第15話 砂漠の爆燃岩
三日後に動きがあった。
「大変だ。直径が百mもある大きな爆燃岩が街に向かって、砂漠をゆっくり進んで来ている」
爆燃岩は火気や衝撃で爆発する岩であるが、普通の物はそこまで大きくはない。
「爆燃岩ってことは爆発するだろう。そんなにでかい爆燃岩の塊が街に到達して爆発したら、大惨事になるぞ」
「速度は?」「位置は?」と冒険者ギルドは騒然となる。
誰かが計算して叫ぶ。
「街に到達する時刻は明日の夜明けだ。それまでに破壊しないと、街が危ない」
(街を破壊する気か? でも、まだ遠く離れておる。わいが爆破処理してやれば街は救える。ほんま、面倒な作業やで)
チャンスは外に出て、足から炎を噴出させて高速で空を飛んだ。
空を飛ぶこと一時間で、ゆっくりと砂漠を転がってくる、赤い
近づいて鑑定する。爆燃岩の特徴と思われる、黒色と炎を内部に貯めた赤い線が見えた。
(ほんまに巨大な爆燃岩や。ここまで大きい物は初めてお目に掛かるで)
チャンスは二十mの距離から炎の息を吐き掛けた。
普通の爆燃岩だと火の気があれば爆発する。だが、爆燃岩は強力な魔法によって守られているのか、爆発しなかった。
チャンスは何度も高熱の炎の息を吹き掛けたが、爆燃岩は爆発しなかった。
(高温の炎の息が接触しても爆発せん。どうやって破壊するんや? まさか、粘土採取地の女神像で、これを爆破するんか?)
「チャンス」と呼び掛ける声がした。ゼルダが空飛ぶ絨毯に五インチの大砲を積んでやってきていた。
チャンスは空飛ぶ絨毯に飛び乗る。
「あれは爆燃岩やけど、妙や。高温の炎の息を吹き掛けても、一向に爆発する気配がない」
「なら、大砲で攻撃してみましょう」
「衝撃を与えても無駄やと思うけど、とりあえずやってよう」
チャンスは五インチ砲に玉を詰めて発射する。
大砲の弾は爆燃岩に当るが、砲弾が弾かれた。
「駄目や。やはり何か強い魔法で爆燃岩は守られておる。炎による熱も。大砲による衝撃も、無効や」
ゼルダが緊迫した顔で提案する。
「なら、どうする? 私がハンマーで側面を叩いてみるか?」
「無理やろう。だが、わいに考えがある。ちょっと待っていてくれ」
チャンスは爆燃岩の頂上に下り立つ。
爆燃岩の表面を確認すると、女神像と同じ形の凹みが幾つもあった。
「やっぱりや。ゼルダはん、待っていてくれ」
「何もできることはないけど岩を見張っておくわ」
チャンスは粘土採取場に行き、土嚢の袋を借りる。土嚢の袋に女神像を二十個入れて持って行く。
爆燃岩の元に戻ると、女神像と同じ形に凹んでいる窪みに女神像を嵌め込む。カチッと音がする。
女神像はすぐには爆発しなかった。だが、女神像が爆燃岩と地面に挟まれると小さな爆発を起こした。
女神像の爆発で爆燃岩がほんの少し小さくなる。
「思ったとおりや。女神像で爆燃岩を小さくできる」
「でも、これ女神像が百や二百じゃ足りないわよ」
「ゼルダはん、急ぎ人を集めてくれ。粘土採取場で女神像を掘らせて、ここに運んできて」
「わかった、粘土採取場での指揮は私が執るわ。チャンスは現場での作業を頼む」
チャンスのほうが空飛ぶ絨毯より速い。なので、数往復は爆燃岩と粘土採取場を行き来きして女神像を取ってくる。
女神像を取っては嵌め込み、爆燃岩に爆発を起こさせて小さくしていく。
そのうち、空飛ぶ絨毯を持つ冒険者がやって来て爆破作業に加わる。順当に岩が小さくなっていく。
だが、爆燃岩の大きさが半分になったところで、女神像を運んできた冒険者が悲痛な声を上げる。
「駄目です。一生懸命に粘土採取場で女神像を掘っていますが、女神像の数が不足しています。このままでは、女神像が足りなくなる」
「何やて? 何か、まだ隠された方法が、あるんか?」
チャンスが考え込むと、空飛ぶ絨毯でやって来たロビネッタが叫ぶ。
「爆発箇所を繋げてください。できるだけ近くで固めて爆発させるようにするんです。単発ではなく、連鎖爆発で威力を上げるんです」
「おお、そうか。ありがとうな」
(簡単に言ってくれるで。爆発にも回転にも巻き込まれんように近くに、女神像を固めて埋めるって、大変なんやで)
チャンスはロビネッタの提案に従った。
ロビネッタの思惑通りに、固まって爆発したほうが爆発は大きく、爆燃岩が吹き飛ぶ量が多い。
(これ、完全に爆発物を使ったパズルやん。もう、ほんま、こういう頭を使うパズルは苦手なんやけどな)
チャンスは現場にいる冒険者に声を懸ける。
「おい、誰か頭のいいやつ、おらんか。うまく、爆発部位が固まるように指示してくれ。わいは嵌める作業にだけ集中する」
ロビネッタが威勢よく応じる。
「わかりました。パズルなら任せてください。得意です」
「なら、頼むわ」
ロビネッタが一段高いところから使うべき女神像を指示する。
指示を受けた冒険者がチャンスに女神像を投げて、空飛ぶチャンスが受け取る。
チャンスはロビネッタの指示された場所に女神像を嵌めていく。
チャンスはロビネッタの指示の元、上や下へと飛び回った。
大きな連鎖爆発が続き、岩が小さくなる速度がみるみる上がる。
途中で岩の回転速度が上がったり、女神像が来なくなったりした。
だが、チャンス、ゼルダ、ロビネッタ、冒険者は見事に活躍した。
最後の一個が嵌まり、爆燃岩は飛び散った。
振り返ると、朝日を浴びるユガーラの街が遠くに見えた。
「ふー、何とか、街まで届く前に爆燃岩を破壊したで」
ロビネッタの操縦する魔法の絨毯で粘土採取場に行くと、泥だらけのゼルダがいた。
ゼルダは泥に
「チャンスがここに来たのなら爆燃岩は片付いたのね」
「ゼルダはん、ご苦労様。街は守れたで」
チャンスの声に、粘土採取場で女神像を掘っていた冒険者と作業員が歓声を上げた。
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