77話 乾いた大地 ~紅の靴~

「こっち?」



 私達は全力で男を追っていた。

 何も知らない関係のないマールをまた巻き込んでしまった。

 私の不安は募るばかりだが、今はとにかく無事でいることを祈るしかない。



 そこは木々が生い茂った樹海。走っても走っても見えるのは樹木。ぬかるんだ地面を隠すかのように枯葉が散りばめられ、足が取られてまるで追跡をこばんでいるかのようだ。


 男の姿は見えない、音は聞こえない。

 私の不安を煽るかのように肌寒い風が吹き荒れる。走る音さえ掻き消え時期に追跡も不可能になっていくーー。



「ねぇ⋯⋯これ」



 しばらく走り続けているとある樹木に目が止まった。

 極太の根っこから、上に伸びる沢山の枝分かれしている立派な樹木⋯⋯見上げるとそれぞれの枝も太くて立派だ。その内の一つの枝だった。


 赤黒い血がべっとりと付いていた。

 手で触ってみるとその血が新しいものだとすぐにわかった。

 そして太い根っこの元には血が付いた靴が転がっている。



「マール⋯⋯じゃないよね?」



 私は恐る恐る靴を拾いプリンのほうを見た。

 するとプリンは何かに勘づいたのか、私と目を合わせようとはせず俯いている。



 そして絶望した。


 その靴はマールが履いていたものとよく似ている。

 信じたくはないけどプリンが思っている事が当たってるかもと思ってしまった。



「マール! マール! マール⋯⋯無事なら返事して」



 私は近くにマールがしている事を望んで叫んだ。



「やめろ」



 しかしそのプリンの冷めた声を聞き、全てを悟ったようにその樹木に向かって崩れ落ちた。



 涙が止まらなかった。

 私は関係ないマールを巻き込んで⋯⋯連れ去られて⋯⋯死んだかもしれない。

 なんて事をしてしまったんだ、と。何時までも泣き叫んだ。


 後悔しても意味がないことはわかっている。しかし仲間がいなくなることは、表せないほどに悲しい事だ。


 マールと過ごした日々を思い返すと涙が止まらない。

 まだ死んだと決まったわけではないが、望みは薄いだろう⋯⋯。




 どれくらい経ったのかわからない。もうとうに日は暮れていた。

 見兼ねたプリンが遂に口を開いた。



「いい加減忘れろ」

「忘れろ⋯⋯? 私のせいでマールがいなくなっちゃったのに?」

「ガキじゃねんだ。いつまでも喚いていたって始まらねぇ。運が良かったらまだ

生きてる」



 プリンはきっと私を慰めてくれているんだろう⋯⋯。

 でもやっぱり諦めきれない私がいる。



「運が良かったら⋯⋯じゃない! 絶対生きてる。探すから」



 私はマールが生きていることを信じ、探すことにした。もうそれくらいしかできないから⋯⋯。


 しかしこれは私の勝手な行動だからプリンを巻き込みたくなかった。

 だからプリンにお別れを言うつもりで話しかけようとすると、プリンから口を開いた。



「ふぅーーじゃあさっさとこんな所出るぞ」

「プリンも⋯⋯一緒に探してくれるの?」

「当たりめぇだろ。お前一人で何ができるんだ?」



 ちょっと嫌味っぽかったけど、そう言ってくれて嬉しかった。

 プリンは何だかんだ言って結構優しい人。

 ここに来てまたプリンの優しさに触れた気がした。




 そして私達はマールを探すべく、まずはあの男達のアジトを見つけることにした。


 そう簡単に見つかるとは思っていないけど、二人ならなんとかなる! そう思いながら樹木を背に、プリンの肩にもたれ掛かり深い眠りについた。

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