第10話「妹は好きですか?」と聞いて来る年下女子
「晴馬、学食行こうぜ? 今日はカイと俺の三人で食おう」
「え、いいの?」
「レイケに目をつけられてるって大変だろうし、他の女子も晴馬のことを気にしてるっぽいから、しばらく昼は付き合うことに決めた。いいよな、それで?」
「た、助かるよ! 先生もさやめも、俺が何をしたんだよってくらいに目を光らせているっぽいから正直言って参ってたんだ。ありがとう」
「カイは先に行って席を確保してるから、晴馬は俺と二人で行くぞ」
「うん、よろしく~」
何かと意味不明な注目を浴びまくっている俺は、どうにかしてさやめの上を行きたいと思うようになった。とはいうものの、今すぐどうということは出来るはずもなく、クラスではそういうキャラとして認められつつあるのがとても悔しい。
そんな中でも、初めから声をかけて来てくれたカイとたくみの優しさには、思わず目から汗が出そうになってしまいそうだった。ただでさえ数の少ない男子とは、もっと仲良くしていかなければいけないと思えた。そうすることでさやめを筆頭とした上から目線の女子たちの脅威から、逃れられるのではないだろうか。
『晴馬ーこっちだ!』
「カイの奴、いい席確保してくれたな! あそこは女子が陣取らない……いわばトイレに近い場所だ。そこで構わないだろ?」
「全然問題ないよ」
女子が多い学園ということもあり、学食と呼ばれる場所はカフェ形式になっていて、だだっ広い空間の中に沢山のテーブルとイスが至る所に置かれている。圧倒的に多い女子の中でひっそりとした場所と態度で、他の男子たちは昼を取っているのが現状みたいだ。
「俺、ちと妹に話付けて来るから、先に食っててくれ」
そう言うと、カイは確保していた席から立ちあがって廊下へと歩いて行った。
「いつもこんな場所で食べたりしてるの?」
「そうでもないな。俺は彼女ってか、あいつと食べる時は場所取りはしないし」
「たくみは彼女がいるんだね? カイから聞いてて何だか羨ましくなってたよ」
「彼女って呼ぶには訳があるだけで、付き合っている関係じゃないっていうか……ま、そのうち紹介出来ればするかも……ってか、彼女欲しいの? レイケがいるのに?」
「さやめはそういうのじゃないよ。見てれば分かるでしょ? あんな偉そうにしてて挙句の果てに気配を消して、いつの間にか背後にいるとんでもない悪女なんだよ? 好きになる方がどうかするよ!」
「そ、それは……何というか大変なんだな。じゃあ学園へは彼女に会いに来たわけじゃないんだ?」
どうにも誤解をされているらしい。学園中の人にとって、さやめという存在はアイドルか何かの扱いをしているのだろうか。特別な存在だということが未だによく分からないし、本当にすごい奴なのかも分かっていない。
「全く知らずに来ただけで、そんなんじゃないよ」
「そ、そっか。お、ようやくカイも戻って来たっぽいな! しかも妹も一緒だ。珍しいな、妹同伴とか」
「妹がいたんだね。そ、そういえばさ、この学園ってそういう学校なの?」
「ん? 兄妹とか姉妹限定って意味でか?」
「そんな気がしているっていうか」
この質問は良くなかったのか、たくみは首を傾げながら言葉選びを探しているみたいだった。
「んーまぁ、そうとも言えるしそうで無いとも言える。それが入学の条件ってことなら違うけどな」
「そうなんだ。でも妹とか姉とかが身近にいるのは、何となく嬉しいって思うんでしょ?」
「晴馬は嬉しいのか? レイケと常にいられるわけだし」
「それが問題なんだよね」
たくみたちにも言えない秘密、それは部屋の中にもさやめが住んでいるという問題。勝手に住んでいた上に、部屋の間取りまで変えてくれたとんでもない奴だ。あんなか細い足を見せつけて挑発をして来るなんて、あいつはどういうつもりなんだか。
「もしかして一緒に住んでたりすんの?」
「そ、そんなことあるわけが無いよ! 冗談じゃないよ!」
「ってか、晴馬ってそれが素なんだな。案外可愛い感じというか、ガキっぽい感じで話してるよな。レイケと話してるときはそうじゃないっぽいけど、あえてそうしてるのか?」
「えっ……あ、地が出てた? な、内緒にしててもらえると……」
「言わないって。第一、俺らはレイケに話しかけることが出来ないわけだし。だから、晴馬はマジ尊敬」
さやめと話をしているだけなのに、アレがまともな会話と呼べるかは謎だけど、尊敬されるだなんて本当に不思議すぎる。そうこうしているうちに、カイとカイの妹さんが席に着いていた。
「待たせちまった。お前ら何も食ってねえの? じゃあ、たくみ。晴馬の分を買いに行こうぜ! なっ!」
「――! だな。じゃあ、晴馬はカイの妹ちゃんとここで待っててくれ。すぐに戻るから」
「ちょっと! こ、困るよ!」
「晴馬、あと頼んだ! 直ぐ戻るから!」
一体どういうことなんだろう。妹をこんな話したことも無い奴の前に残すなんて、カイは妹が大事じゃないのだろうか。二人の背中を眺めながら、何かの言葉を切り出そうと考えていると目の前の妹さんは、何度も俺に対しての視線を往復させながら顔を徐々に赤くしている。
「あのっ! は、晴馬さんと呼んでい、いいい……いいですか?」
「名前はカイから聞いたの? い、いいけどキミはカイの妹さんだよね? 名前聞いていい?」
「ひっ! な、名前ですか……?」
「嫌ならいいけど、あのそんなに怯えられると困るかなぁと……」
さっきまで女子たちが好まない席に、カイとたくみがいたこともあって、他の女子がこっちを見ることが無かったのに、いつの間にか取り残された俺と妹さんに対し、またしても女子たちの視線が浴びせられている。
「あのあのっ! は、晴馬さんは妹はお好きですかっ!」
「へっ?」
「そ、それと、年下はお好みですかっ? そ、そうなら――そのっ」
これはもしかしなくても、カイとたくみが仕組んだ妹さんの公開告白と晒しだったりするのかな? 何が問題かというと、もはや女子たちの視線は完全にここの外れのテーブル席だけに集中しているという点であり、さらには追い打ちをかけているわけでもないのに、目の前の妹さんは俺の答えを待っているということにあった。
「ど、どうですかっ? も、もしそうなら、晴馬さんのお言葉をお聞きしたいですっ!」
「え、えーとえーと……あれ? キミってどこかで会ってないかな? その声と話し方に何となく覚えが有る様な無いような……」
「ひっ! ち、ちちち、違いますっ! ご、ごめんなさいですっ。こ、この答えはまた今度聞きたいですっ! あのっ、ごめんなさいっ!」
「あ、ちょっと!」
何度も何度も頭を下げまくった挙句に、あっという間に妹さんは全速力で走り去って行ってしまった。何かおかしなことを聞いてしまったのだろうか。
「うっわ、サイテーな奴がいる……」
あぁ、もう……この場にもいるとか、ムカつくぞ。何でこう偶然にもこんな外れたテーブル席にまで奴がいるんだろうか。声を聞いただけで声を荒らげてしまいそうになる。
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