98話 ザナ ~作戦~

 私達は戦いの準備をしていた。

 この閉鎖された鉄格子の中で、ヒナと母親のイザリスを加えて。



「作戦とかあるの?」



 徐ろにそう聞いてみる。



「えぇ。私が囮になります。鍵がない事に気が付いたコウガ様っ⋯⋯コウガはすぐにここへ来ると思います。それを阻止する為に、私は皆さんとは別に行動してコウガの隙を見つけます。私が合図するまでは、怪しまれない為にここにいて下さい」

「どうやって合図するの?」



 私がそう問うとイザリスは窓から丁度見える、コウガがいる建物の二階を指さした。



「あれを見て下さい。私はあそこの窓から皆さんに合図をします。ですのでしっかりと見ていて下さいね。合図したらあの建物に乗り込んで下さい。それからどう成敗するかは⋯⋯皆さんにお任せします」



 それを聞きそれぞれが首を縦に振ると、イザリスは何かを思い出したかのように言葉を続けた。



「あっ⋯⋯それと、この街には地下下水道があります。コウガは自分の身が一番大事。劣勢になれば必ずそこへ逃げ込むはずです。万が一の為にも警戒していて下さい。この街からコウガを追い出しても、また新たな仲間を作り復讐にくるかもしれません。そうなればまたこの街が危険に晒されるだけです⋯⋯絶対にそれは阻止しなければなりません」

「俺が奴の所に行く」



 そう名乗り出たのはプリンだ。

 確かにプリンだったら大丈夫だろうけど、一人で平気かな?

 しかし私のそんな不安は一瞬にして破られた。



「お前らは下水道で待機しててくれ。俺が奴を下水道に誘導する。お前らが下水道の出口で待機、俺が逃げた奴を追い込み挟み撃ち。どうだ? 我ながら最適な案だろ?」



 プリンがニヤッと口元を緩めドヤ顔をしている。

 それなら確かに逃げ道がなくなるし、コウガを追い詰める事が出来そう。



「うん! それ名案だね」

「あたしもそれでいいよォ。テンについて行くゥ」

「⋯⋯頼むぜ、相棒!」

「皆さん、大丈夫そうですね。それでは⋯⋯ヒナをよろしくお願いします」



 イザリスはヒナを私達に託し立ち上がった。

 戦う決心が付いたようだ。



ガチャーー



 鉄格子が閉められるとイザリスはコウガの元へ歩いて行った。



「⋯⋯こいつはここに置いてくぞ」



 プリンはヒナに目線を落とし頭をポンッと軽く叩いた。



「そう⋯⋯だね」

「ヒナもいっしょにいく! おねえちゃんをたすけたい!」



 私の台詞を遮るようにそう言った。

 しかしヒナに銃を握らせる事は出来ない。

 いくらなんでも、撃った事はないだろう。


 こんな小さな子を巻き込むわけには⋯⋯。


 しかしヒナを見ると幾分キリッとした表情だ。

 こういう子に限って戦う覚悟はあるのかもしれない。



「ねぇヒナ。ヒナはここでお姉ちゃん達を待っていてくれない? お姉ちゃん達、戦いが終わって帰ってきて、誰もいなかったら寂しいな。ヒナが迎えてよ! ね?」



 私はヒナの顔を見つめ、優しく語りかけた。


 最初は首を横に振るしかなかったヒナだが、なだめているうちに徐々に俯き、首を縦に振った。

 小さいながらも納得はしていないのだろう。そんな顔をしている。

 しかしここはわかってもらわないと、さすがに危険すぎる。

 イザリスに頼まれた以上、ヒナを守る義務がある。


 ここで鍵を掛けておけば絶対に誰も入れない。

 鍵は私が持っている。

 土の下に鍵を隠しておけば、私達が乗り込んでイザリスがここに帰ってきたらすぐにヒナを抱きしめられる。


 色々考えたが、これが最善の策だろう。



「おい、あれ」



 ツキがそう言うと窓の外を覗いた。


 どうやらイザリスがコウガの部屋に辿り着いたようだ。

 建物の二階の窓にはコウガと話しをしているのか、こちらに背を向けているイザリスの姿があった。



「着いたみたいだね」



 緊張が走る。

 イザリスがいつ、どのように合図を出すのかわからない。


 一時も目を離さずその時を待つ。



「おいおい⋯⋯あれ、まずいんじゃないか?」



 ツキの顔が強ばっている。

 私は恐る恐る窓の外、イザリスがいる所を見てみると⋯⋯。



「イザリス⋯⋯! 早く助けに行かなきゃ!」



 私が目にしたは、イザリスに銃口を向けているコウガの姿だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る