第41話

 次から次へと後方へ流れ行く街並み。

 街路灯に備え付けられたキクノダイト鉱石が発行する様子は何処か幻想的で、儚い気持ちにも感じさせてくれるものだなとノクトは思う。

 人数も疎らになった外周街を駆け抜けて内周街へと入れば、目に付くのは頑丈な塀に守られた貴族や商人の屋敷ばかり。閑散としていて、一見何の気配も感じられないが、ノクトは駆けながらも闇に潜む存在らをはっきりと認識していた。


「(・・・やけに多いな)」


 悟られず。気付かれず。潜む者達の横を、頭上を、ひらりひらりと通過して行く。

 王宮からの通達により警備を強化、任されている者らからすれば情けない話ではあるのだが、気付けないのだからどうしようもない。万が一の可能性を考慮した経路の選択でさえ不要となっているのは、身に着けている仮面と外套の隠密効果に加え、個人技術の高さがそれを可能としていた。

 そして、一切に感づかれる事も無く内周街を一直線に駆け抜けたノクトは王宮内への潜伏に成功する。

 物陰にいったん身を潜めたまではよかったのだが・・・


「・・・・・・・」


 侵入して早々、想定外の出来事がノクトを待ち受けていた。それは人の多さだ。

 もっと言えば、近衛兵の数が普通ではないと一目で分かるほどのもの。

 周囲を観察すればするほど警備兵の多さが目立ち、物陰から様子を見ているだけだというのに、視界に入るのは一人や二人ではない。しかしながら、場の空気がそれほど重くないと感じられるのは、目の前を通過していく兵らの会話もあってのことだろうか。


「さっきからそればっかりじゃねえか、任務に集中しろよ」

「ほんとだって!信じてくれよ!俺この目でめっちゃすごい美人を見たんだって!女神に違いない、本当に居たんだって!」

「はいはい。そういうことにしておくさ」


 物陰から他の様子を含め、伺う事少し。


「(夜会でも開かれているのか?)」


 そう思うくらい、警戒とは程遠い印象を受ける。だが数だけは、内周街といい、王宮といい、前回とは比べ物にならないくらい多いのは間違いない。厳戒態勢とまではいかないにしても、普通では考えられないの人数なのは確かだ。これは何かあると前提に置いてでも、より慎重に目的地まで行くべきだろう。

 前回と同じ道なりに行くのは止めして、多少の回り道は止むを得ないと判断。

 目の前を二組の近衛兵が通過したのを見送ってから再び行動を開始した。

 夜中の広い王宮の中を、まるで平地を駆けるようトンットンッと壁を登り、音も無く通路をすいすい駆け抜ける。まだ数度としか来ていない王宮、大体の位置は頭に入っているとはいえ、詳細なんて分かるはずもないというのに・・・

 たどり着ける。

 そんな根拠の無い確信めいた自信がノクトにはあった。


「ここか」


 そして辿り着いた高い壁。

 この壁の向こうにあの庭がある。そう感じたと同時、ノクトは僅かな魔力の粒子をその場へと残し跳躍した。まるでお手本の様な無駄の無い跳躍は、ぐんぐん夜空へと届きそうな勢いで伸びていく。

 視界には壁が見え。

 壁を抜けたところで視界一杯に庭が広がった。

 跳躍の頂点でしか見れないそれは、庭を大きな絵画に見立てた絵図のようで、感動を覚えずには居られない。

 綺麗に区分けされた花壇に、中心で湧き出る小さな噴水。少しの照明と月光に照らされた花々は朝とは違い、間近で見るのとは全くの別物だと印象を受ける。

 これ程の庭だったのか、と驚かされた。


「すごいな・・・」


 息子にも見せてあげたいと考えたのも一瞬。全身に感じた浮遊感が、それ以上考えるのを止めさせたのは、着地の準備だからと割り切ったからなのか・・・

 若干勢いが余ってしまい、そのまま壁を飛び越える形で庭へと入った、が。

 またも思いもよらない事態に遭遇してしまう。

 それは着地地点を確認すべくノクトが視線を向けた矢先の出来事。

 そこに誰かが居たのだ。約束していた人物が。


「え?」

「あ」


 ノクトは、着地地点の近くに居た彼女に気付き。ユーティリアは、まるで空から舞い降りてきたかのように現れた仮面の男に気付く。

 目と目が合い、互いに動きが止まる。 

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