第234話 リューシンの暴走?

 

「「リューシン様! どうか、お怒りをお鎮めください!!」」


 俺は今、百人を超える人族に土下座されている。


「そこまで怒ってるわけじゃないんだけど……」


「い、生贄の娘が、お気に召しませんでしたか?」


「あー、別に生贄とか求めてないから。てゆーか俺、ドラゴンじゃないし……」


「生贄は不要? ひとりでは、足りないと──ま、まさか、この村を滅ぼすおつもりですか!?」

「ひ、ひぃぃ!」

「ダメだ。俺たちもう、お、終わりだ……」

「とーちゃん、こわいよぉ」

「し、静かにしなさい。リューシン様の気に障るだろ!」

「どうか、どうか娘だけは、お助けください」


「…………」


 どうしてこうなったんだ?


 久しぶりにひとりで外出しただけなのに、こんなことになった原因を、俺は思い返していた。



 ──***──


 イフルス魔法学園の長期休暇が終わった次の週、俺はルークの左手の薬指に光る指輪に気付いてしまった。


 知らない間に、クラスメイトが結婚していた。


 俺のクラスの男子生徒にはもうひとり、ハルトっていう人族がいるんだけど、そいつも結婚している。


 しかも、ひとりとじゃない。


 ハルトには、何人も嫁がいるんだ。

 俺の姉、リュカもそのひとり。



 ……俺って、ハルトの義弟なんだ。


 そして、ルークの結婚相手はハルトの嫁のひとり、リファの妹だと言う。


 えーっと、それだと俺とルークの関係はどうなるんだ?


 ルークは俺の義弟になるのか?


 よくわからんけど、とりあえずそうしておこう。


 クラスメイトに義兄あに義弟おとうとがいるってことになる。


 うーん、なんか複雑な気分。


 まぁ、それはいい。

 そーゆー状況には慣れた。


 ──というより、ハルトのそばにいると、この程度のことで、いちいち驚いていられないから。


 問題は、クラスメイトの男子三人のうち、ふたりが既婚者ってことだ。



 この世界の人族は、産まれてから五歳くらいまでは比較的ゆっくり成長して、そこから十歳くらいまでの期間で、かなり大人の姿に近づく。精神面でも、成熟が早いらしい。


 それ以外のヒト──エルフだったり、獣人だったり、俺たちドラゴノイドは、だいたい一定の速度で成長していく。


 そんで、十五歳で成人。大人と見なされる。

 十五で成人するのは、どの種族も同じだ。


 成人した後は、種族によって寿命は異なるが、ほとんどのヒトは緩やかに歳をとる。


 ちなみに人族との混血だと、人族の成長の仕方と同じになるみたいだ。ティナ先生とか、そうなんじゃないかな?


 で、俺が通ってるイフルス魔法学園だけど、入学時の年齢が、人族とそれ以外の種族で違う。


 人族は十歳で入学するのに対して、それ以外の種族は十六歳くらいの時に入学するんだ。


 同学年の生徒の見た目や、精神年齢を近づけるためらしい。


 また、人族以外は二、三年入学する時期をずらしてもいい。俺は十六の時に入学した。


 二年生になった俺は今年、十八歳になる。


 なにが言いたいかっていうと、俺はそろそろ結婚相手を見つけてもいい歳なんだ。


 なのにまだ、彼女もいない。


 クラスメイトはというのに。


 ──そう。


 クラスメイトは俺以外、全員既婚者だ。


 大半がハルトの嫁なんだけどな。

 ありえないだろ?


 ひとりくらい、残しといてくれよ。



 俺のクラスは学園全体で見ても、群を抜いて可愛い女の子たちが集まっていた。


 それが全部、ハルトの嫁になった。

 先生も含めて。


 ひとりくらい、残しとけよ!!



 だいたい、この学園って対戦以外ではほとんど他クラスとの交流がないんだ。


 俺が住んでるのは、男子寮だし。


 一応、中央街が近いから、そこに行けば女の子には会えるけど……。


 接点がない!

 話しかけるネタがない!

