新たな転移魔法とこの世界のギフター

 

 どうやってアカリやテトに気付かれずに、部屋に入ろうか……。


 ひとつの案としては、転移魔法を使うって方法がある。


 しかし、転移にはかなりの量の魔力が必要になるので、魔法陣を展開した時点でアカリに気づかれてしまうはず。


 そもそもそれができるなら、わざわざこうやって部屋の前まで来る必要はなかった。


 俺の部屋から転移魔法でアカリの部屋に繋いで、枕元にプレゼントを置けばいいのだから。


 さて、どうしようかな?



 ──と、ここで、俺はあることを閃いた。


 失敗するかもしれないけど、やるだけやってみよう。


 たぶん大丈夫。

 俺の直感が『上手くいく』って言ってる。



 魔力を練り、屋敷に充満させている俺の魔力を超えないように注意しつつ、極小の魔法陣を展開した。


「…………」


 よし、アカリもテトも起きてないみたい。



 悪魔など敵の侵入にすぐ気づけるよう、またヨウコやマイたちが魔力を吸収できるように、この屋敷には普段から俺の魔力が充満している。


 意図してやってる部分もあるけど、自宅ってのはやっぱり一番気が緩む空間なので、そうしたところにいると、つい魔伝路が緩んで魔力が勝手に放出されちゃうみたい。


 そんなわけでこの屋敷には普段、かなり濃く俺の魔力が漂っている。


 誰かの誕生日とかで家族以外の誰かが屋敷に来る時は、ヨウコやキキョウにその魔力を吸収してもらってる。そうしないと、来客が魔力酔いになっちゃうからだ。


 うちの家族はもう慣れているので、俺の魔力でも魔力酔いになることはない。



 また俺の転移魔法は、その魔法陣のサイズや移動する距離で消費魔力が変わる。


 今回俺が試しに展開したのは、直径1ミリくらいのサイズで、移動距離は5センチ──つまり、ちょうど扉の向こう側に移動できるくらいの転移魔法。


 屋敷に漂っている俺の魔力以下に消費魔力を抑えた魔法陣であれば、アカリたちに気付かれることがないってわかった。


 だったらも、いけるはず。


 人ひとり通れるサイズの魔法陣を展開する。


 転移する距離は──



 およそ0.1ミリ先。

 扉の中だ。


 この魔法陣も、アカリたちには気付かれなかった。



 ──よし。いこう。


 自分の直感を信じて、扉に向かって歩く。


 身体が転移魔法に入る。


 魔法陣を出た身体が扉に当たる前に、次の魔法陣を新たに展開した。


 身体が入りきっていない最初の魔法陣だけは残して、次々と転移の魔法陣の出口と入口を繋げていく。


 自分の身体を0.1ミリづつスライスして、転移先に順次送り込むイメージ。


 俺の転移魔法は、精霊界と人間界を繋ぐ『狭間の空間』を経由して移動する魔法だ。それを利用して、こっちの世界で転移魔法陣に入った俺の身体は、0.1ミリだけ狭間の空間に存在する。


 ちなみに普通のヒトは、精霊の付き添いなしだと狭間の空間で生存できないらしい。俺はステータス固定なので問題ない。


 俺だけが使える、ちょっと強引な壁抜け術って感じかな。



 無事に扉を抜けることができた。

 我ながら、完璧だ。


 この魔法……敵の攻撃をすり抜けたり、ガードが硬い敵の装甲を貫通させるのにも役立ちそう。


 アカリにプレゼントを持ってきただけなのだが、新たな魔法を修得してしまった。


 いつか、実戦で使えるのが楽しみです。



 ──***──


 アカリにもテトにも気づかれることなく、プレゼントを置いてくることができた。


 その翌朝──



「ハルにぃ!!」


 アカリが俺の部屋に飛び込んできた。


「おはよ、アカリ。どうしたの?」


「これみて! サンタさんから、プレゼント貰ったの!!」


 そう言ったアカリの手には、小包が握られていた。


 そのうちひとつは俺が昨晩、彼女の枕元に置いたもの。


「……ふたつも、プレゼントもらったの?」


 おかしいな。


 昨晩は俺以外に、動いてる家族はいなかったはずだけど……。


「こっちは、ハルにぃがくれたんでしょ?」


「え"」


 赤いリボンのついたプレゼントの包みを、アカリが差し出してくる。


 俺が昨晩、彼女の枕元に置いたものだ。


「も、もしかして俺が部屋に入ったの、気づいてた?」


「ううん。私もテトも、ハルにぃがプレゼント持ってきてくれたのは気づけなかったよ」


「じゃあ、なんで──」


「ハルにぃ。私には超直感ってスキルがあるの、忘れたの?」


「……あ」


 そうだ。

 アカリは超直感というスキルを持っている。


 俺の兄、カインが持ってるのと同等の性能を誇るそれは『なんとなくそうかな』と予測したことが、正しいかどうかの結果がわかる。


「ちょっと前に、ハルにぃとサンタさんのお話しをしたからね。だから、もしかしたらハルにぃがプレゼントくれたんじゃないかなって思ったら、スキルが答えをくれたの」


「あー、そう……」


 バレてた。

 俺がギフターになろうとしてたことが。


 あれ? そうすると、アカリが持ってるもうひとつのプレゼントはなんなんだ?


「アカリ、そっちのは?」


 彼女が左手に持ってる、青のリボンがついた小包を見ながら聞いてみた。


「こっちが、サンタさんからもらったプレゼントだよ! サンタさんって、ほんとにいるんだね!!」


 眩しい笑顔のアカリがそう言った。


「でも、本当ならこっちの世界のサンタさんって、十四歳の子のところにしかこないんだよね?」


「そ、そうだけど……なんで知ってるの?」


「サンタさん……こっちの世界ではギフターさんかな。そのギフターさんから、お手紙があったの。『今年は特別だよ』って!」


「えっ」


 アカリが見せてくれた白い紙には──


『プレゼントをあげるのは、ほんとは十四歳までの子だけなんだけど、キミは昨日がこの世界で初めての誕生日だからね。今年は特別だよ』


 そう書かれていた。


 なんだこれは……?


 お、俺は知らないぞ。



「サンタさんって、ほんとにいるんだねー。異世界に来てよかった」


 アカリは、すごく嬉しそうにしている。


 えっ……。


 ギフターって、ほんとにいるのか?


 ただ、もしギフターがいるなら、それはかなりヤバい存在ってことになる。


 悪魔ですら侵入を許さない俺の屋敷に入り込み、仕掛けた千個の罠にもかからない。


 しかも何者かの侵入を即座に検知できるように展開した俺の魔力にも、なんの反応もなかった。


 潜入や隠密に長けた存在が、この世界にはいるんだ。


「ハルにぃ、見て! サンタさんのプレゼントね、私が欲しかった素材だよ!!」


 ギフターがくれたプレゼントは、俺がアカリにあげたものと同じ『水晶鹿の尖角』だった。


 伝説級レジェンドの素材で、彼女がスキルでアイテムを創るのに利用するそうだ。


 ギフターは、欲しいものを知る能力も持っているらしい。


 しかもアカリが、異世界から来たことを知っている。


 ギフターって、やべぇな。

 もしかして……実は創造神様とか?



 色々と気になることはあるけど、今のところ害はなさそうだ。


「えへへー。これで創りたかったアレが……ふふふ」


 なによりアカリが喜んでいる。


 彼女がなにを創るつもりなのかは知らないけど、嬉しそうだから良しってことにしとこう。




 そっかぁ……。


 サンタさんってほんとに、いるんだなぁ。

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