第4話 リーナさんお仕事中!!
あのバミューダでの星の準則の事件から五年後のこと。
〈探し屋 (サーチャー)〉の仕事の依頼があり、久々に出陣!!
ただし、クライアントの依頼は今回もロクでもないシロモノ。
実戦で使用した、バンカーバスターの威力の弱さに嫌気が
さした、とある人達が、秘密研究所で完成させたシェルター
破壊専用爆弾〈ポパイ・ザ・セーラマン〉だ。
破壊力が二百メートル四方と限りなく小さく(※地面下の破壊力は
九十メートル!!)、放射能も極少なので何回も投下できる、クリーン
な超小型指向性原爆という赤丸付きの危険物。
その試作品と、設計図など重要データが記録された、マスター
ミニディスクが入ったカプセルを見つけだし、日本に持ち帰る事が
今回のリーナのお仕事。
いつもどおり首尾良く見つけだし、奪ってきたまでは
良かったが……
僕の名前は木野晴郎(きのはるろう)。
昔、ある事件で安治江里井久(あんじえりいく)さんの
助手をしたのをきっかけに、一人娘のリーナお嬢様の
家庭教師を頼まれ、その流れでお嬢様の仕事の
マネージャーをすることになり現在に至っている。
外見的には映画俳優のオダギリジョーに似ていると、
義理の妹の晴美からよく言われる。
僕は小柄なので口の悪いリーナお嬢様は〈ミニチュア
オダギリ〉とか変なあだ名をつけようとするので困る。
現在スイス、アルプス山脈の山頂に建設された、
某国秘密研究所までやって来て、ポパイ・ザ・セーラマンを
奪い取り、アイガー北壁を下って逃走中。
頭脳労働専門の僕にはきつい運動だけど、季節が夏で、
残雪も比較的少なく晴天なのが救いかな。
そして今、僕の真上から命綱とピッケルをたよりに、
持ち前の運動能力の良さを発揮して、テンポ良く岩壁を
降りてくる女の子がリーナお嬢様。
ピョンと跳ね上がったアホ毛に赤毛のポニーテールが
印象的だ。
産まれたときから十六年間、周りの人達にリーナ、
リーナと愛称で呼ばれてきたので、その愛称が自他共
に定着してしまったが、本名は安治江里那 (あんじえりな)。
身長 1m 61cm 体重 51kg B86/ W59/ H89 という日本人
離れしたスタイルの良さに、整ったかわいらしい目鼻立ちが
示すように、日本人とイギリス人のハーフ。
眼の色はブルーなんだけど、日本LOVE大須大好きっ子な
お嬢様は、大抵ブラウンのコンタクトを填めている。
「ハルロー、ハルロー、早く山降りなきゃ! モタモタしてると
ポパイ持ち出したことに気付かれるよ!!」
「僕たちは捜し物を見つけ出して、依頼人にお知らせするまでが
仕事のサーチャーなのに、なんでこう、いつもいつも依頼人に
手渡しすることに拘るんですか?!」
「手渡しまでしてあげた方が達成感があって面白いし、依頼人も
うれしいでしょ。喜ぶ顔が見たいって言うか……、まあ、いいのよ
そんなことはどうだって!」
いつも好んで危ない橋を渡ろうとするお嬢様の仕事っぷりを問い
詰めていると、山陰からいきなり警備用武装ヘリが姿を現した。
暗いネイビーブルーに塗装された機体が不気味だ。
エンジンやローター(プロペラ)の音が、妙に静かなのも気持ち悪い。
「リーナお嬢様、追っ手が来ました!! なんか嫌な感じの武装ジェット
ヘリです!!」
「へへっ、もう絶対返さないもんね~~!!」
「いくら人道的に正しい依頼だからって、こんな
危ない事はOO7にまかせて首つっこまないでくださいよ!!」
「嫌ならついて来なくていいわよ♪」
「そんなわけにいきますか!! フォローする僕の事も考えてください!」
「大丈夫よ、ポパイ持ってるからむやみに撃ってこないって!!」
「奪われるくらいなら一緒に消してやるってのが悪党の定石です!」
「もうっ、マイナス思考ね、あんたって人は……」
ブォォォォォンン!! ズドドドド ガンガンガン!!
武装ジェットヘリに搭載されたM六一 二十ミリバルカン砲
の砲弾が、僕たちの周りにそびえ立っている、頑強な岩壁を
積もった雪と共に、粉々に砕いて蹴散らす。
マジックペンぐらいの大きさの薬莢に、軍用の特製火薬が
たっぷり詰まった、直径二センチ、人差し指くらいの長さの
砲弾を毎分四千発の恐ろしい猛スピードで撃ち出してくる。
だてに〈砲〉などと呼ばれていない。
映画や漫画で有名な市販の四四口径、五〇口径マグナム拳銃
弾なんて、殺人や目標物粉砕を目的にしたこいつと比べればネコ
パンチみたいなもんだ。
最新の視線連動式射撃システムで僕らを正確に威嚇射撃してくる。
本来、戦闘機や装甲車両に対して使うものを人間に使うなんて
非人道的な奴らだ。(超小型原爆なんて物を造ってる時点で、
すでに人道的もへったくれもないけど)
あいつらにとっては威嚇のつもりでも、砲弾が少し離れた
ところをかすめるだけで掠り傷ができるわ、服が破れるわ、
たまったもんじゃない。
軽装に見えて、ケプラー強化繊維やカーボン繊維を上手く
編み込んだ衣服や、素肌に保温・保湿を考慮した特別製の強化
フィルムを巻いたりして、登山用に身体を保護している僕達
だけど、二十ミリバルカン砲の威嚇射撃まではさすがに想定
していない。
「うキャア~~~~っ!! こんなとこでそんなもん撃つなぁ!!
あんたバカーっ?!」
「うわぁぁぁ~~~~~~っ!!」
アイガー北壁にリーナお嬢様と僕の悲鳴がこだまする。
ヘリのコクピットと吸気口を狙って、護身用に用意してきた
コルトガバメントを試しに撃ってみたけど、キン!!と情けない音で
はじかれる。吸気口までフィルターに防弾処理がほどこしてある。
パイロットがヘルメット越しにニヤリと笑った。
「や~~っぱ駄目かァ、防弾完璧じゃん、あいつ!」
「生きて日本に帰れるかな、僕たち?!」
今まで幾度となく頭の中で繰り返してきた問いを今日もまた、
自分に問いかける……
リーナとハルローのごくありふれた日常の一コマでした。
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