第63話


葵が髪を洗っている間、私は湯船に浸かりながら白くなったお湯を見つめていた。

緊張するな…。私は、葵の体に全く慣れない。エッチはしてるけど葵は本当にいつ見ても綺麗で息を呑むほど完璧な体をしている。女なら誰しも羨むような体型は男だけでなく女でさえも魅了する。もちろん、体だけじゃないけど葵は全部が完璧過ぎるのでそれを今みたいに目の当たりにすると、私は緊張してドキドキして本当に心が落ち着かなくなる。葵の前では平然を装っているけど内心酷く心は揺れているのだ。



私は葵を見ていると目が離せなくていやらしい目付きで見てしまうかもしれないから、とにかく本当にお湯だけ見てるようにした。それから空気的に何か話さないといけない気がして、何か考えるけど良いのが思い付かない。あぁ、何話そう。悩んでいたら、葵は髪を洗い終わったのかシャワーを一旦止めた。


「……由季」


「え?なに?」


いきなり呼ばれて思わず葵の方に顔を向けた。葵は髪をクリップで上げると下を向いて小さく言った。


「……あ、洗って?」


「ん……ん?……私が?」


思いもよらない発言に反応が遅れる。何を言っているの?葵は小さく頷くだけだ。洗うって体を洗えってことなんだろうけど何で?さっきから葵の行動が訳分からない。


「……えっと、私、熱いからそろそろ出ようかな」


「だ、だめ……!」


苦し紛れに流してみようと思ったけどだめだった。葵はこちらを恥ずかしそうに見てくる。


「はやく……洗って?」


「……自分で洗えるでしょ?」


「…由季に、洗ってほしい」


「……でも、なんで?」


「そんなの……どうでも良いでしょ。洗ってほしいの」


むきになる葵。やっぱり答えないしここまで来ると葵は引かない。葵の裸を見てるだけでドキドキして大変なのに洗うとなったら心臓が大変なことになりそうだしよこしまな感情に流されてしまうかもしれない。私は内心少しだけため息をついた。


「…分かったから待って」


私は湯船から上がると葵の後ろに回った。前の鏡越しに葵を見る。それだけで葵の体が目に入ってきて緊張する。本当に葵は綺麗だ。

でも冷静に、いつも通りを心掛ける。


「ボディーソープ取って?」


「…はい」


葵はボディーソープを私の近くに置いてくれたので体を洗うタオルにボディーソープを付けて泡立てる。あぁ、緊張する。葵にエッチ目的以外でこんな風に触れるのは初めてだ。今は怒らせて喧嘩中だし、これ以上怒らせたり信頼を失くしたくないので盛ったりしないようにしたい。


「由季」


「うん?なに?」


早速洗おうとした私を葵は鏡越しに見てきた。今度はなんだろう。



「…それは、使わないで」


「…………手で洗えってこと?」


頷く葵に頭が痛くなる。本当にどういうつもりなの?ヤりたいの?今の私達の関係で?それはありえないと思った。それに私のことを信用できないと言っていたから、もしかして試しているのか?頭で色々考えてしまうけど葵は待ってくれそうにない。さっきから私をチラチラ見てくる。


「……じゃあ、洗うよ?」


私はもう半ば自棄になりながらボディーソープを手に付けると葵の背中に手を這わせた。


「んっ…」


葵はそれだけでくぐもった声をあげると体を少しだけ震わせた。葵は背中が弱いから仕方ないけど、それに私は益々ドキドキした。誘うつもりはないのかもしれないけど今の状況に何も思わないなんて無理だ。そんな私にまた葵は言った。


「全部洗ってくれないと……だめだからね」


「うん、分かってるよ」


私がまた逃げないように言ったんだろうけど葵は熱を持ったような眼差しで鏡越しに私を見つめてくる。それにそそられて胸が高鳴るけど私はどうにか理性を保ちながら手を体に這わせる。まるでマッサージのように背中や腕を触る。丁寧に優しく。葵はそれに敏感に体を震わせた。


