(10)

 8時過ぎ。

 ボーッとしてしまう。

 集会室には全員がいるわけじゃない。

 それに、全員揃うことはない。

 根津さんも佐藤くんも死んでたらしいから。

 根津さんは外で、佐藤くんは建物の奥の方の部屋の中で、ヒデくんに美結は見に行くなと言われたし、実際見てきた健ちゃんから聞いた話だけだけど、二人とも身体が千切れたみたいにして死んでたようだった。

(身体が千切れるって・・・)

 見てなんかいないから、考えてるだけだ。

 息が止まるくらいお腹が締め付けられるようだ。

 苦しい。

 ほんの30分前くらいまで、法律とかっていうのを守らなかったらどうなってしまうのかは分からないでいた。

(分からないけど、何だか分からなくても守った方がいいよね)

 フワフワとした訳の分からない怖い感じで思ってた。

 でも、さっきのフワフワしてた怖い感じは、もうズッシリ重い恐怖に置き換わってた。

 思う。

(二人がしんでしまったなんて、そんなのホントのことじゃない)

 頭を振る。

(でも、健ちゃんとヒデくんがそんな嘘ついても・・・)

 胸の辺りを押さえる。

(なに、これ・・・)

 建物の中を調べた最後に根津さんと会って、話もした。

 その根津さんが・・・

 「美結」

「・・・」

「美結」

「・・・」

 「おい、美結!」

(!)

 「え?」

肩を揺さぶられたから、ヒデくんを見る。

「・・・なに?」

「なにって、美結も気を付けろよ」

 ヒデくんらしくないイライラ感がビリビリ伝わってきた。

 でも、とっさに私には、ヒデくんのイライラが何か全然分からない。

 「え?気を付けるって?」

だから、つい言ってしまったんだけど

「美結、お前」

ヒデくんが腕組みしながら私を見るので、美愛が私とヒデくんの間に入ってきた。

 そして

「美結はショックで聞こえてなかったんだよ」

って言ってくれた。

 そうかもしれない。

 確かに私はヒデくんの言ってることを聞いてなかったし、聞こえてなかった。

 「はぁー・・・」

ヒデくんが腰に手を当てて溜め息をつく。

 「じゃあ美結、もう一回言うから、ちゃんと聞いててくれよ」

無言で頷く。

 「法を守らないと排除されるっていうのは、やっぱり本当だったんだ」

「うん・・・」

「排除されるっていうのは、死ぬってことなんだ」

「うん・・・」

「だから、とにかく美結も法を守ることだけは絶対気を付けろよ」

「うん・・・」

 コクンコクンコクンと3回頷いたら、今度はやっとヒデくんの言葉が何とか頭に引っ掛かったので

(法律は守んなきゃ)

とだけ、しっかり思って、自分の一番深いところに言い聞かせた。

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