第八章 分身魔法とダンジョン運営
第182話 妻会議
「それでは、第一回ハルト様の妻たちの会議──略称『妻会議』を開催します!」
ティナが宣言すると、その場に集まった者たちからパチパチと拍手が送られた。
ここはイフルス魔法学園の敷地内にあるハルトの屋敷の、とある一室だ。実はハルトはこの部屋の存在を知らない。
彼女たちは昨晩、ハルトと共にこのハルトの屋敷に帰ってきた。
出ていく時は八人だったハルトの妻は、聖都から帰ってきた時、十一人になっていた。
現在、この部屋には──
エルフ族のティナとリファ
ハルトと同郷で人族のルナ
魔族のヨウコ
精霊族のマイとメイ
獣人族のメルディ
ドラゴンの白亜
ドラゴノイドのリュカ
元聖女のセイラ
元聖騎士団長のエルミア
というメンバーが集まっている。
ちなみにセイラは、悪魔に聖女としての力を奪われていたのだが、そのままではハルトの他の妻に見劣りするといって、創造神が聖女の力を再び彼女に与えた。
そのため、セイラはもう聖女ではないが、聖女の力が使えてしまう。
対価として、セイラが毎日創造神に祈りを捧げる必要があるのだが──
セイラにとって創造神に祈りを捧げるというのは、二百年も続けてきた行為であり、さらに聖女ではなくなった今も創造神への信仰心が強い彼女にとって、なんの苦でもなかった。
またセイラは、聖女をイーシャという女の子に引き継いだのだが、聖都の統治者が不在になったことで聖都の統治者に担ぎ上げられそうだった。
聖都にはヤン子爵という優秀な為政者がいたが、彼は人前で上手く話せないので彼の代わりに表に立つ者が必要だったのだ。
それを創造神が解決した。
『ハルトという賢者がイフェルに代わり聖都の代表となり、今後は聖都を守護する。統治の実務はヤン=ド=ルゥドゥに一任する』
──という神託を、聖都に住む全員に届けた。
それによってハルトは定期的に聖都に顔を出す必要ができたが、セイラは解放された。転移が使えるハルトにとって、聖都まで移動するのは大した労力ではなかった。
また人前に出ないのあれば、ヤン子爵は聖都を統治するのに十分な能力を有していた。
それでセイラも無事、ハルトの屋敷に来ることができたのだ。もちろん、彼女の騎士であったエルミアも一緒についてきた。
「私たちは今、大きな問題に直面しています」
ティナが会議を進行する。
「それがなにか、おわかりですか? ──はい、リファさん」
勢いよく手を挙げたリファが指名された。
「私たち、ハルトさんの妻が増えたことにより『ハルトさんの日』が、なかなかこなくなりました!」
ハルトの妻たちは、ハルトと一緒に寝られる日のことを『ハルトの日』と呼んで楽しみにしていた。
「その通りです。私は毎日、ハルト様と寝られるのでいいのですが──」
「そうじゃ、それはずるいのじゃ!」
ヨウコが声を荒らげる。
「えぇ、私も最近そう思い始めて、ハルト様に『私もローテーションに入ります』と提案してみたのですが──『嫌だ』と、断られてしまいまして……」
困ったような表情を見せるが、ティナはどこか嬉しそうだった。
「む、むぅ……主様の希望ならばしかたないか」
「「ティナ先生、羨ましいです」」
「私はティナの横でもいいの」
白亜は誰かと一緒に寝られればそれでいいようで、ハルトの横で眠るローテーションには入っていなかった。
「私はもっとハルトさんと一緒にいたいです。ですが、ハルトさんはティナ先生が一番みたいなので、ティナ先生が左側固定なのは問題ないと思います」
「ウチもルナと同意見にゃ。でも一週間以上、ハルトと寝れないのは寂しいにゃ」
「私、ハルトさんと結婚したばかりですけど……一緒に寝られるのって、やっぱり一週間後とかですよね?」
「あっ! てことは、わたしもですか?」
リュカとセイラはハルトと結婚したばかりだというのに、ローテーションに組み込まれた結果、初夜は一週間後になることが決まっていた。
それに気づいて、ふたりは悲しそうな表情になる。
