煉獄の園
トラテツSIDEーーー
うるみんは奈照の攻撃をもろに受けて地に崩れ落ちてしまう。
「相変わらず甘い事…そんな事だからお前は疫病神なのよ!」
鼻で笑う喧華。
疫病神疫病神うるさいババア!わいから言わせればお前こそ疫病神じゃ!!
「畜生!!」
わいは破れかぶれの攻撃を喧華に繰り出すが喧華はわいの攻撃を軽々と受け流してしまう。
「私もいる事を忘れるな!!」
奈照が後ろから注射器のような武器、セラフィニドルを構えてわいを刺しに向かってくる。
「喰らうか!!」
わいは喧華を踏み台にしてバク転して奈照の攻撃を躱す。
奈照の注射器は喧華に刺さる寸でのところで喧華は針を握りしめ、身を防ぐ。
「はわわっ!ごめんなさい!!」
突き刺しそうになった事で喧華に謝る奈照だが喧華は恐ろしい目つきで奈照を睨んだかと思えば奈照を殴り飛ばしてしまう。
奈照の体が壁を打ち付けたかと思えば奈照の姿はなんと黒い煙となって消えてしまった。
「お前自分の部下に何さらしとんじゃー!!」
わいは味方のはずのそいつを殺してしまった喧華に対し正義の火が着いてしまう。
「ふふふ奈照には「魔界」に送りこんだ、殺したわけじゃないから安心しな!」
喧華はその不細工な面を更に歪めてニタつかせる。
わいは目の前の喧華に身震いを起こす。
こ、こいつ話の通じる奴とちゃう…。
喧華の蹴りが飛んできた。
わいは身を防ぐが衝撃で防御は意味を為さずわいは思いきり後方に突き飛ばされる。
「正義の味方に向かって正義気取ってんじゃないよ!!」
「何が正義の味方じゃあっ!」
怒りには怒りで立ち向かえとじっちゃんも言よった!わいはチビる気持ちを押さえて強気に返した。
わいは体に電気の力を纏い身を乗り出す。
「ライジングガトリンガー!!!」
ドドドドドドドドドドドド!!!
わいは怒りの雷に溢れた無数の鉄拳を喧華にぶちかます。
喧華の一発は強力で装甲も硬い!
わいは手数で勝負するしかない!
ドドドドドドドドドドドド!!!
「ウザいんだよ!!!」
ほなけど喧華は逆にわいより巨大な無数の拳を放ってわいの無数の拳を打ち消した。
「ぐぼぉ!!」
わいは喧華の拳をまともに喰らった。
その時だった。
わいのゲージがついに溜まった!
アレを使うときじゃ!
アレはわいの捨て身の拳…。
それは喧華のようなバケモンをも瀕死に出来そうな秘密兵器だがわい自身も無事では済まないと言う自己犠牲の必殺のスキル。
『トラテツ、これは滅多なことでは使ったらあかんじょ!どうしても立ち向かえんような強敵に使いない!自分の命も危険に晒してまうんじょ!!』
じっちゃんも伝授する時そう言よった…。
「こうなったらしゃあない!お前も地獄に道連れじゃあ!!」
わいは自分の体にありったけの
バリバリ、バチバチ…!
わいの身体中電気の糸が虫のようにあちこちに走り、わいの周りは唸り風が吹き荒ぶ。
ブオオオオオオオオオオオォ!!!
「くっ!なんなのこの闘気は!!」
喧華はわいから流れる風と雷に手を覆う。
わいは雷のクトゥルフ戦士トラテツ!
じっちゃんの正義感と雷のスキルを受け継いだ正義のクトゥルフ戦士なんじょ!!
「うおおおぉライジングデスマッシュ!!!」
わいは捨て身のスキル、ライジングデスマッシュを繰り出し喧華に突進した。
「このガキ!捨て身技を使って私を道連れにしようと言うの!??」
流石は喧華、わいのしようとしとるとこ見抜きよったな、でももう遅いわ!!
わいはやろうとした事は最後までやり遂げる男じゃ!!
