第42話 3月

3月から元の会社に戻ることになったこともあり、通常の年度末にも増して忙しい日々が続いた。

すずさんも忙しいようで、電話をかけても外出中であったり、ゆっくり話せる時間が前よりも少なくなっていた。


そんな折、1週間ぶりの電話で話していたところ、話のついでのようにすずさんから淡々と告げられた。

「そうそう、ドナーが見つかったのよね」


その後、少しずつ治療を開始しているとのことだったが、喜びと驚きが大きかったせいもあってか先の話はあまり聞き取れなかった。

「そうなんだ、良かったね」

敢えて、少し落ち着いた感じですずさんに返した。


「そうね。治療には時間がかかるようだけど、とりあえず安心よね」


こういった会話でも、最近は目に見えない距離というか、会話の呼吸が少しずつずれてきているようだった。


もどかしい思いをしつつ、気にしないようにはしていたが、正直なところずれ始めた時はそれほど今後に支障が出るとは思わないものなのであろう。

もしくは敢えて目をつぶってしまうのかもしれない。

そう、そのずれがもう二度と修復できないものであると認識するまでは。


僕は早速週末に行きつけとなった神社にお礼参りに行った。


お礼参りに行く途中で、駅前の商店街で楽しそうにはしゃぐ女子高生の集団に出くわした。

いつもだとその騒がしさに少しうっとおしく感じたかもしれないが、今日は神様にお礼参りに行く手前、心穏やかに過ごす気分に満ち溢れていた。


何よりも少し暖かくなり、軽装姿の女子学生がまぶしく感じたということもあった。

春は気持ちを心穏やかにする効果があるらしい。


そして別れの季節というもう一つの顔もある。


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