第21話


乾杯をして缶酎ハイ等各自飲みながらさっき買った屋台の品を広げて食べる。外で何かを食べたり飲んだりするのは中々ないので気分が高揚した。風も気持ちいいし桜も綺麗で気分がとても良い。


「いやー、それにしても葵ちゃんは本当に綺麗で可愛いね。こんなに綺麗だなんてビックリだよ」


黒崎は烏龍茶を飲みながら焼けた肉や野菜を皿にのせて持ってきた。こいつはレイラのためなら易々と大体引き受ける健気な男だ。レイラはお礼を言って受け取っているけど目は食べ物にしか行っていない。


「だよねだよね!彼氏いないんだって!超意外じゃない?」


「えぇ?マジで?でもこんな可愛いと手出せないよなぁ」


「はぁ?黒崎じゃ整形しても無理だよ?鏡見たことあんの?何言ってんだか。どっから目線なのかね、葵ちゃん」


色々話してそれなりにレイラとは打ち解けた、とまではいかないかもしれないがまぁ仲良くはなったのか葵の肩に手を置いている。黒崎の言われようは昔からだけど葵は戸惑っていた。


「え、あぁ、えっと…」


「葵ちゃんはっきり言って大丈夫だよ?」


「レイラおまえなぁ」


「ひょろ眼鏡に言われたくありませーん」


「なんだこいつ」


黒崎はそう言いながらも嬉しそうだ。本当にバカでかわいそうである。葵は苦笑いしながらオレンジジュースを飲んで適当に摘まんでいる。まぁ何だかんだ大丈夫そうかなと思いながら私も適当に摘まんだ。


「葵ちゃんは由季といつも何して遊んでるの?」


レイラはいきなり話題を変えて来た。葵と顔を見合わせる。


「あぁ、確かにそれ気になるな、由季って普段飲んでるだけだし、なぁ翔太?」


「そうだね、飲んで潰れてるとこばっかりだね」

 

「そこまで言わなくても良いじゃん……」


心外だけど間違ってはいない。皆私のことを酒飲みとしか認識してなさすぎて驚く。確かに皆といる時は飲んでばかりだけど葵といる時は飲まないことが多いし、少し考えながら話した。


「遊ぶっていうか……泊まったりする方が多いよね?」


葵に問いかける。葵はなぜか恥ずかしそうに頷いた。


「うん。泊まって、私がご飯作って…それでゲームしたり…とか?あと、たまにご飯食べ行ったり電話したり……連絡は…いつもするけど」


「えぇ?!由季、葵ちゃん家に泊まってんの?」


レイラは今度は私に詰め寄ってきた。そんなに驚くことなのか?私は引きながらも頷く。


「う…うん、よく泊まるね」


「はー?!それで、いつも電話とかしてるの?」


「うん、まぁ、してるね?」


「なにそれ……羨ましい。こんな可愛い葵ちゃんとそんなこと」


大袈裟なくらい驚愕な表情をして羨ましがるレイラ。何で?私は疑問に思いながらとりあえずフォローしてみた。


「いや、レイラとだってお泊まりとかするじゃん」


正論を述べたのにレイラは怒っていた。


「それとは違うの!!由季ばっかりずるい!バカ!クズぼけ!!私も仲良くなりたい!」


暴言をはいて腕を何度か引っ張って抗議するレイラ。私は慌ててお酒を置いた。いきなり止めてほしいが酒は溢れなかったから良かった。


「危ないでしょ!仲良くしたいのは分かったから、あんまりがっつかないの!葵が引いてるからね?」


「えぇ?本当に?ごめん葵ちゃん、色々話したくなっちゃってつい……」


「だ、大丈夫だよ。ちょっと驚いただけだから」


私の隣に座っている葵の方に私の横から顔を出しながら謝るレイラ。忙しないレイラに呆れるも翔太が意外そうに口を開いた。


「由季、まともに友達してるんだね?しかも葵ちゃんは本当に料理好きなの?」


「う、うん。料理するのは好きで…由季は凄く喜んでくれるから、よく作ってあげてるよ」


「かー。才色兼備だねぇ。SNSやってないからあんまり分からなかったけど」


「そ…そんなこと、全然!」


少し照れながら否定する葵に私は意外にも驚いた。私もSNSはやってないけど芸能人でやってないって珍しいのではないか?


「葵、SNSやってないの?知らなかった」


「うん、やり方分かんないし」


「おまえ、本当にテレビとか見なさすぎじゃない?葵ちゃんはSNSやってないから日常生活がよく分からないって、それでも人気出てんだよ?」


呆れて説明する翔太に感心する。本当に葵について知らなかったことが前から多すぎるけどこればっかりは仕方ないだろう。見ないものは見ない。冷たい目線を送る翔太を宥めた。