うるみん、サキュラ!お前らの敵はわいが討つけん安心せえ!
わいはそこで眠っとるうるみんとサキュラに心の中で祈りもって喧華に突っ込んで行った。
チュドオオオオオオオオオオオォォォ…ン!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!
わいと喧華のぶつかった先から多大な衝撃波が周りの空間を引き裂いた。
ーーー
私は弱い…結局奈照さんに向かえなかった。
私が目覚めたのは薄暗く気味の悪いとある場所だった。
て事はここは地獄…?
「ここは地獄なの…?」
起き上がり周りをキョロキョロと確認する私。
その時よく知る少女が私の目に映し出された。
「サキュラ!」
サキュラがなんとそこにいた。
しかし様子がおかしい…。
サキュラは何と触手に絡まれてて涙を流しながら悲痛な表情で何かを呟いていた。
その時横から奈照さんが私の目前にやってきた。
「この女は貴女が酷い目に遭っているのをオカズにしてスキルを放ってたのよ!」
「奈照さん…もうやめて…!」
こんな奈照さん見たくない…!奈照さんは慈愛に溢れて、優しく強い人だったはずだ!
「いつまでもママゴトやってないで現実を見つめなさいよ!」
奈照さんは生きている時は見せなかった怒気に暴れた表情で私を睨みつける。
「何でこんな悲しい事言うの!?」
私は今直面している現実をどうしても受け入れられなくて泣き出してしまう。
「これが私の本性だよ!そして私は知ってるのよ!貴女もいい子ぶってても本性はとてつもなく醜いって事をね!」
そうだ、私は醜い…しかしサキュラが醜いなんて証拠はまだわかっていない。
「私の事はいくら責めても構わない!でもサキュラをいじめるのはやめて!!」
私は大声を上げる。
そんな時どこからかわからないがどこかで遠くから語りかけるような声がしてきた。
『嘘つき、同じような事があるたび心の中では自分だけが馬鹿にされてるんじゃなかったんだと安心していた癖に…』
『自覚しなよ他人の失敗を喜んでるんだって!』
やめて!!頭の奥から語りかけないで!!
私は耳を抑えて聞こえないようにする。
「はははこの世界は霊界、霊とは自分の潜在意識の事!ここでは自分の心の中、そして心の闇が筒抜けになってしまう所よ!!」
奈照さんは笑う。
まるで憎んだ人の弱みを握ったかのように…。
「正直サキュラにも貴女にも幻滅したわぁ、だってこんなに醜い心の持ち主ですもん♪」
でも、こうやって人を馬鹿にする人も大概なはずだ。
「そうやって人を馬鹿にする貴女は人の事言えた義理なの!??」
悔しくなった私は思わず感情に任せて奈照さんに言い返す。
その時奈照さんは睨んで低い声で凄みを効かせてきた。
「私の言ってる事が間違ってると言いたいの?」
「………」
私は何も言い返せなくなる。奈照さんの言ってた事に間違いはあるように思えない…私ごときが奈照さんに向かう術など無いのだ。
「良い事?私は貴女達の間違いを正してあげているの、それとも何?私に喧嘩売ってるの?」
「い…いえ…」
奈照さんを前に何も言えないでいる私…。
ああ駄目だ私って、さっきまでトラテツの前でカッコつけてみたりもしてたけど私は向かうべき人に向かえない弱虫なんだよ。
「サキュラも潤実も仲間と思ってたけどこんな醜い心の持ち主だったなんてね、もう少し貴女達に能力があって思いやりがあればそこまで嫌われる事なんて無かったのよ!」
私の周りの触手が絡まりだす。
熱い!これは何なの!?
「これは『業の地縛』貴女達は前世の業が深いが為にここに地縛される事になったのよ」
サキュラの触手はまた増えだす。そんなサキュラは涙でほおを濡らし続け私に謝り続けてる。
「潤実….ごめんなさい…」
そんなのサキュラじゃない!サキュラはもっと毒舌で、クールで、しっかりしていた。
例え心の中がどうであれサキュラにはいつものサキュラでいてほしい!
そしてサキュラは言ってたよね!
