#088:猫目かっ(あるいは、煮詰めて割愛/迷おって割愛)

 とか、悠長に思考に入り浸っている場合じゃなかった。「開幕!!」みたいな宣言がハツマからなされるや、


 <ま、とりあえずやってみて、みたいな感じで。今回が初めてなんで、正直展開わからないとこ、あるんですっ>


 いやそんな可愛くぶっちゃけられてもよ。だがハツマのその魅せる声色に、観客たちは総立ちに近い状態で盛り上げられている。い、いいなあ……こんなにも人の心に刺さるのん持ってたら、他に何もいらないよぉぉぉ。


水窪ミズクボ、今回こそ、はじめは『見』なのかも知れない。持ち金少ないのを狙い撃つのも確かに策としてはありなんだが……何かその『ありさ』加減が逆に怪しいような気がして来ている」


 そんな、ハツマに軽い嫉妬気味の絶叫を心の中で響かせていた私に、背後からカワミナミ君の落ち着き払った見解が提示される。


 ま、確かに。こちらが目論むことは逐一覆されてしまうのが「ダメ界」の不変真理なのかも。であれば……ほんとに静観が正解? 私はカワミナミ君と軽く目を合わせてみるけど、いや、正直全く見通しはつかないが、と言い足された。だよねえ。そんな霧中状態の我々に向けて、さらに混沌をかき混ぜるようなコトが。


 <あとは、言い忘れていたんですけど、『足場』は「5分」経つごとに、『下位者』……最初は十位のクロトさんからになりますね、その方の領域テリトリーから、脱落していきますっ!! 当然、そこに乗っていた方は失格となりますので、お気を付けくださいねっ!?>


 いや「ねっ!?」じゃあねえし。「脱落」って何。


 私たちがいま立っている「五角形の足場」は内接する五芒星によって11の区画に線で区切られている……と思っていたけど、この「区画」それぞれが独立した三角形ないし五角形ってことなんだろうか。足元の区切りの部分に目を凝らしてみる。うん、おそらくそうだ。


 運営が「脱落」って言ったからには、本当にこの足元の三角形は時が来たら落ちるんだろう。高さ3m……結構高いよ、そう考えると。


 ともあれ、時間と共に場所が狭まっていくってことか。その分、各対局者同士が近づき、戦いが起こりやすくなると。なるほど、かゆい所に手が届くほどのいやらしさだ。


 私の両隣りは、右にイブクロ(2位)、左にチギラクサ(3位)。「造反元老」と「正統元老」の違いはあるものの、二人とも「一億越え」の資金を持っているお方たちだ。初っ端、こいつらに当たることは避けたい。


 でも逆に「2位3位に積極的に仕掛けていくこと」、それは盲点にならなくない? そして皆の注目は、下位組のはずだ。なんせ、あとひと押しで「1億」だから。


 そしてあくまで憶測に過ぎないけど、元老のチーム内でも波乱が起こる可能性はないだろうか。「1億」……なんてったってそんな額だ。私なら絶対裏切るわ。


 結局考えはまとまらないまま……だったが、妙に清々しく落ち着いている自分を感じている。勝ち負けもそうだが……ここのこの場で何かを得ること、それが私の人生に何らかもたらしてくれるんじゃあないのっていう、何というか真摯かつ殊勝な思いはぁあいややっぱり無いか!


 ガンを飛ばし合いながら威嚇と嘲笑を続ける10名の中で、私は思わず無表情と力無い半笑いの中間のような表情を呈してしまい、それが逆に他の対局者を慄かせていく。

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