70話 ブリットン警察署 ~兄の頼み~

 珍しく起こされずに自分で起きた朝だった。

 とても目覚めが悪い朝ーー


 みんなはまだ寝てる。



ウィーンーーガシャーー



 眠い目を擦りながら私は音がする方を見た。



「ここはどこですか?」

「管理官! よかった⋯⋯」



 私は思わず管理官に抱きついた。



「苦しいですよレディ! 離れて下さい」



 あれ? 私の事レディって呼んでたっけ?

 ⋯⋯まぁいいか。管理官も無事みたいだし。


 私は管理官に今までの経緯を話した。

 管理官とはぐれてから今までの事全て⋯⋯。



「そうですか。では私はここで死ぬのですか?」

「絶対にそんな言はさせない。なんとかするから」



 絶対なんとかなる。プリンがなんとかしてくれる⋯⋯はず。

 また他力本願だけど、私じゃどうにもできない。

 私の知恵じゃ⋯⋯。プリンとか管理官の知恵がないとこの場はどうにもできない。



「うるせぇな」



 管理官と話をしているとプリンが起きたようだ。

 珍しく私よりも遅い目覚めだ。



「⋯⋯おはよォ」



 どうやらマールも起きたようだ。

 結構みんなちゃんと寝れたんだね。

 気にしてあんまり寝れてないのは私だけ⋯⋯か。



「ねぇ、どうするか考えた⋯⋯?」



 私はおもむろに口を開くと、静けさに満ちた牢屋には疲れのせいか、少し掠れた私の声が響いた。


 妙に気まづいどんよりとした空気、その沈黙からみんなの疲れがひしひしと伝わってくる。


 プリンは考え事をしているような難しい顔をしている。

 いつも冷静なプリンも今回ばかりは少し焦っているように見えた。

 マールは今にも泣きだしそうな悲しい顔をしている。優しくて素直な子だから、きっと自分を責めているのだろう⋯⋯。

 管理官はまだ癒えない傷を見つめながらただ地べたに座っている。いつもはうるさい管理官だけど、今回は本当に参っているようだ。

 みんな話す気力は残っていないみたい⋯⋯。


 私の質問に対しても、誰も何も答えようとしない。私の深いため息だけが静かに聞こえた。

 時間だけが刻一刻と過ぎ去っていくーー



カタッーーカタッーーカタッーー



 その音に私達は耳を傾けた。

 今まで少しも動く事のなかったプリンの髪の毛が僅かに揺れた。


 どうやら誰かがこの牢屋へ向かってくる。


 私達は敢えてその場からあまり動かずに、牢屋の前にその人影がくるのをジッと待っていた。


 足音は牢屋に向かう階段を降り、私達の牢屋の前でピタッと止まった。

 その人物を確認するや否や、今までジッと座っていたマールが牢屋の扉にしがみついた。



「お兄ちゃん!!」



 牢屋に近付いてきた人物はドルタだった。

 マールは涙ぐみながら扉にしがみつき話しかけた。



「マール達をここから出してよ!」



 愛しいはずのマールの呼びかけに、ドルタは答えようとせず俯いている。



「お兄ちゃん⋯⋯あたし達、殺されるのォ⋯⋯?」



 震えたマールの声は聞くに耐えない。こっちまで涙が出そうだ。


 するとドルタは、マールの安全を確認しに来ただけなのか、帰ろうと背を向けた。

 そして私達のほうをチラッと見て、ここに来て初めての言葉を交わした。



「マールを⋯⋯頼んだ」



 この言葉の意味を理解するのはそう遅くはなかった。


 ドルタが背を向け、一歩踏み出そうとしたその瞬間、地面に何かが落ちるようなチャリっという音が聞こえた。

 私は音の正体を探ろうとすかさず地面を見ると、丸い輪っかにいくつもの鍵が付いた鍵の束が落ちていた。


 そして私は⋯⋯もちろんプリンもだろう。ドルタの言葉の意味を理解した。


 ドルタは鍵の束を地面に落とすと、背を向けスタスタと階段のほうへ歩いて行った。

 もちろん、牢屋がある部屋の扉には鍵をかけずに⋯⋯。


 これで突破口は見つかった。

 しかしいつここから出るかだ。人がうろうろしている時に出るのは危険すぎる。

 ここはプリンに策を練ってもらおう。



「ねぇ、どうする?」



 私はそう言いながらプリンの顔を覗き込んだ。それと同時にマールは牢屋の扉から手を離し、私の隣にチョコンと座り込んだ。

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