「まぁまぁ、そんな目で私を見ないで」


「由季、本当にやばくね?おまえ葵ちゃんのこと知らなかったの?」


今度は黒崎が驚いたように口を挟んできた。咎められている感じに居心地が悪いが答える。


「あーうん。全く知らなかったよ」


「翔太が教えてくれたんだよね?由季はそういうの疎いから仕方ないよ」


私の腕に抱きつきながらレイラが助け船を出すも直ぐに黒崎は否定する。


「いや、結構有名だからな葵ちゃんは!普通知ってるだろ。テレビも出てるし」


「黒、由季は俺が見せた葵ちゃんの写真見て死ぬほど驚いてそれから知ったんだよ」


「まじありえねぇ……」


黒崎に引かれる日が来るなんて私は傷心気味だった。こんなバカに引かれるなんて。悔しく思っていると葵が控えめに割って入ってきた。


「あ、あの!由季に言わなかったの…私なので、だから由季は…その悪くないというか。…知らなかったのはしょうがないというか」


その発言に私と葵以外が皆顔を見合わせる。疑問に思うも、最初に発言したのはレイラだった。


「葵ちゃん優しすぎるよー」


「本当だな。由季にはもったいなさ過ぎる」


「だな。まず、出会いから良い子だったからね。本当に非の打ち所がないね」


最後の翔太の発言はまずいと思ったのもつかの間にもう黒崎は出会いを翔太に聞いて翔太も即話していた。あの出会いを話されるなんて最悪だ。弱味を握られた気分になる。悔しいけど私には口を挟む隙さえなかった。これは、あとで殴ってやろうかな。


「葵ちゃんは由季のこと大好きなんだね!」


唐突なレイラの質問に葵はまたたじろいでいた。


「え?!えっと、あの…その……う…うん」


「うんうん!あ、今度旅行行きたいね!車係りに翔太とか適当に連れて!」


「りょ?旅行?……う、うん、行けたら…行きたいね」


レイラはにこにこ嬉しそうに笑うも葵は完全にレイラのペースに流されている。レイラは色々直球過ぎるけどこれが良いところではある。私はぽんぽんレイラの肩を撫でた。


「レイラ、いきなり過ぎるから」


「えぇ?そうかな?旅行前から行きたいねって話してたじゃん!由季は行きたくないの?」


「行きたいけど葵は忙しいんだから難しいでしょ?」


「だってせっかくだからさー!温泉とかゆっくり浸かって美味しいもの食べて満喫したい!遠いとこ行きたいし癒されたい!」


レイラの強い主張に分かった分かったと落ち着かせるように頭を撫でる。葵は私たちに比べたら忙しいし難しいだろう。それにレイラが煩すぎて葵がリラックスできるのか怪しい。


「あの、本当に…良いよ?」


「「え?」」


葵の発言に私とレイラの声が被る。どうしたんだ葵。葵の積極性に不安になる。


「あの、葵?どうしたの?レイラが駄々こねてるだけだから無視して全然良いよ?」


「え、あの、私も行きたいよ?楽しそうだし、旅行とか行かないから。それに…由季も行くなら、私も行きたい」


「やったー!じゃあ、絶対行こうね!約束だよ?私がプランをこねまくっとくから!」


「うん」


レイラはこれまた嬉しそうに喜ぶとどこが良いかな?と色々考えているようで葵も葵で嬉しそうにしている。葵がこんな事言うなんてとても意外だったけど彼女が変わって来ているのを感じて嬉しく思った。


「葵、レイラ煩いけどよろしくね。本当に行くことになると思うから覚悟してね」


「大丈夫だよ。レイラちゃん、良い子だし。私の仕事があれだけど、楽しみ」


「そうだね」


小さく笑うから私もつられて笑った。すると横からレイラが身を乗り出してきた。


「ねー!葵ちゃん!連絡先教えて?色々話したいし旅行もあるし!」


「あ、うん。分かった」


連絡先を交換している葵にレイラとなんだかんだ上手くいっている感じに安堵した。

それから飲んだ時の最悪なエピソードや仕事や休みの日の話など色々話をして食事とお酒を楽しんだ。私たちの話に葵は驚きながらも楽しそうにしていて、息抜きができたかなと少しホッとする。恥ずかしい話もあったけどそれはまぁ今回は多目に見た。


夕方に差し掛かる頃夜から翔太とレイラは仕事があるので早めにお開きにすることにした。その頃には葵は皆とも随分打ち解けていて私がフォローとかしなくても大丈夫そうだった。良し良しと思いながら片付けをしているとレイラが後ろから抱き付いてきた。よくあることに私は動じずに片付けをする。


「レイラ、危ない」


「良いじゃん!由季!それより写真撮ろーよ?」


「え、今?今片付けてるじゃん、ていうか片付け手伝いなさいよ」


「そんなの後!良いから良いから!」


カメラを自撮りのモードにして皆に声をかけると仕方なさそうに翔太や黒崎が寄ってきて葵も私の隣に来た。


「んー?だめだ。翔太上手く撮って?」


「呼んだくせにそれかよ」


端に来ていた翔太は渋々レイラの携帯を取ると上手く皆を入れて桜も入れた。


「お、翔太良い感じ!」


レイラは嬉しそうに私の首に横から抱きついて来る。黒崎は羨ましそうにレイラの隣から私を見てきて気まずいけど無視した。悪いが私がやった訳ではない。


「葵ちゃんもうちょっと寄って」


「あ、うん」


翔太の声に本当に僅かだけ私に寄る葵。遠慮しているのか恥ずかしいのかそれが笑えるけどもさっきとほぼ変わらない距離に私は葵の腰に腕を回してグッと寄せた。一瞬で顔の距離が近くなる。


「ゆ、由季?」


「このくらい寄らないと写真に収まらないよ」


「うん…」


「はいじゃー撮るよー」


戸惑ってる葵を他所に少し葵に頭を預けて笑った。

写真を撮って片付けも終わって私達は待ち合わせの駅で降りて別れる。レイラは心底帰りたくなさそうにして帰って行った。

帰った後にレイラから送られてきた写真はよく撮れていて、葵もよく笑っていた。

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