『貴女は敵の言う事と味方の言う事のどっちを信じるの!?』と!
だから私は貴女に言うね!
「サキュラ!貴女は何も悪くない!サキュラが私をどう思っていても私は貴女の味方だよ!!」
しかしサキュラに絡む触手はどこまでも巻きつき続ける。
「でも私は貴女をダシにする事でしかスキルを使う事が出来なかった…皆に嫌われて当然の人間よ…」
奈照SIDEーーー
海溝潤実は涙ぐましくもサキュラを懸命に励ましているが所詮無駄な事…。
サキュラの元気は私が言葉責めで根こそぎ奪ってやった。
それに海溝潤実ごときにサキュラが心動かされるとは到底思えない、せいぜい頑張ると良いわ。
「サキュラ!周りがどう思っても私はサキュラの味方だよ!私の言葉を信じて!!」
「でも…」
サキュラは頑なに拒み続ける。
せいぜい頑張りなさい、時間の無駄だろうけど…。
私はそう高見の見物と決め込んでいたのだがその突如、異変が起こった。
海溝潤実の体が光りだしたのだ。
刹那、海溝潤実を絡めていた触手が離れだす。
これは一体何!?
「サキュラ!私は貴女に助けられなかったらどうなってたかわからない!人を一度刺しちゃったから刑務所にいて嫌がらせだってずっと受けてたと思う!私は貴女と知り合えて良かったと思ってるよ!!」
「でも奈照の言う通り私は異常者よ…いずれは取り返しのつかない事になるかも知れない…海溝潤実、私には関わらない方が…」
その時別の声がしてきた。
『コイツの言う事を間に受けんじゃねえっ!どんな価値観を持っていようがどんな趣味を持っていようがてめえはそいつよりは幾分マトモだ!!』
誰なのこの声の主は?女の啖呵を切るような声が轟く。
海溝潤実SIDEーーー
その懐かしい声は可園彩華?生きてるの?
いや、ここは煉獄という場所だったっけ?
私とサキュラは地獄とも天国ともつかない煉獄という場所にいるはずだ。
ズチャッ、足で地を踏み込む音がした。
そこには日本刀を携え傷だらけの体に所々破け使い物にならなくなった服をマントがわりに羽織った半裸の姿の可園彩華がいた。
「海溝潤実、サキュラ!目を覚ませ!地獄ないし天国はまだお前ら来る所じゃねえ!!」
「そうじょ!それとお前奈照に化けて潤実ら誑かすんはやめ!!潤実らは化かせれてもわいは騙されへんじょ!!」
彩華とは別に威勢の良い少年の阿波弁が轟いたかと思ったら、上空からトラ柄の野生児のような少年が身軽に着地した。
「トラテツ!!!」
彩華さん、トラテツ…なんで貴方達がここに…。
トラテツSIDEーーー
間に合ったわ、わいは喧華と相打ちになって気がついたらここに迷い込んどったんよ。
なんか死人の臭いみたいなんがしてどうも良い気持ちのせんとこやなあ思うて歩いたら霊魂みたいなんがチラホラ現れてわいのある事ない事囁き合いよったんよ。
『カッコつけが来たぞ、対して女に相手にされない癖に…』
『正義のつもりでいるだろうけどお前の正義は押し付けにしかなってねえよ!』
霊魂の陰口に腹わた煮えくりかえったわいは怒鳴りつけてやった。
「お前ら言いたい事あるんなら直接言え!!なに陰口なんて女々しい事しよんなっ!!」
わいの声に反応したんか霊魂は黙り込んだ。
そしてわいの事ではない、何かを恐れるように霊魂達が囁き合いだした。
『あの女が来るぞ…』
『くわばらくわばら…』
何のことな?わいはそいつらの言葉に呆然と首をかしげた。
その時ドカーンというでっかい音がしてやな…喧華か誰かや思ったけんどそこには懐かしい女がおってやな。
誰かよく見たらあの可園彩華やったって言うやん!
