第2話~出会い~

とある中学軟式野球大会決勝、最終回の裏2アウト満塁、スコアー6対3 1発サヨナラ逆転の場面、打者は折原遥おりはら はるかこの物語の主人公。



父が元プロ野球選手で母が元陸上選手の間に生まれた中学3年生の走攻守揃った右投げ右打ちの野球大好き少女だった。



2ボール2ストライクと追い込まれ運命となった5球目、球は高めのボール気味の球だったが主人公の遥の大好きな球だった。


力いっぱい振りぬいたバットに当たった球はライトとセンターの間を抜く長打コースになった。


走者一掃になり同点、3塁に来た時に3塁コーチが止めるかどうか悩んでいた、遥はチラッとボールの行方を見た・・その時「いける」とホームに突っ込んでいった。


ヘッドスライディングで頑張って手を伸ばし結果はセーフでサヨナラ逆転になったが、その時にキャッチャーがバランスを崩し折原遥の足に倒れてきて膝を怪我してしまった。


大会の医師から「打撲だね、骨には異常は無さそうだけど一応病院に行ってください」と言われ、アイシングをして少しすると痛みが落ち着き歩ける様になった。


翌日、遠征先から地元に戻り最寄り駅のバス停で待っていた時に事件は起こった。


道を挟んだバス停の横で抱えた子供に気を取られ繋いだ手を離された子供が道に出てしまい、そして子供に向かい車が走ってきた。


遥は「危ない」と大きな声を出しながら道に出た子供に向かって走り出し、そして子供を掴んだはずだったが何の感触もなかった・・一瞬「え?」って思ったところに車が来て避けようと思ったが痛めた足に力が入らずそのまま衝突してしまった。



遥が気づくと母親がいる病院の部屋にいた。


そして右膝に痛みがありギブスがあるのが直ぐに分かった


「お母さん・・」


遥が声を出すと母親が涙を浮かべながら


「遥、気がついてよかった、病院から電話があった時には・・出発しようとしていたバスに乗ろうとダッシュして車に撥ねられるなんて・・まったく」


自分の記憶と違う展開に起きた事を話したが、目撃者多数でしかも子連れの女性なんていなかったと言われた。


その後、父親も来て家族が揃ったところで、右足の怪我でもう野球は出来ないと言われた。



2ヶ月後、順調に回復し退院したがリハビリで半年くらいは通院が必要と言われた。


学校に通い始めると今度は決まっていた女子野球部のある高校の推薦も白紙になっていて、それを聞いた遥は翌日から「足が痛い」と母親に嘘をついて学校に行かなくなってしまった。



