第2話

 通知欄に灯る「1」という数字に、ぴこん、と脳内センサが反応する。


 早速クリックすると、フォロワーさんがいいねを押してくれていた。最近よくいいねを押してくれる方だ。いつもありがたいなと思いながら、ゆるい猫のアイコンに少し微笑む。


 一時間前に上げて、リツイート3、いいね10。まあそんなもんかなー、と呟いて、椅子にもたれながら伸びをする。


 こうしてTwitterに音楽を上げるようになって一年。音楽を聞いてもらうのは少しハードルが高いみたいで、なかなか反応をもらえず、悔しい思いをしたりもする。やけっぱちになって「俺の曲を聞け!!!!」と叫ぶツイートをすることもある。だけどこうして温かく見守ってくれるファンがいてくださるのは、改めて、とてもありがたい。


 さあ、明日も音大の授業がある。遊んでばかりもいられない、とDAWの画面を開く。明日の二時間目の授業までに一曲仕上げないといけないのだ。今回の宿題は「弦楽四重奏」。普段全く作っていないジャンルだから、どうしても後回しになってしまっている。


 ああ、これ、今日も徹夜コースだな……。


 コーヒーをすすってから、もう一度伸びをする。さっき上げたポップスみたいに、得意分野な曲ならいくらでも書けるのに。勉強だから仕方ない、将来の自分のためだ、と自らに言い聞かせても、できないものはできない。


 ふと、タイムライン上に可愛い女の子の絵が流れてきた。上目遣いに、頬をちょっと染めながら、先輩に傘を差し出す制服姿の女の子。好きな絵師さんの作品だ。何かを考える前に、反射的にいいねを押していた。


「今日の絵も尊い…!あああああ」


 コメントを打ってから、にしてもいいね220って、絵師はいいなあ、と溜め息が出る。


 だけどこの人も、日常のツイートを見ていると色々大変そうだもんなあ。お仕事との両立とか。みんな、何かに不満を持ったりしながら、なんだろう。文句ばかりじゃいけない!


 雨の日の校庭。弦のピチカート。ぽろんぽろんと弾む。


 あっこれこれこれ!と声が出ていた。


 DAWの画面を再び開く。さあ、いっちょ、雨の世界を作ろうじゃないですか!


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