第223話 新たな目標

 

それ収納袋も、ティナが持ってたの?」


 俺が一度この世界からいなくなった時、創造神様からいただいた刀と同じように、この収納袋やその他のアイテムをティナが回収したのだろう。


「はい。ただし、こちらは最近までH&T商会の方で、信頼できる部下に渡していました」


「……そっか、部下がいるんだ」


 世界最大の商会の会長なのだから当然なんだけど、ティナに部下がいたことに少し驚く。


「ちなみに守護の勇者様をオーナーとする商会ですので、今はハルト様の所有物です」


「……は?」


「それから、コレほどではないですが、かなり高性能な収納袋を商会で入手しましたので、コレが私の手元に戻ってきたのです。ハルト様にお返しするのが遅くなり、申し訳ありません」


「あ、うん。ありがと」


 ティナから収納袋を受け取った。


 コレがあればダンジョンなどに潜った際に、レアアイテムが多すぎて持って帰れないという問題も解決する。冒険者だったら誰もが欲しがる超レアアイテムだ。


 しかし、最近は覇国を精霊界に収納するのと同じ方法で、収集したアイテムも精霊界に収納するようになっていたので、収納袋が返ってこなくても問題はなかった。


 まぁ、せっかくなので家族の誰かに渡しておけばいいか。



 それから、会話の中で流されたけど、すっごく気になることを言われた気がする。


「あ、あの、ティナ。俺って……H&T商会のオーナーなの?」


「はい、その通りです。しかし、ハルト様がやらなければいけないお仕事は何もございませんので、ご安心ください」


 何もしないのに、俺がオーナーでいいのだろうか?


「ハルト様が商会の経営に携わりたいというお気持ちがあれば、それも構いません。ですが仮にも数万人の従業員がおりますので、しっかりと経営学を学んでいただく必要がございます」


 うん、さすがにそれはいいや。

 やらない。


 ──ってか、やれない。


 数万もの従業員の生活がかかってる経営の仕事とか、今の俺にはできる気がしない。


 それにしても、昔からティナって万能だと思ってたけど、経営とかもできたんだ……。



 とりあえず俺は、何もしないことにした。


 特に何かしなくちゃいけないことがあるわけでもなく、俺が商会を使ってやりたいこともない。


 オーナーであることを知らなかったこれまで通り、あまりH&T商会の運営に関わらずに暮らせば今の生活が変わることはないだろう。


 ティナも、それで大丈夫と言ってくれた。



 必要な時に自由に使えるお金はいっぱいあるので、俺がわざわざ働いて稼がなくてもいいらしい。


 なんか、ちょっと拍子抜け。


 家族を養うために、将来は冒険者になってクランの運営を頑張ろうとしていたのに……それが必要なくなってしまった。


 お金がいっぱいあるというのも困るのだということを、初めて知る。


 目標が、なくなってしまったのだ。


 とはいえクラン設立とその運営は、お金が不要になったとしても面白そうだからやるつもりだ。


 サリーやリリアなど、既に数人をクランに誘っちゃっているというのも、理由のひとつ。



 そうだ!


 強い仲間をあつめて、更にその仲間たちを鍛え上げ、世界最強クランを作るのとかどうだろう?


 この世界には四年に一度、上位のクランが集まり優劣を決する大会──『最強クラン決定戦』がある。


 それに出よう!

 そこで、優勝を目指す。


 ちょうど俺がクランを設立できる年に、その大会が開催されるはずだ。


 最強クラン決定戦は、戦闘能力の高さだけが全ての大会ではない。


 イフルス魔法学園のクラス間対戦と同じように、連携、知力、サポート力、そして純粋な戦闘力など様々な能力が試される。


 更に相手は学生ではなく、魔物を狩って生活しているプロの冒険者たちだ。


 初めての大会で、優勝は厳しいと思う。


 でも四年後や、八年後……。いつかは大会で優勝できるような最強のクランを作りたい。



 新たな目標ができた。


 昔は家族や仲間が魔人に襲われても、なんとか生き延びるだけの力をつけてほしかった。


 そのために色々やってきたのだが、最近俺は、家族や仲間を強くすることが楽しいと気付いた。


 最強クラン──うん。なかなかいい響きだ。


 よし、やろう!!



 俺はお金を稼ぐ必要がなくなった代わりに、新たな目標を見つけた。

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