞かされていたから、竜神は油断していた。ハルト以外であれば、神である自分に敵う者などいないと思っている。


 最強賢者の家族には、チートスキルを大量に所持した状態で異世界からやって来た勇者のアカリや、最強賢者によって強化された魔王がいることを竜神は知らなかった。そして何より彼は、絶対に忘れてはならない者の存在を忘れていた。──否、忘れていたというより、


 神の意識にも干渉し、その存在を忘れさせるほどの力を持った女がいたのだ。



 竜神が闘技台に上がる。


「次は俺だ。俺とは誰が戦ってくれる? そこの竜人か? それとも白亜か?」


 闘技台の下にいるリューシンや白亜を見ながら竜神が声をかける。しかし彼の対戦相手は、既に闘技台の上に立っていた。


「お前の相手はわらわです」


「……え」


 誰もいなかったはずの闘技台に、いつの間にか妖艶な美女が立っていたことに驚く竜神。彼はその美女に見覚えがあった。


 竜神が幼い時、彼は同族の中では最弱だった。そんな竜神を何十年も鍛えてくれた存在。神となった今でも頭が上がらない女性がいた。


「き、キキョウ、さん?」


「久しぶりですね」 


 笑顔のキキョウ。対する竜神は、尋常ならぬ汗をかき始めた。


「ま、まさか、俺の意識に干渉したのか?」


 そんなことは絶対にありえないと竜神は考えるが、彼がキキョウの存在を認識できていなかったことは確かなのだ。竜神はキキョウがハルトの家族になったことを知っていた。それなのに、今こうしてその姿を目にするまで、その存在を完全に忘れていた。


「私はを、昔からお前によくやっていたではありませんか。どうして今はできないと思うのです?」


「だ、だって俺は、神になったのだし……」


「神だからなんだというのです。前回会った時、修行させてあげたことは忘れてしまったのですね」


 その言葉を聞いて竜神の顔が青ざめた。


 修行というのは対象の意識を強引に精神世界に送り込み、自身の実力と同等か少し強いくらいの敵と戦わせ続けるというもの。精神世界なので何度死んでも問題はないが、心がひどく疲労してしまう。よほど強い精神力を持った者でなければ、この修行後は心の疲労で数日間は動けなくなる。


 キキョウには勝てない。


 そう判断した竜神は転移門を開いて天界に逃げようとした。



「逃がしません」

「──っ!?」


 キキョウが具現化した尾の一本から高密度に圧縮された魔力がビームのように放ち、竜神の転移門を粉々に砕いた。


 邪神を殴りに行く前、ハルトはキキョウと寝た。その際に彼女は『ヨウコの父親のことが忘れられないから』と子づくりを拒否した。ハルトは連日妻たちと行為に及んでおり、急に拒絶されても我慢できなかった。


 代替案として、膨大な魔力を放出することでスッキリしようと考えた。九尾狐という魔族で、他人の魔力を吸収することで成長するキキョウに夜通し魔力を送り続けたのだ。その結果、完全体の九尾狐だったキキョウはその存在の殻を強引に打ち破られ、この世界で六体目の神獣となった。


「今の私は神の魔法にも干渉できます」

「いや、出来ちゃダメだろ」


 竜神のツッコミをキキョウはスルーした。


「先ほどシルフさんは負けました。それでもハルト様は彼女をねぎらっていた。あとでご褒美もあげると……。負けてもご褒美がいただけるのです。では、もし対戦に勝てば?」


 キキョウが目を輝かせている。


「きっと負けてしまった時より、すごいご褒美がいただけることでしょう」


「そ、そうか? ハルトに確認したのか? そんなことないかもしれないぞ。むしろ神をいたぶるのは罰当たりだから止めろというかもしれない」


 必死に考えを改めさせようとする竜神。

 しかし彼の言葉はキキョウに届かない。

 


「私と戦い、そして負けてください。私がハルト様からご褒美を頂くために」


 キキョウと竜神の対戦が始まった。

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