ほかのさかな


 あわただしく通り過ぎてゆく小さな魚に

 魚群はちらと目を向ける


 動くものがあった だから見た

 魚群はそう 考える

 ひとりぼっちで悠々と


 小さな魚は

 毎日通り過ぎていった

 魚群はそれを

 なるだけすっかり 忘れることにした


 あわただしい 波が立つ

 魚は魚群のなんぶんのいちにもみたない身体で

 魚群のわきの水をかきわけてゆく

 いそがしい いそがしいと

 魚群のわきのさけをかきわけてゆく


 どこへゆくのだろうか

 きっと 魚群には想像もつかない景色を

 魚群には想像もつかないスピードでもって

 じっくり感じ入る間もなく通り過ぎて

 魚はまたどこかへゆくのだろう

 魚群は それを

 なるだけすっかり 忘れることにした

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