魚群

魚倉 温

生態とは


 あおじろいみなもに

 魚群がおよいでいた

 ゆうゆうと、ゆうゆうと

 ありもしない魚群がおよいでいた


 魚群は群れであるがひとつであった

 あおじろいみなもを

 「あおじろ」たらしめているのが魚群であった

 ゆうゆうと、ゆうゆうと

 眠りもしない魚群がおよいでいた


 さけを飲むこともできぬ

 魚群はさけの中で生きているのに

 それを飲むことがかなわぬ

 よっぱらってあおじろを棄てる

 それが魚群のゆめであった


 ともと語らうこともできぬ

 魚群は群であるが孤であった

 さけの中でもあったから

 魚群への語らいはただ

 泡となって消えていった


 魚群はみなもをあおじろたらしむが

 魚群それ自体があおじろかったが

 みなもから透ける魚群は

 その実みなもからは程遠い底にあった


 それ自体以外なにもない底で

 みずくさの揺れることすらなく

 増水に耐えるべく隠れる岩陰もなく

 魚群 それ自体のほかにはさけしかない底で

 魚群は 魚群は


 なにも かたらうことばをもたず

 それ自体以外のなにとも

 おのれを分かちえなかった

 魚群は 嘆くことばをもたず

 おのれとさえも おのれを分かちえなかった

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