第68話 *あなたのお名前なんですか?

「まぁ、硬貨とかのお話よりも、今日はデートよデート」


最初の目的に帰ってきて、開口一番がこの言葉。

お買い物の付き添いというのは、どこかに飛んでいき、あえて触れなかったことをずばりと言われてしまい、なんだか恥ずかしいやら、恥ずかしいやら。

二度繰り返したのは、恥ずかしいから。

いやいや、三度繰り返したのは…もういいや。


秋穂は、準備万端の様子。

ぐいぐいこっちを引っ張る。


「分かった。分かったから、どこへ行けば良い?」

「私と手を繋げば迷子になる危険性はないから、はい」


そう言って、左手を出してきた。


迷子と言っても普通の迷子とは違う。

迷子というより迷い人、時空間に置き去りにされるという危険MAXになる。

予防策は、移動主となんらかの形で繋がっていること。

簡単には、手を繋ぐことになる。


「はいはい」


秋穂の手を握る。

手を握ったのは、いつぶりだろう。

幼い時は、毎日のように握っていたと思うのに…。


アレ?

秋穂は神格持ちだよな。

なぜ、幼なじみ?

ここの時間速度も異常だが、神域も普通ではないはず。

接点もない?


「行きますよ、疑問点はあとあと」


そういうと、周囲の風景が瞬時に変わる。


変わった場所は、どこかの部屋の中…

ある意味、近代的なソファと低いテーブルが置かれている。

応接室のようだ。


「ここで、街などを作った協力者と待ち合わせしているの」

「誰?」

「来れば分かるよ」

「誰だろう?」


「おっはよー」


けたたましい勢いで一人の女性が入ってきたかと思えば…


「ようこそおいで下さいました。贖罪の街へ…」


という、顔を伏せながら物静かな女性が入室。

対照的な2人の女性が部屋に入ると、なんだか落ち着かない。


「街歩きしたいって、聞いたのだけど…?」


この口調、最近聞いたような気がする。

姿形は違うのだけど。


「お姉ちゃん先生?」

「ちっちっち」


そう言うと、右手人差し指を伸ばして顔の前で振ると


「大元は同じだけど、私は私。ともえさんと呼んでね」

「それは、ダメでしょ」

「何か言った?」


もの静かに入ってきた女性が、がばっと顔を上げると


「ともえは、私の名前。勝手に取らないで」

「おおう、びっくりしたよ」

「うー」

「分かった分かった」


名前不詳の女性は、そう言ってともえさん?を宥めて、


「私のことは、『まりさん」って、呼んでね』

「まりさん?ですか」

「そうよ。コア・ブレインの端末だけれどね」


やっと、名前を聞けた。

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