60話 汚染された水道工場 ~水浸し~

「起きろ」



 私は低くて落ち着くようなその声に目が覚めた。



「お前はよくこんな所でいつまでも寝ていられるな」



 ここは水道工場の中だ。床は小汚くて薄暗く水道管が破裂して、至る所は水たまりのようになっている場所もある。

 私達はこんな所で寝ていたのだ。しかしそれも仕方なく⋯⋯だ。誰もこんな所で寝たい人なんていない。

 この工場に入ってから、罠やら警報やら回転床やらで振り回されていた私達の体は、限界を迎えてこんな所で寝るはめになってしまった。



「いいですか! この先の部屋に住めるような部屋を見つけました! 早く行きましょう」



 話しを聞くとプリンと管理官は、私が寝ている間にこの先に進み下見をしていたらしい。



「こんな場所に私一人置いてくなんて、ありえない!」



 私がそんな事を言いながら少しむくれた顔でプリンを見ると、それに呆れた顔をして返した。



「はぁ~お前が何回起こしても起きないから、俺達で行ってきたんだ」

「え? そうなの? あはは⋯⋯」



 私は苦笑いでその場をやり過ごした。

 朝が弱いのはリアルと一緒⋯⋯って、当たり前か。ここはゲームとは言え私はリアルの私だからな。



「おい、ぼやっとしてないでさっさと行くぞ」

「もう~今起きたばっかなのに。わかったよ、今準備するから」



 私は毛布と布団をインベントリに入れ、銃を腰に付け準備をした。



「いいよ、行こう」



 ようやくこのじめっとした空気の悪い場所とはお別れだ。



 プリンの話によるとこの十字の通路は、迷路のようになっていて全部繋がっているらしい。

 私は迷路のようなグネグネした細い通路を、プリン達の後を追い進んだ。



「ちょっと待ってよ」



 プリン達は一度行った所だからか心なしか歩くのが早く感じた。

 私は迷子にならないように必死で二人の後を付い行った。こんな迷路のような所で二人を見失ったら終わりだ。ただでさえこの工場は迷路のようで仕掛けだらけだ。


 そしてしばらく歩くと細い迷路のような通路を抜け、開けた場所に出た。

 そこはプリン達が言っていた部屋だ。しかしどう見ても住めるような場所ではない。



「ねぇここで暮らすの?」



 私がそう問うとプリンは、少し顔をゆがめて無理やり笑顔を作り答えた。



「あぁ⋯⋯こんな場所しかねぇが片付ければ住める場所にはなるだろう」



 片付ければって⋯⋯床はくるぶしまで水が浸っていて、その水に様々なゴミが浮いている。

 テーブルやロッカーさえも横たわっていて、水の影響で錆びてプカプカ浮いている状態だ。

 ここにどうやって住めるのだろうか⋯⋯。


 私が不思議な顔をしているとプリンが私を見て鼻で笑った。



「はっはっは! 冗談だよ、こんな所で暮らせるわけねぇだろ?」

「だ、だよね⋯⋯」



 冗談とか笑えないし⋯⋯。

 本気で暮らそうって考えた私が馬鹿みたい。


 私達はこの小汚い場所から去り、この部屋の向こう側に見える扉へ足を運ぼうとした。



ポタッーー



 その時、私の頬に何かが当たり上を見上げた。



「ねぇ、ここ雨漏りしてるよ」



 私の頬に当たった冷たいものの正体は水だ。



「雨漏りだと⋯⋯?」



 私の言葉にプリンは上を見た。

 上を見ると天井はひび割れていてそこの隙間から水が落ちてきているようだ。

 この工場は二階もあるみたいだけど、その二階に行く階段は未だに見つけられていない。

 外から見た感じだと一階建てかと思ったけど、どうやら二階もあるようだ。



ビキッーーポタポタポターー



 私達が雨漏りしている天井に見とれていると、勢いよく天井にヒビが入り水滴が一気に落ちてきた。



「うわっ! 凄い落ちてきた」

「これはやべぇ予感がするが⋯⋯」



ドンーーザァァァァァーー



 プリンがそう言った瞬間、一気に天井が崩れ、上に貯まっていたであろう水が一気に落ちてきた。



「おい、急げ! 扉に走れ!」



 プリンはそう言って扉へ向かった。

 天井からの大量の水のおかげで走れる状態ではなく、私達は泳いで扉へ向かった。



ガタガターー



「くそっ⋯⋯」



 扉へ着くと開けようとするが、水圧で空きそうもなかった。



「ど、どうすんの?」



 私はバシャバシャと浮かびながらプリンにそう問う。


 プリンは珍しく焦ったように辺りを見渡してこの状況をどう打破できるか考えているようだった。

 私はどうする事も出来ずにその場で水に浮かぶ事で精一杯だった。


 天井からは止めどなく大量の水が降って来る。

 勢いが凄くてこのままこうしていると、間違いなく私達は溺れて死ぬ事になる。



「もう⋯⋯イヤ」



 私がそんな弱気な事を呟いていると、プリンは私の顔をチラッと見て元気づけようとしているのか、笑顔で安心しろと言わんばかりの顔をした。



「ふぅ、どうするか⋯⋯」

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