「ふう、ようやく地獄から抜け出せたぜ…こんな時に地獄で反省なんてしてられるかってんだ!!」
彩華は独りごちながら石を蹴った。
「可園彩華!!」
わいは彩華に呼びかけた。
「トラテツ!お前、やっぱり死んでしまったのか!!」
死んで…わい死んでもたんか?
喧華と相打ちになってからいつのまにかここにおってどしたんかなと思っとったけんど…。
え…?やっぱり??
気になるワードを言いだす彩華。
「やっぱりってどう言う事なん?」
「ここは煉獄と言ってだな、死んで天国か地獄か行く先を決める所なんだ、アタイは地獄に落ちちゃったが仲間が死ぬ予感がして居ても立ってもいられなくなって鬼と格闘しながらここに来たんだ」
それでその怪我か…。
死んでも相変わらずやなあ…。
「海溝潤実はどうでも良いがサキュラが死にそうになっているのは黙っていられねえ!トラテツ!サキュラの位置は?」
うるみん酷い言われようやなあ。
「死にそう?二人はまだ死んどらんの?」
「ああ、二人がここに来たのは地獄で知ったが死者の気配はしなかった」
てことはわいもまだ生きとるんかなあ?
「わいも生きとるん?」
「残念ながらお前はもう死んでいる」
ああやっぱり…わいはガクリと肩を落とした。
「だが煉獄にいる間は行い次第で行く先が変わるんだ、サキュラを助ける手助けをしてくれ!」
彩華は落ち込むわいに叱咤をかける。
「ところでさっき喧華の奴を地獄で見たけどお前がやったのか?」
彩華がこのような事を聞いてきた。
「喧華地獄におったん?」
「ああ、アイツも鬼に反抗してたが滅多打ちにされてた、ところでアイツはお前がやったのか?」
良かった、どうやらうるみんとサキュラの仇は討てたみたいじゃ。その話を聞いて胸のつっかえが少しは取れて楽になった気がした。
とりあえずわいは彩華の問いに事情を交えて答える。
「うん、ほなけどマトモにやり合って勝てる相手や無かったけん捨て身でやっつけたんじゃ!」
わいと彩華が合流し後はサキュラを助けに行く。
うるみんを助ける事も忘れてへんが彩華のうるみんへのわだかまりはまだ解消しとれへんようじゃ。
「なあ彩華さん、うるみんの事そろそろ許してやったらどうなん?」
「許せるわけねえだろ!」
「…すみませんでした…」
互いに生きてる間もこれで話は切れる。
わいに仲裁の能力があったら二人の仲を取り持つ事が出来たけんどなあ、女同士って難しいもんやな。
やがて哀しげな気配を二つ感じた。
この気配はサキュラとうるみんのもんじゃ!
「彩華さん!サキュラはこの近くにおるじょ!」
「マジか!しかし姿は見えねえ、どうやら不思議な力を張ってるみたいだな、だがアタイの結界破りで!」
彩華は札を胸から出して呪文を唱えた。
「ヨセウホイカソワカヨセウホイカソワカ…」
札が暴れるように宙を舞う。
宙を舞っている札にはやがて炎が包み込み結界を炎で破ってしまう。
ジュワワワワ…結界は彩華の放った炎で相殺して消滅してしまった。
結界が破られた後うるみんとサキュラに出くわす。
ほなけどサキュラとうるみんは触手に巻きつかれて身動きが取れないでいる。
その向かいには奈照さんが何故かいて、余裕の笑みで二人をこき下ろしている。
「可愛い顔した子ほど心は醜いと言うけど本当みたいね?貴女達がそんな子だと知ってたら初めから近寄らなかったわ」
何言よん、わいの知っとる奈照さんはそんな事よう言わんわ!
