第160話 聖都の魔法陣

 

 シンにセイラの護衛を依頼された後、俺は聖都のあちこちを歩き回って色々調査していた。


 やはり、所々に邪神の気配を感じる。

 気配はあるが、その場所に邪神にまつわるアイテムなどがあるわけではなかった。


 んー、やっぱり悪魔とかがいるのか?


 俺もヨウコや白亜を聖結界で覆って聖都に入れることができたので、悪魔や魔人が同じようなことをしている可能性があった。


 念のため、邪神の気配を感じた部分には全て、転移魔法陣を貼り付けておく。こうしておけば悪魔が姿を現した時に、俺もすぐその場所に転移することができる。


 聖都中を歩き回って、およそ三百箇所に転移のマーキングを施した。ついでに聖都の地図を購入して、マーキングした位置を地図上に書き込んでみた。


 そして気付いた。

 邪神の気配を感じた場所を線で繋ぐと、巨大な魔法陣の形になっていたのだ。


 あぁ、これ!

 元の世界のアニメで見たことあるやつだ。


 ひとつの都市をまるごと生贄に捧げて、とあるレアアイテムを創り出そうとしたアレだ。


 聖都に書かれている魔法陣の仕組みを解析してみると、どうやら発動するためのエネルギーは聖都の住人の魔力や魂ではないらしいので、少しホッとした。


 この魔法陣は、中心部にエネルギーを注ぎ込むと、魔法陣の範囲内にある全てのものを破壊するというものだった。


 これほどの魔法陣を発動するには、魔人数体分の魔力が必要になるだろう。


 この聖都でそれほどの魔力を持っていそうな人物はふたりしかいない。聖女であるセイラと、聖都の統治者イフェル公爵だ。


 イフェル公爵は戦闘職が魔導師だと聞いていたので、内包する魔力が多少多くても『そんなもんかな』くらいにしか思わなかった。


 でも、あのセイラがこんな魔法陣を描くわけがないので、消去法でイフェル公爵が一番怪しい人物ってことになる。


 ……ちょっと、にいこうかな。


 もちろん『お前、悪魔だろ!』などと言いに行くわけじゃない。


 俺は貴族出身だし、ベスティエ獣人の国の所有者だ。聖都の統治者に対して、今後よろしく──と言うくらいの挨拶はしておくべきだろう。


 そのついでに、もう少し詳しくイフェル公爵の魔力を探ってみるつもりだった。


 聖都中を歩き回ったので、既に日が落ちていた。イフェル公爵の所に行くのは明日以降にしよう。


 それにいきなり行っても会ってくれないかもしれないので、まずはセイラに取り次いでもらおうと考えた。


 セイラは、何かあれば頼ってくれていいと言ってくれたので、早速お願いしてみる。


 忙しそうだけど、時間とってくれるかな?

 とりあえず明日、セイラに会いに行こう。


 そんなことを考えながら、俺は聖都に描かれた魔法陣を弄っていく。


 邪神の気配がする部分にあった魔の因子の波長を真似て、いくつかの点を増やした。また、聖都を破壊するための魔法を発動させる重要な部分の点は全て消滅させておいた。


 これで聖都を破壊する魔法は発動しない。

 まずは一安心だ。


 魔法陣を発動させようとしたのが人間であれば、魔法陣が発動しないだけなのだが、それが悪魔や魔人であればソイツは多分、後悔することになる──そんな効果を追加しておいた。


「さて、帰りますか」


 やることをやったので、俺は家族が待つ宿に帰ることにした。



 ──***──


「ただいまー」


「ハルト様、おかえりなさい」


 昨日から滞在している宿に戻ったら、ティナが出迎えてくれた。


 ティナの魔力検知範囲はとても広い。俺の魔力が宿に向かっていることを感じとって、入口で待っていてくれたみたいだ。


「あれ、みんなは?」


 部屋は大部屋で、昨日はみんなで一緒に寝た。

 修学旅行みたいで楽しかった。

 でも、今は部屋にティナしかいないようだ。


「リファさんたちはまだ戻ってきていません。私はハルト様がそろそろお帰りになるかと思い、先に戻ってきました」


「そっか、ありがと」


「いえ。ところで夕飯はお召し上がりになりましたか?」


「んー、まだだけど、汗かいちゃったから、先にお風呂に入りたいなって思ってる」


「そう言われると思いまして、貸切の大浴場を予約してあります。そちらで是非ごゆっくりしてください」


「おぉ、ありがと!」


 俺は昔から戦闘訓練などをした後は、直ぐにお風呂に入るのが習慣だった。シルバレイ伯爵家のお風呂がかなり凄く豪華で、入浴の時間が好きだったというのもあるけど──


 一番の理由は、隙を見てはティナが抱きついてくるので、彼女に汗臭いって思われたくなかったから。


 この世界には『クリーン』という身体の汚れや臭いを取り除く魔法がある。ダンジョンに潜ったりすると数日から数週間、お風呂に入れない冒険者たちにとっては習得必須の魔法だ。


 もちろん俺もそれを使えるが、身体の汚れは綺麗になっても服に染み付いた汗までは取れないので、着替えるためにもお風呂に入りたかった。


 早く着替えてティナとイチャイチャしたい。

 リファたちが帰ってこないなら、今はティナとふたりっきりでイチャつくチャンスなのだ。


 ふと、あることを思いつく。


「ティナも一緒にお風呂入らない?」


 身体のクリーン魔法による洗浄はしているので、服さえ脱いでしまえばすぐにティナとイチャイチャできるのだ。


「い、いいんですか?」

「もちろん!」


 ティナが耳を真っ赤にしながら、一緒にお風呂に入りたいと言ってくれた。


「では、私は少し用意してからいきますので」


「分かった。じゃあ、先に入ってるね」


 俺がお風呂に行くためのタオルや着替えなどの用意をティナがしてくれていたので、俺はそれを受け取って一足先に大浴場へ向かった。



 大浴場について、まず浴場内の壁に沿うように認識阻害の結界を張った。


 高級宿なので、覗きとかはされないと思うけど念のため。俺のティナの身体を、誰かに見られるのは絶対に嫌だから。


 ちなみにティナと出かける時は、いつもこうしている。この世界にはオープンな造りになっていて、外から覗くことができてしまう浴場が数多くあるのだ。


 身体を洗って、浴槽に入る。

 ものすごく広い。


 イフルス魔法学園にある俺の屋敷のお風呂もなかなか広いが、ここはその倍くらいの広さがある。


 俺の家族八人と一匹が全員で入っても余裕があった。シロには小さい姿のままで入ってもらわなくてはいけないけど。


 ティナ、まだかな?


 ワクワクしながらティナを待っていると、脱衣所の方が騒がしくなった。


「主様とふたりで入浴なんてずるいのじゃ」

「「そーですよ」」

「そ、それはみなさんが戻ってこないから」

「でも、ティナ様は部屋からこっそり出ていこうとしていましたよね?」

「ハルトとふたりで入る気だったにゃ」

「うっ、そ、それは」

「あの……私はまだ、ハルトさんとお風呂は早いかなーなんて」

「ほらほらー、そんなこと言ってないでルナもさっさと脱ぐにゃ!」

「きゃあ! メ、メルディさん!?」

「おぉ、ルナのお肌、すっごく綺麗なの」


 なんか、聞き覚えのある声が──

 あれ、これって、もしかして……

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