「っん…由季、後ろ……だけじゃなくて…んんっ…」


「うん、前もやるから」


葵の催促に後ろから抱き締めるように胸と腹に手を這わせた。腹を撫でて胸を揉むように手を這わせると葵はついに喘ぎ声をあげた。


「はぁ、あっんんっ!はぁ…」


「葵?声が誰かに聞こえちゃうよ?」


私はいつもと違う環境に興奮しながらも耳元で囁いた。さっきは流されないようにしようとしたけどもう理性は葵の声を聞いてしまったせいで効きそうにない。葵は私に顔を寄せて声を抑えながら小さく言った。


「はぁ…ん、だって、由季が…あっ、んんっ……エッチな触り方するから…」


「洗えって言われたからやってるのに、止める?」


私は葵の蕩けたような顔に我慢できなくて、答えを聞く前に引き寄せられるように横からキスをする。胸や太股に手を這わせながらうなじにキスをして、耳を甘噛みしながら舐めると気持ち良さそうな声を漏らした。


「はっ!んんっ…はぁ、んっあっ!ゆき……んんっ!」


「はぁ、ちゅっ…んっ、はぁ…」


いやらしい音が風呂場に響いて本当に興奮する。葵が欲しくなって少し強引にキスをすると、葵も私に舌を絡めてくれた。それが嬉しくて少し長めにキスをしてから離れると葵は私に寄り掛かるように背中から凭れてきた。少し息を荒くさせる葵は実にいやらしくて目が離せない。今はダメなのにやりたくなってしまう。至近距離でお互いに見つめ合ってから、葵は蕩けたような眼差しのまま囁くように言った。


「……洗って?声、我慢するから」


それはただの誘いだった。葵は私を誘うためにこんなことをしたのか?洗うためではないのは確かだけど以前の態度や今日の態度を見ると分からない。でも、お互いに興奮しているのは確かで、事に運ぶには丁度良かった。私も葵に誘われて断れる程もう理性がない。葵と付き合ってからは欲望に任せてしまうことが多いけど、好きなんだからこればかりは仕方がない気がする。


「我慢できなかったら噛んでもいいからね?でも、誰にも葵の声聞かせたくないからちゃんと我慢してよ?」


「……うん、分かった」


顔を赤くして今の状況でも言うことを聞く葵が可愛くて私はまたキスをしながら体を触るのを再開した。




初めての風呂場でのエッチはかなり興奮して結局最後までしてしまった。

激しく葵を攻め立てて葵が背中を反らせて腰を痙攣させたようにビクつかせるのを確認すると私は葵の声を抑えるためにしていたキスをやめた。

唇を離して私の太股の上に乗っていた葵は息を荒くしながら私に抱き付いてきた。


「……はぁ、はぁ、はぁ……んんっ」


私が指を抜くと葵はまた体を震わす。うっすらと汗をかいている葵の背中を優しく抱いて顔を葵に寄せると小さく囁いた。


「可愛かったよ、本当に……好きだよ」


「んっ、はぁ、はぁ…………」


私の言葉に返答はない。可愛いらしい葵は今日は最中にあまり好きとか言ってくれなかったし今も素直じゃない。いつもなら言うのにまだ怒っているんだなと感じながら私は意地悪く葵の前でさっきまで入れていた指を舐めた。こんなことをすれば葵は絶対に反応する。答えてもらえないのは正直悲しかった。

粘着質なそれを飲むように吸って舐めると葵は驚いたように顔を赤くしてすぐに止めてきた。


「…何してるの?!やめて!汚いから!」


「だって、葵が何も言わないから」


「…それは………」


また何も言わない葵にさらに悲しくなって軽いキスをしてから私は意地悪なことを言ってしまう。


「私のこと、もう嫌い?」


「そんなこと、あるはずない!」


葵は私に勢いよく否定すると私に控えめにキスをしてくれた。必死なその行動のせいでまた分からなくなる。嬉しいけど葵の表情は暗い。

さっきまで答えなかったくせに自分からキスをした葵は私を複雑そうに見つめた。

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