8月1日

(1)

 夢から覚めるとき

 この幸せも終わる



 踏切のように、ものすごい音で急に目が覚めた。

 「・・・」

(なに?)

(椅子に座ってる?)

(ここ、教室じゃない?)

(机で寝てたの?)

 乗ってたはずの電車の中じゃない・・・

 大きな音は、まだまだ止まない。

 周りを見る。

 いるのは同じクラスの人達。

 みんな私と同じで、急に叩き起こされて何が何だか分からない顔。

 みんな私と同じで、周りを見回してる。


 「自然状態研究所へようこそ」

(!)

 突然声がしたと思ったら、前の壁に、はめ込まれた大きなテレビに青一色の画面が写ってる。

 でも、声はテレビじゃなく上から聞こえてきたみたいだ。

 「机の中に各自が使用する携帯端末を配付しましたので、確認しなさい」

(え?)

思わず声のとおり、机の中に手を入れると何かあった。

(何、これ?)

出してみたらピンク色の機械だった。

 「各自、携帯端末の裏面のオンオフとある部分を押しなさい」

(オン、オフ?)

言われるまま『ON/OFF』と書いてあるところを親指で押す。

 小さくピーッという音がして、画面が明るくなる。

 「指紋と使用者を照合しました。今後携帯端末を使用する場合は指紋認証が必要です」

(は?)

 確かに画面には私の名前が映し出されてる。

 「各自の机横にマニュアルを用意しました。この施設の利用や携帯端末の詳しい使用方法についてはマニュアルを読みなさい」

 「・・・」

声が止まったので、ちょっとだけ周りを見る。

 それで、今やっと判ったけど、みんなの席順は出席番号順。

 前の席の藍川くんは声のとおりマニュアルを机の横のフックから取ってめくり始めたけど、私は自分の名前だけ映った端末の画面をまた見た。

 「自然法により、国民は一人の国王に自然権の行使を委ね、その臣民となりました」

突然、今度は青一色だったテレビの画面に字幕が映し出される。

 声は字幕を読み上げてるようだ。

 「国王は法を制定して国家を統治し、臣民は議会を開き自治を行います」

 「それでは自然法を伝えます」

「国家は国王と臣民で構成され、国王は不可侵とする」

始まってしまうと、字幕も表示されながら、声が流れるように読み上げてく。

 「日々選挙し、前日と異なる者を国王に選出する」

「国王が任期の間過去の法に矛盾しない限り制定する法は一本を超えてはならない」

「法は臣民に適用され、法に違反した者は排除される」

 頭には何も残らない。

 どこかお店で流れてるような音楽と同じだ。

「法の違反は臣民の告発でのみ確定する」

「臣民の議会に法以外の事項を提案した者については、否決をもって排除される」

「最初に法の違反があった日から三十日以内に人口を一にする」

「以上です」

「自然法については携帯端末で検索し表示することができます」

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