負債者面接
「改めて名乗らせてもらうが俺の名はスケイル。このトアル王国最大規模の金貸し『竜の鱗』で長をやらせてもらっている。普段なら面接など行わないでさっさと仕事場に行ってもらうんだが今回はお前の願いで形ばかりだが面接をさせてもらうことになった」
赤髪の短髪に赤目の事務服を着た男、スケイルが話しかける。
「竜の鱗の名の由来は文字通り金を竜の鱗並の利息で返してもらうって意味だ。竜の鱗が同じ重さの金より価値がある事はお前でもわかるか?」
スケイルは少し首をかしげながら話を続ける。
「主な収入源は貸した金の利息もあるが、俺が所有する金山から取れる金が最大の収入源になっている」
地図を広げてトアル王国のすぐそばにある鉱山を指差すスケイル。
「金を返せない男はここで坑夫として働いてもらうことになっている。女の場合は……言わなくても分かってるよな?」
スケイルはニヤリと笑った。
「さて、お前にはこの屋敷を見てきてもらうわけだが……ミーファ!こいつを案内してやれ!」
「はーいっ!こっちですよー!」
スケイルがミーファの名を呼ぶと、金髪ミドルヘアに青目の小さな事務服を着た少女がとびらを開けて現れた。
「さーさーお手つないでー!」
ミーファが手を掴むとスケイルの部屋から引き連れられた。
「えーここが金を王国に送り出すところでーす!」
そこには鉱山で加工された金塊が山ほど並べられていた。
「さーさー次のとこいきますよー」
またミーファが手を引っ張っていった。
「ここが宝物庫でーす!高価なものから魔力やスキルの込められた国宝クラスのものまでたっくさんありますよ!」
そこには目に見えて価値のありそうな財宝から、一見価値のなさそうに見えるものまで様々な物品が並べられていた。
その時一つのバッグが棚から落ちてきたので拾おうとした。
するとバッグが勝手に開きこちらに向かって飛びかかってきた。
「あ!だめです!止まれっ!!」
するとミーファが横からバッグに飛びかかりバッグともみ合いになった。
しばらくミーファがバッグの開け口を押さえつけているとバッグは大人しくなり、ミーファが錠をかけた棚に戻した。
「さっきのは人食いバッグといって食べられた人間は何処かに消えちゃうんです!こわいですねー!」
他にも聴きたいことがあったがミーファが特別驚いてないことからここでは日常茶飯事なのだろうと思った。
「さーさーここが一番気になりますよね!食堂でーす!オススメはトアル鳥のモモ焼きセットですかねー!ちょっと高いけど」
食堂では各々様々な料理をトレーに乗せて歩いていたり、机に座りながら談笑しつつ食事を楽しむ者もいた。
「あ!ツカサさん!今日は何を食べてるんですか?また一番やっすいやつ頼んでませんよね?」
ミーファが足元から離れ、ツカサと呼んだ人物の方向へ歩き出した。
ツカサと呼ばれた黒髪茶目に事務服を着た少年が振り向いた。
「ミーファ……俺だって安いから魚食ってるわけじゃなくて好きだから食ってるんだよ」
「魚ばっかじゃ痩せちゃいますよー!肉肉!」
「ははは……そちらの方は?」
「スケイルさんが新しく採用した方でーす!」
「ほぅ……」
ミーファとツカサとの会話を黙って見ていると、ツカサがこちらを一瞬睨んだ。
その瞬間全身から悪寒が走ったので思わず目をそらしてしまった。
「……この人なら大丈夫。スケイルさんにも伝えておいて」
「わかりましたー!ツカサさんが言うなら間違いないですねー!さーさー最後のところへ行きますよー!」
ミーファが歩き出したのでツカサに一礼してついていった。
「ここが貴女が働く事務所でーす!計算とか報告とかをしまーす!」
ミーファの声が聞こえたのか事務員の何人かがこちらに手を振ってきた。
「あ、あの……」
「ん!?なんですか?」
「私計算なんて出来ない……てっきり娼館へ連れて行かれるのかと……」
「計算出来るまではこちらで教えるから安心してくださーい!それに娼館なんてスケイルさんが許しませんよー!」
ミーファの後ろをついてきていた女性が急に喋ったので彼女は驚いたが、女性に安心するよう伝えた。
「貴女はなぜこんなところに?まだ子供でしょ?」
「わたしは両親が借金苦で自殺した孤児だったんです。けど何年かかってもいいからここで働いて返せってスケイルさんに言われてここに来たお陰で飢え死にしなくてすみました!」
「でも両親が死んだのはここの借金のせいじゃ……」
「それは違います!最初はわたしもスケイルさんが悪いのかと思いましたけど話を聞いていたら両親の借り方に問題があったんだってわかりましたから」
女性が問いかけるとミーファは気丈に答えた。
「だからスケイルさんを、竜の鱗を信じて頑張ってみませんか?」
ミーファは女性に向かって手を差し伸べた。
「……わかった……お金を返すためにも頑張ってみる!」
女性はミーファの手を掴み、握手した。
「はい!みなさーん!こちら新しくここで働く……」
ミーファの声は近寄ってきた事務員達の質問責めにかき消されていった。
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