「セイラ! セイラは私と一緒に寝よう!」
セイラを慰めるつもりか。それとも、ただセイラと一緒に寝たいだけなのか──エルミアはセイラに抱きついた。
元々、エルミアはセイラのことが好きで、彼女と離れたくなくて、セイラと一緒にハルトの妻になったのだ。
ハルトのことは好きでも嫌いでもないけど、人族で二十八歳の彼女は、ハルトの妻たちの中では一番年上に見えてしまう。
十六歳の頃からセイラの騎士として尽くしてきたので、男性経験はなかった。そのため、少しあせっていた。
だからエルミアもローテーションに組み込んでもらっていた。チャンスがあればハルトと子を成したい。その子を、セイラと一緒に育てられたら幸せだ──そんなことを考えていたからだ。
ティナを含む全員が、ハルトと過ごす時間を求めていた。
それには、妻が増えすぎた。
ハルトは基本的に、ティナ以外を特別扱いすることはない。
全員を妻として、平等に大切にしてくれる。
だから、ほかの誰かを蹴落とそうとすると、それはハルトを悲しませることになる。
つまり増えた妻を、減らすことはできない。
妻の数は減らせないが、ハルトを占有する時間は増やしたい。
では、どうするか──
「ハルト様を、
リファの発言に、全員の注目が集まる。
「主様を増やす? いったいどうやって──」
「ここには、この世界最高峰の魔法剣士のティナ様、国家クラスの秘術が保管された図書館に入れる王族の私とメルディさん、どんな書籍でも読めるルナさん、莫大な魔力をもつヨウコさん、その他にも優れた能力や地位をもつヒトが集まっています」
リファがみんなを見渡す。
その顔は、自信に満ち溢れていた。
「これだけのメンバーがいれば、
「な、なにをじゃ?」
「分身魔法を、創るんです!」
「分身魔法? ウチのお父様がハルトとの戦闘で使った、アレかにゃ?」
「少し、違います。アレは高速移動で残像をつくって、魔力を残すことで少しリアリティを持たせただけです。私が創りたいのは、実体をもつ分身を生み出せる魔法です」
「そんな魔法、実在しませんよ?」
「私も聞いたことないの」
「「私たちも知らないです」」
ハルトの妻たちの中では長生きで、この世界に関する知識が豊富な、ティナと白亜、マイ、メイが分身魔法の存在を否定する。
「無いから創るのです。私たちなら、きっとできます」
本当にできるかどうかはわからないが、それでもリファにはどうしても分身魔法を創り出したい理由があった。
「想像してみてください。分身魔法を使ってハルトさんが増えれば──」
「ま、毎日、主様と寝られるのか!?」
「それだけじゃないです。ハルトさんは無限の魔力をお持ちなので、私たちひとりに対してハルトさんもひとり──なんて制限しなくてもいいでしょう?」
「ま、まさか──」
「「何人ものハルト様が私たちと寝てくださるのですか!?」」
「「「──!?」」」
全ての妻たちが理解した。
そして、複数のハルトに囲まれる自分を妄想した。
全員の顔が綻んでいた。
「やりましょう!」
「なんとしても、成し遂げるのじゃ!」
「ウチ、国の図書館を漁ってくるにゃ!」
「メルディさん、私もついていきます。どんな本だろうと翻訳しますよ」
「「私たちはお父様に、なにかご存知ないか聞いてみます」」
「私はおじちゃんに聞いてくるの!」
「エルミア、聖都の書庫に何かヒントがないか調べに行きましょう!」
「セ、セイラが行くなら付き合う」
「私は竜神様の祠に、なにかないか調べます!」
全員が前向きに考えていた。
複数のハルトによる、逆ハーレム。
──最高だ。
「みなさん……ありがとうございます」
「リファさん、よく思いついてくれました。必ず、成し遂げましょう」
「は、はい!!」
こうしてハルトの妻たちは、複数ハルトの逆ハーレムのために動き出したのだ。
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