学校に行かなくなって1週間経ったある日、起こしに来た母親が1通の封書を持ってきた。


聖門せいもん女子高等学校ってところからみたいだけど、遥知ってる?」


遥は渡された封書を見ながら


「聖門女子?もしかして進学の先生が何かしたのかな?」


「後で学校に電話して聞いておくね、それから今日お母さん大学の講師あって出かけるから、お昼は適当に食べてね」


母親はそう言うと部屋を出て行った。


遥は封筒を開けて中身を確認すると、学校案内、手紙、そして黒い水晶のついたネックレスが入っていた。


手紙を読むと挨拶から始まり最後に2週間後にカリキュラムの一環で生徒が学校説明に家に行くので、その2週間の間付属のネックレスを身につけていて欲しいと書いてあった。

書かれたネックレスを見ると銀のチェーンにペンダントは銀の枠の中に黒い水晶が納まっている形状だった。



折原遥の自宅前に2人はいた。


天羽あまは先輩ここじゃないっすか」


そう言ったのは身長160cmポニーテール


「間違いないわ、ちゃんと折原遥って書いてあるし」


ゆっくりとした口調のポニーテールより少し背が高い165cmロングヘアー


「天羽先輩は完璧女子なんだけど・・方向音痴だけ悪い方向に完璧ですね」


ポニーテールは笑いながら言うと。


ロングヘアーがポニーテール睨みながら笑顔で


「黙りなさい片霧かたきり


・・・・


ロングヘアーが聖門女子2年 天羽 響子あまは きょうこ


成績優秀、スポーツ万能、そして究極の方向音痴


ポニーテールが聖門女子1年 片霧 陽子かたきり ようこ


オール3タイプの普通の女子 今回は天羽のナビ要員


・・・・


「では参りましょう」


天羽はそう言うと呼び鈴を鳴らした。


そして、折原遥と天羽響子達との運命の歯車が動き始めた。


「・・・と、まぁー普通の学校ですが質問とかあれば」


片霧が適当に説明すると遥が手を上げ緊張した声で


「し、質問いいですか?」


今度は天羽が丁寧に


「いいわよ、何かしら?」


「今着てるのは制服ですか?」


「そうよ珍しいでしょう、うちは夏服も冬服もワンピースタイプだから」


天羽はそう言うと学校案内とは別の冊子を出して見せてくれた。



聖門女子の制服は夏服が上下明るさの違う紺色で灰色の半袖のYシャツ


冬服が胸から上が茶と白のツイード調で下が黒、ジャケットは茶と白のツイード調で黒のパイピングと言うものだった。


スカート丈は夏冬とも高校生なので膝下設定。



制服よりユニホームに関心があった遥にとって高校生の制服はセーラー服かブレザーしか頭に無かったのでワンピースはとても斬新であった。



「ところで、折原さん学校案内と一緒に入っていたネックレスの事なんですが」


思い出したかの様に天羽が言うと


遥はネックレスを外しながら申し訳無さそうに


「あのー色が変わっちゃって・・これって買取ですか?」


外したネックレスを天羽と片霧に見せた。


「あ、天羽先輩・・これって・・やばくないですか?」


片霧がそう言うと遥は固まってしまった。


「そうね・・折原さんちょっと貸してもらえるかしら」


天羽はそう言うとネックレスを手に取り、カバンから何かの機械を取り出しネックレスを機械にセットしてスイッチを入れた。


少しすると機械からアラームがなり数字が表示された。


「まぁ、凄いわ」


天羽がそう言うと片霧が機械を覗きながら


「先輩どうしたんですか?って、ろ、62!まじっすか」


「ほぼ内郭は変わってる感じかな」


「片霧だって入学前で45が限界だったのに・・凹むわ」


遥は「やばい、本当に買取か?」そう思っていると


天羽が嬉しそうに


「おめでとう折原さん一次審査は合格よ」


「へ?」


キョトンとした遥に片霧が悔しそうに


「基準値は超えてるし、しょうがない合格だ」


「ほへ?」


合格と言われた遥は意味が分からなかったが天羽が話をしてくれた。


「聖門ではこの黒い水晶を白く出来る人を探しています、それ以上は入学してからじゃないとお話できませんが、よかったらうちを受験してみませんか?」


「受験ですか・・」


野球が出来なくなり高校も適当に行ければいいと思っていた遥は考えた。


「天羽が学校側に推薦したとしても勉学の基準は満たしていないと入学できないので」


天羽が思い切った事を口にしたので片霧が慌てて


「来る意思があるなら・・わ、私も推薦するよ」


2人にそう言われた遥は小さな声で


「私には・・もう・・」


遥が言い終わる前に天羽がゆっくりした口調で


「知ってるわ、怪我の事も・・もう一度野球がしたいなら」


そう言うと天羽は立ち上がり遥の横に行くと怪我をした足に手を当てながら「これは内緒ね、約束」と囁いた。


天羽の制服の一部が淡く光だし数秒で消えると今度は


「折原さん立ってみて」


言われた遥は痛みは残っているが普通に立つことができ驚いた。


「あ、天羽さんどうやって?」


「水晶の色が変えられる人にしかできない奇跡ってところかな」


天羽は笑顔で答えながら腕時計を見て時間を確認した。


「もうこんな時間、折原さんご両親ともよく話をして考えてくださいね、それとこのネックレスはもう不要なので回収しますね」


「はい、考えてみます」


少し覇気が戻った遥がそう言うと天羽と片霧は荷物を持って部屋を出た。


そして扉の前に来て天羽が振り返り


「折原さん、明日から学校行って勉強しないと間に合わないからね」


そして、目の前のドアを開けようとした時に遥が慌てて


「あ、天羽さん・・そこトイレです・・」


「あら?そうね、ここトイレよね」


「天羽先輩・・どこに行くのかと見ていれば・・やっぱり」


片霧がそう言うと、天羽は笑顔で


「片霧・・玄関まで案内しなさい」


「はいはい、こちらでございます」


片霧は呆れた口調で言った。



2人が帰ってから遥は痛みが引いた足を触りながら


「私にも出来るのかな?」と思い今日来た2人に興味が湧いてきた。



その夜、遥は両親に進学について相談をし、次の日から学校に行きだした。

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