言葉巧みにサキュラやうるみんをこき下ろしまくる奈照。
うるみんは抵抗の余地を無くし奈照に言いくるめられている。
「ちっ、サキュラは言葉責めにやられて意志消沈してやがる、ここは潤実がしっかりしないといけない所なのに!」
彩華は歯痒い様子で奈照に言いくるめられているうるみんを見守る。
「しゃあねえ、ここは一肌脱いでやるか!」
彩華はうるみんにある術をかけだした。
「今何したん?」
「まあ見てなって!」
術をかけたっぽい彩華にわいは聞いてみるが彩華は見ればわかると答える。
よく見ると触手がうるみんから徐々に離れていく。
それと同時にさっきまで弱気だったうるみんが何処か堂々とした、何か覚悟を決めたような清々しい表情に様変わりしだした。
さっきとは打って変わってサキュラを懸命に励ましだす。
「なんだ、まだ元気残ってんじゃねえか」
彩華がこう漏らすのを見るとうるみんのあのパワーは彩華がなんかの施しをしたと言う事か?
「うるみんが元気になっとる、これ彩華さんがやったん?」
「ちげーよ、アタイはただあいつの思っている事を吐き出しやすいように手助けしただけだ」
しかしサキュラはこう切り出す。
「でも奈照の言う通り私は異常者よ…いずれは取り返しのつかない事になるかも知れない…海溝潤実、私には関わらない方が… 」
なんか弱気になっとるサキュラは見とれんわ、サキュラはいつもクールで無愛想な程堂々としとらなあかんのに…。
「ったくサキュラともあろう者が何ネガティブモードになってんだよ!」
どうやら彩華も同じ事思うとるようやな。
こうしてわいらはうるみんとサキュラを助けて今に至る。
「奈照に化けようったって巫女のアタイを化かすのは不可能なんだよ!いい加減正体を現せ!!」
彩華は喧嘩腰で奈照に化けているらしいインスマスに放った。
「正体を知りたかったらまずは私を倒してからにする事ね!!」
奈照はバルキリーのような姿になり、セラフィニドルをわいらに突き出して向かってきた。
わいと彩華は構えるが彩華は初めから不敵な笑みを浮かべトンファーを二丁持ち出した。
「りゃあああああぁぁ!!」
奈照と彩華は攻防戦を繰り広げる。
流石ベテラン同士凄まじい戦いじゃ!
「アタイの知ってる奈照さんはもっと素早くて動きも華麗だったぜ!なんだその動きは!!」
彩華はトンファーで奈照のセラフィニドルを弾きながら鬼コーチのように罵りだす。
「く、くそっ!」
奈照は悔しげに顔を歪めて破れかぶれの攻撃を放つ。
「じゃあそろそろフィニッシュと行こうか!」
彩華のトンファーから炎が揺らめきだす。
彩華は二丁のトンファーをXの字に構え、全身からは炎のような闘気が踊っていた。
その時奈照の体はその場で倒れ伏し、奈照の身体からは黒い煙のような物体が姿を現した。
『オマエタチゼンインミナゴロシダー!!!』
黒い煙のような物体は巨大なガスの塊、彼は人の体を打って包むような形で攻撃をし、包まれた人体はガスの中で苦しみもがいて死ぬと言う。
その紹介通り、そのガスの物体は彩華を丸め込み、ガスの中で窒息させようとした。
可園彩華SIDEーーー
畜生!正体現したは良いが正体が霊魂じゃなくてガスとは聞いてねえぞ!
奈照の体から抜け出た「ガス」はその黒ずくめの気体でアタイの体を包み込んできた。
そのガスはなんと毒系で吸ったは最後、体が痺れて死に至ると言うものだ。
畜生、一度死んだアタイがまたここで死ぬ事になるとは…。
ここは煉獄と言って天国か地獄かどちらに行くかわからない世界。
しかし死んだ後に行く世界であるのは確かだ。
煉獄で死んだ場合、魂は消滅して半永久的に生まれ変われなくなる。
それだけは避けたい。
それなら死んでも復活する(苦しみも永久だが)地獄の方がまだマシだ。
天国はどんなところか見当もつかないがな。
天国は生前の行いが良くて子孫に恵まれ恨まれる事が少なかった人が行ける場所らしい。
そこに行けるのはさしずめKEIさんやゼウむすの蓮香くらいだ。
アタイは不良だったので地獄に行っちまったが地獄くらい生前から修羅場をくぐってきたのでどうって事は無かった。
しかし煉獄で死んだら魂の消滅…なんて事だ…。
アタイがもがいているところ最も憎い奴の声がしてきた。
海溝潤実SIDEーーー
彩華さんは見事なトンファーさばきで奈照さんを気絶に至らしめるが奈照さんの体からなんと黒い大きな煙が現れてそれは彩華さんの体を包み込んでしまう。
私はどうしようも出来ないとアタフタしていたがその時ガニメルさんの声がしてきた。
『潤実!今こそクトゥルフ・ブレイクリーを使う時だ!』
そして私の記憶の一部にその使い方が書き込まれるように思い出されてきた。
これを使えば彩華さんを助けられる!