 ナンパとか、俺にはむりだ!!



 小さい頃からリュカと一緒に過ごしてきたけど、それ以外の女の子と遊ぶ機会が全くなかった。


 だから姉兄以外の女の子と、なにを話したらいいとか全然わからん。


 そんなわけで、俺には彼女がいない。

 ……寂しい。



 もうひとつ、俺が落ち込む要因があった。


 俺のクラスメイトたちは、なぜかみんなブレスレットをつけはじめたんだ。


 ハルトとその嫁はお揃いのブレスレットを。

 ルークは自分の嫁とお揃いだって言ってた。


 指輪はしてたりしてなかったりするけど、俺以外の全員が右手にブレスレットを付けてた。


 で、クラスメイトの何人かは、たまにブレスレット眺めてニコニコしてる。



 なんで俺だけ仲間はずれなんだよ!?


 俺にもくれよ、それ。


 俺も、義弟や義兄なんだからさぁ……。



 ──そんなことを思っていたある日、ハルトのブレスレットに変化があった。


 青と赤の小さな宝石が追加されてたんだ。

 その宝石からは、凄い力を感じた。


 昔はそうゆーのに疎かった俺も、完全竜化できるようになったことで、他人の力を敏感に感じられるようになった。


 完全竜化を覚えたおかげというより、はじめて完全竜化して黒竜になれた時、調子に乗ったせいでハルトにボコボコにされたのが原因かもしれない。


 あの時の俺はハルトに殴られながら、調子にのったことへの後悔とともに、ちゃんと相手の力を見極める力が欲しいと願った。


 気を失うまで、ハルトに殴られた。

 すっげー痛かった。


 この世界最強の色竜に完全竜化した俺を、気絶するまで素手で殴りつけるとか、ありえないだろ。


 ……いや、素手で良かった。

 アイツなりに、手加減はしてくれたんだ。


 もし、ハルトがあの剣を使っていたら──


 や、やめよう。

 想像するだけでチビりそうになる。



 目が覚めた時、俺はヒトの姿に戻れていた。


 それから俺は、他人の秘めた力を見抜く能力を手に入れていた。



 改めて、その能力でハルトを見てみた。


 しょぼかった。


 ハルトに、秘められた力なんてなかった。



 ──でも、そんなわけないんだ!!


 秘めた力がないのに、俺が何度もボコボコにされるなんておかしいだろ!?


 きっとハルトは、俺の能力すら欺くほどの力を持っているんだ。


 そうに違いない。


 俺はもう、ハルトに対して油断しないと決めたんだ。


 ちなみにヨウコを見てみると、凄い力を秘めていた。さすがは九尾狐だ。


 俺の能力が、ちゃんと正常に働いているってわかった。




 ──話が逸れたな。


 ハルトのブレスレットの件だ。


 追加された宝石は、マイとメイがハルトにプレゼントしてくれたものだって教えてくれた。



 ここで俺は閃いた。


 レアな宝石か鉱石を手に入れて、それをハルトやリュカの結婚祝いと言ってプレゼントしよう。


 ちょうどブレスレットにつけられるくらいの小ささで、それでいてレアなやつがいいな。


 ハルトは義理堅いやつだから、お返しをくれるはずだ。


 そこで俺は、プレゼントした宝石の一部を加工して、ブレスレットにつけるようにできないか頼んでみよう。


 別にハルトの嫁たち全員とお揃いじゃなくていい。


 俺とハルト、リュカとお揃いの細めのブレスレットを買うか作って、今ふたりがはめてるブレスレットに絡ませる感じで──



 けっこうオシャレだと思う。


 ハルトは、ネックレスとかはあまりしないみたいだけど、手首に色々つけるのは気にしないみたいだ。


 なかなかいいアイディアだと思った。



 だから、俺は宝石や鉱石を生み出す竜のもとを訪ねたのだが──


「ダれだ? お、オれのナワバリ、ハいるヤツ、ご、ゴロす」


「……マジかよ」


 かつて土の属性竜であったそいつは、邪竜になっていた。

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