第46話 世界樹登頂

 

 世界樹ダンジョンの六層までやってきた。


 五層までと変わらず、魔物は襲ってこないし、シルフのサポートでレアアイテムの取りこぼしもない。順調そのものだ。


 しばらく探索して六層の中央に着いた。

 そこには白く巨大な石碑があった。


 その石碑を護るように、すらっとしたゴーレムが立っていた。土系のゴーレムだが、所々に緑色の鉱石が埋め込まれている。


 アークゴーレムという、ゴーレムの上位種だ。このアークゴーレム、並の冒険者では歯が立たない。


 Aランクの冒険者パーティが複数集まり、レイドと言われる集団を構成して戦い、勝てるかどうかという強さだそうだ。


 本来、こいつを倒さなければシルフの住処である世界樹の上に出ることはできない。


 ──そう、


「お疲れ! いつもありがとう」


 シルフがアークゴーレムに声をかける。


 アークゴーレムは石碑の前を開け、シルフに敬礼した。


「さ、行こ!」


 あぁ、やっぱり戦わなくていいんだ。


 俺たちは敬礼するアークゴーレムの横を通り、石碑の側に移動して、シルフに促されるまま石碑に手を当てた。


「みんな、石碑に触った? それじゃいくよ!」


 石碑が光り始めた。

 眩しくて目を瞑る。


 どこかに身体を引っ張られる感覚に襲われる。


 ──数秒後。


 その感覚がおさまり目を開けると、巨大な木の枝の上に立っていた。俺たちのいる枝より更に上の方にも太い枝が折り重なるように生えている。


 枝の間からは優しく太陽の光が漏れおり、先程までのダンジョンとは違い明るかった。俺たちはダンジョンから転移してここまで来たのだ。


 転移は異世界から来た勇者特有のスキルだが、シルフなど高位の精霊が管理するダンジョンでも特定の場所を繋ぐ転移のような移動はできるそうだ。


 周りを見渡す。


 今立っているのが木の枝だということが信じられないくらい安定している。遠くの方に枝の先端が見えた。枝の先端はさすがに細くなっているが、一キロくらいは余裕で上を歩いていけそうだ。改めて世界樹の大きさに驚く。



「皆、こっちだよ」


 シルフに呼ばれて世界樹の幹の方へと歩いていく。幹の所に、木製のエレベーターらしきものがあった。


 人が十人ほど入れそうな木の箱に、ツタが取り付けられている。そのツタは世界樹の上の方まで繋がっているようだった。


 元の世界のエレベーターを知る俺からしたら、あまりにも雑な作りだ。


 えっ、もしかしてこれに乗るのか?


「誰か来た時に、乗ってもらおうと思って作ったんだ。これでみんなを上まで連れていくね! 一番上からの眺めは最高だからさ、楽しみにしててよ」


 


 ということは、まだ誰も乗ったことないんじゃないか?


 少し不安になる。


「はい、乗った乗った」

「えっ、ちょっと待てって」


 シルフに背中を押されて、俺達はエレベーターもどきに押し込められた。


 ま、まじで、これで上まで?

 ティナの飛行魔法の方がいいんじゃないだろうか?


 なぜかシルフが箱に入ってこなかった。

 そもそもシルフは常に飛んでいるので、エレベーターを使う必要も無さそうだが。


「じゃ、いっくよー!」


 シルフが俺たちの入った箱の下に魔法陣を形成した。


 あれ、もしかして……

 木の箱の上に付けられたツタは飾り?


 その予想は最悪な形で正解であったと知る。


 シルフの魔法陣から凄い勢いで風が吹き出し、俺たちの乗った箱をとんでもない速度で押し上げた。


「「「「「うわぁぁぁぁぁあ!!?」」」」」


 高速で箱が上に登っていく。

 俺たちは加速度に耐えきれず、箱の床に押し付けられた。



 ぱぁっと周りが明るくなった。


 枝の間をくぐり抜け、世界樹の上に出たのだ。


 ふっ、と加速度が無くなる。


 乗っていた箱は、最後の葉っぱが密集した所を通過する際にバラバラになっていた。


 俺たち十一人は空中に放り出された。



「……綺麗だ」


 巨大な世界樹の更に上から見下ろすアルヘイムの街並みや、その周囲の風景に思わず言葉が漏れた。


 シルフが見せたかったのはこれか。



 そこから落下が始まる。


「ティナ! みんなを!」


 俺のもとに飛んでこようとしていたティナに叫んだ。ティナは俺の声を聞き、振り返った。


 その時、俺は見てしまった。


 竜化したリューシンが背中から翼を生やし、リュカを抱いて飛んでいた。


 マイとメイは精霊体になり、ヨウコとリファを回収したところだった。


 ルークが飛行魔法を使い、ルナを抱えて飛んでいる。


 えっ、皆飛べるの!?


 ティナがメルディを助けに行った。


 そして俺は、落ちていく。


 なんでだろう?

 誰も助けに来てくれない。


 もしかして、俺も飛べるって思われてる?


 いや、飛べねーよ!?


 ようやくそのことに気づいたティナが、慌てて飛んでくる。


 ──が、ティナに助けられる前に俺は風に包まれて、落下が止まっていた。


「ごめん、力加減間違えちゃった。てへ」


 俺の横にシルフが飛んでいる。


 てへ、じゃねーよ!!


「いやぁ、それにしてもみんな飛べるんだね」


「あぁ、俺も今初めて知った」


「逆にハルトは飛べないんだね」


 シルフにそう言われて軽く凹んだ。

 いや、飛べないのが普通じゃない?


 俺はこれをきっかけに、飛行魔法を使えるようになろうと決心した。

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