思っていたより…(3)

「それではこちらがギルドカードになります。」

と、プラスチックのような素材でできている、全体的に茶色で、縁に白のラインが入っているカードが渡される。

「ギルド登録をして頂きますと、色々な特典が御座います。まず、ギルド内で取り扱っている情報を無料で提供する事が出来ます。そして新たな情報を提供してもらった場合その情報に見合った金額をお支払い致します。」

それは確かにとても大きい特典だ。話を切って悪いが早速聞きたいことを言ってみる。

「この頭上に浮かんでいる数字はなんですか?」

「そちらは神様によりこの世界に訪れた人に表示される、貢献度ランキングになります。現在優希様の順位は9979という事になります。」

なるほど、確かに確認してみると数字が変わっている。きっと仕事をしたからなのだろう。という事は少なくとも1万人近く、協力者がいるという事だ。

「話を戻しますが、他にもギルドカードの提示により侵入不可地域に入れたり、多くの仕事が回ってきます。」

「なるほど、そういうシステムか。」

そのギルドカードにもランクがあるらしく、下から白、緑、青、赤、黒、銅、銀、金が存在し、仕事をこなすと上がるらしい。

「優希様は白ですので、侵入不可地域にはまだ入れません。なので仕事を多くこなし、ランクを上げましょう。」

尚、紛失した場合はランクが1つ下がり、再発行料も発生するとの事。とてつもなく恐ろしい。しっかりと肌身離さず持っていようと決意した。

「他にも色々とありますが、今回は省きます。そして最後にこれを。」

渡されたのは丈夫そうで少し大きめなウエストポーチとよく研がれているであろう鞘付きの片刃の短剣。

「銀貨に登録されている方を《冒険者》とお呼びしています。冒険には危険と隣合わせですのでこちらを支給されております。」

早速ウエストポーチを装着し、中にギルドカードと短剣を入れる。新しく仕事を受注するかと聞かれたが断った。武器があってもモンスターに勝てる気が全くしない。そういう仕事は他の人に任せるのが頭のいい選択だと思う。

「じゃあ、仕事に行ってきます。」

「ご武運をお祈りしています。」

「わんっ!」

ギルドスタッフさんの送り出しの言葉がご健闘からご武運に変わってた気がするのだが気のせいだろうか。ついさっきそういう仕事は受けないって言っていたのを聞いていなかったのだろうかと少しばかり思ってしまった。

「……じゃあチヅレ、次の仕事に行くよ。」

「わんっ!」

確かもう1つの仕事は山の周辺との事だったはず。ギルドを出て、ゆっくりと山へと足を運んだ。


「はぁー、疲れた!でももう少しだから頑張んなきゃなぁ。」

ミルソウと呼ばれる草を採集しまくって、今は5袋目。チヅレは引っこ抜く手段がないので付近で蝶々を追い掛けて遊んでいる。

「手にタコが出来そう。この草しっかりと根を這ってて硬いんだよ。」

と言いつつもそろそろ麻袋に収めきれなくなる。麻袋を縛り、ポーチに収納する。チヅレを呼び、帰ることを告げると全速力でこちらに走ってきた。

「わんわんっ!!」

「全く、あんまり遠くに行っちゃダメって言ったでしょ。」

「わんっ、わわわんっ!」

チヅレが鳴くことをやめない。何か嫌な予感がした私はチヅレが走ってきた方向に目を向ける。

「ん?あれは……犬?」

その方向から犬の様な生き物が走ってくる。段々と近づく度、そのどんどんシルエットが大きくなっていく。

「……!チヅレ、下がって!」

ポーチから急いで短剣を取り出す。あれは犬じゃない。仕事依頼に書いてあったフォレストウルフ、狼だ。

短剣を持つ手が震えているのが分かる。フォレストウルフは私の10メートルにも満たない距離まで到達しており、攻撃するタイミングを伺っている。鋭い牙が露わになり、涎が垂れている。逃げても追い掛けてくるだろう。

腰を下ろし、攻撃態勢に入る。短剣の先を敵に向けて恐怖を押し潰すように叫ぶ。

「ああああああああぁぁぁっ!」

この世界で初めて、命のやりとりを交わす。

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