彩華さんは怖い人だけど幾度か助けてくれた人!
だから助けられた恩は返さないと!
「彩華さん!大丈夫ですか?今助けますから!!」
黒い煙に包まれた彩華さんの姿は見えないが呻き声を上げているから物凄く苦しそうだ。
声を聞いてるとこちらも苦しくなる…。
大丈夫ですよ、今私が助けてみせますから!!
私はガニメルさんから与えられた記憶を頼りにクトゥルフ・ブレイクリーを放った。
気を集中させて助けたい対象を念じ、奇跡を起こす技。
ガニメルさん曰く私のクトゥルフブレイクリーは完全では無いらしいが出来る限りの事はしないと彩華さんは助けられない!
「クトゥルフブレイクリー!奇跡を起こして!!!」
私は手を組んで唱えた。
トラテツSIDEーーー
するとどうやろう?
うるみんの体が光りだしその体からは虹色の「気」が放出されだした。
「気」て言うんはクトゥルフならみんな持っとる思念のエネルギーなんよ。
前述しとった喧華の闘気とかそれな。
今のうるみんの「気」はこれまでのうるみんとは思えんくらい大きなものだった。
これもうるみんの得たクトゥルフブレイクリー言うもんなんかいな?
うるみんの放出されたクトゥルフブレイクリーで黒い煙から彩華とは違う呻き声が漏れだす。
『グワアァナンダコノアタタカイキハ…』
彩華を覆った黒い煙はうるみんから放出された虹色の気によってかき消された。
「彩華さん、大丈夫!?」
黒い煙がかき消されて行った後彩華の地面にのたうち回る姿が見えた。
彼女の顔面は蒼白でよほど苦しかったのか汗まみれだった。
彩華はゼエゼエハァハァと息を荒げとった。
うるみんはそんな彩華に優しいおかんみたいな眼差しを向けて感謝を述べる。
「彩華さん私を助けてくれてありがとう!今回復してあげるね!」
うるみんは彩華に気を送った。
すると彩華の顔色は元に戻り息は整えられ静かになり、いつものギラギラした感じの鋭い目を見せる。
え…、ギラギラ…?
「助けてくれなんて頼んだ覚えは無ぇ!!」
「うごぉっ!!」
彩華は近くに寄り添ってきたうるみんの腹を蹴飛ばす。
うるみんは宙に浮き体はくの字に曲がり腹を蹴られた痛みで手で腹を抱えて後方に飛ばされる。
地に体を預けた後も黒い煙にやられとった彩華のように地面にのたうち回るうるみん。
なんつかドンマイ…うるみん…。
「ゼエゼエ…酷いよ彩華さん…」
「うるせえっ!お前に助けられるくらいなら黒い煙にやられてた方がマシだ!!」
更に彩華はうるみんを足で踏みつけていじめる。
「彩華!そこまでにしなさいっ!!」
そんな時奈照からメンタルのやられとったサキュラが解放されて元気を取り戻したのか、うるみんをいじめる彩華に鋭く言い放ってきた。
「サキュラ…良かった、元に戻って…」
彩華はサキュラの姿を見るや安心したのか感極まったんかほおに涙がつたいいつもは見せん優しい目でサキュラに目を向けた。
と言うかうるみんとは態度がまるで違う。
うるみんには邪険なんはやっぱり火と水の関係なんか?
と言う冗談はそこまでにして、とりあえずこれで一件落着か…。
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