厳重に保管する謎の資料

 ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年八月二四日 午後一時三〇分

 フローラとケビンの心からの気持ちを伝える説得によって、少しずつではあるがエリノアの香澄たちに対するわだかまりも解けつつある。それはもちろん二人のカウンセラーや教職員としての力量も関係しているのだが、一番の決め手となった要因はエリノアのに他ならない。


 そんなエリノアの勇気に応えようと思ったのか、

「エリー、君にどうしても読んで欲しい資料が一つあるんだ。少し待ってくれるかい?」

と言いながら彼女の返答を待つことなく席を立ち上がるケビン。その後ケビンはなぜか自分のデスクで休学届へ記入しているフローラの隣りへ向かい、エリノアに聞こえないように小声で何かを話している。

「……フローラ、作業中にごめん。を保管している鍵を、少しの間僕にちょっと貸してくれないか?」

「? ケビン、それは――という約束だったでしょう?」

「うん、それがちょっと事情が変わってね――頼む、フローラ。カスミたちには後で僕が説明しておくから」

「――分かったわ、ケビン。もうすぐ書類へサインを書き終えるから、あなたは先にエリーの所へ戻って。例の資料は私が持っていくわ」

「す、すまないフローラ。助かるよ」


 ケビンとフローラは共に真剣な表情かつ小声で話をしていることから、彼らが話す例の資料とはよほど重要な物のようだ。それも鍵がかかる場所へ保管していることから、彼らにとって外部に知られたくない情報が書かれているのだろうか?

 そんな二人の様子を遠くから見ていたエリノアもどこか不信感を覚えながらも、彼女は何も言わずに一人席に座っていた。

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