第33話

 剣や盾が欲しければ鍛冶屋へ。

 食べ物が欲しいならば市場へ人は赴くだろう。

 何故ならそこに行く事ば望むモノが手に入ると分かっているから。ならば、欲するものが、強いモノ、だとするなら何処へ行けばよいか。その答えは、ギルドかクラウンへ行けば良い。

 鍛冶屋にずらりと武具が並び、市場では満遍なく食材が飾られるように、ギルドやクラウンにある掲示板には強いモノの情報が数多く掲載されている。しかも見るだけであれば費用を必要とせず、並ぶ情報も時々更新される特典だって付いて来る。欲する者からすれば利用しない手はないほどに便利な掲示板がそこにあるのだ。

 ただし、強いモノの需要がどれだけあるのかは別の話ではあるけれど。

 そして奇特にも一組。本来の使い方を堂々と履き違えながらも強いモノを求め、利用しているエヴァンス親子の姿があった。

 父親の背中によじ登り肩に顎を乗せ、掲示板を見ているサンラ。表情は燦燦と輝く花のように笑顔が浮かび、キラキラ光っているのではないかと思わせる瞳で掲示板を物色している。ただし、父親が他の冒険者の邪魔にならないよう後方に立っている為、この高さから得られる情報はいずれも上級星以上に対するの依頼ばかりであって、下級生や一般の冒険者が受けられるような依頼は視界に入ってこない。ようにわざとしているのだけれど。


「今日は、これが良い!」

「んー?どれどれー?おおー、それか!」

「うん!」

「じゃあ、目的地まで競争だな!」


 掲示板を食い入るよう見ている息子の頭をポンポンと撫でながら思う。

 この場所はどういうところなのかを知ってもらいながら、ある情報収集をしつつ、数回の魔獣や魔物討伐をこなしたことで、息子の力量がギルド単位で図る事が出来た。

 今の息子なら星八つの討伐対象である魔獣や魔物なら一人で対応でき、九つ以上の最上級星用となるとある程度の手助けが必要といったところ。後は数を重ねるのと、純粋な魔力の使い方や人付き合いが学べればと考えていたらなんて考えていた矢先だった。

 一人の冒険者が駆け込んでくる。

 もたらされた情報に周囲は騒然とし、とても重大な案件だというのが伝わってきた。

 どうやら指名手配されていた人物が捕まったらしい。それだけでなく、帝都や国を跨いで手配されていた手配犯みたいで、余程の大物だったようだ。

 ところが、だ。冒険者が一枚の依頼書を指差したところから、ノクトは冷や汗を流し始める。それも大粒の。

 指差されたものとは、黒星級への依頼書。

 内容を見れば推定戦力が聖騎士と同等以上とある。何だか今朝の鍛錬中に出合った物取りに激しく似ているような気がしないでもなくも思いたくもないようでもない。


「(うん。無いな。人違いだ。今日出合ったのは親戚か誰かだきっと、そうに違いない)」


 自身に結論付けるも、純粋な一言が打ち砕く。


「お父さん、この人。朝戦わなかったっけ?」

「ああ・・・。うん。そう、だった、ね」


 訂正。息子の力量は八つ星もとい、最上級の上の黒星級にまでなっていた。

 幸い騒然としている構内で今の親子のやり取りが聞こえた者はおらず、例え聞こえていたとしても笑い飛ばされていたであろうが、事実はエヴァンス親子だけが知っている。続く情報を確認しても誰が倒したかは分からないらしい。止めを刺す際、街の方から近衛兵らしき影が近づいてくる気配を感じ、早々に離脱したのが正解だった。

 とりあえず、掲示板に丁度よい魔獣の討伐依頼が出ていたのは確認できている。ならば長居は無用といわんばかりに、追いかけっこへと興味が移っている息子に合わせ、そそくさと出口へ足を向けた。

 その一部始終が、彼女らに見られていたと気付いていたかどうかは分からないけれど。


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