齢二十三

石川桜所

私は人を愛する事は出来ないと思っておりました。


幼少の頃より家族も友人も恋人も皆嘘つきであり信用など出来ず、なんだか仮面をつけた化け物が闊歩しているように感ぜられた。


私以外の人は全て人の形をしたナニカなのだという思いがあり、初め私は特別な存在なのだという誇りを持っていたが、これが恐怖に変わるまでそれほど時間を要しなかった。


暫く前に初めて太宰の人間失格を読んだのだが、私は心臓を掴まれたかのようなそんな気がした。


状況は違えどそこには確かに私がいた。


私はまだもがき続けているが、私も愛の無い世界に絶望し、発狂して死を迎えるに違いないと思った。


私もまた人の扱いには並々ならぬ自信がある。どんな奴だろうと信頼を勝ち取る術を持っている。


自分を騙し相手を騙す為に自他の観察は怠らず。


両者の性感帯と急所を探る事に心血を注いでいる。


女性と付き合い、愛してみようと思ったが、演技力を上げたのみであった。



この生き方はもう変わる事がなくまた人生を生まれ出ずる時に戻しても同じ人間になっていた確信がある。


従って私は人を愛する事は出来ないと思った。


しかし今日、素晴らしい発見をした。


何気無くSiriに愛とはなにかと問うてみた。


すると愛とは理解だと答えた。


Siriに心があるなどという馬鹿な事を言いたいのではない。


愛とは理解しようとする引力なのだ。


誰かを理解しようと行動する事が愛なら私は人を愛する事が出来ている。


私はただ感動してしまった。

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