第176話0176★《ショウ》と呼ばれる木の実


 神護の呼び掛けに、リオウものっそりと起き上がって伸びをし、嬉しそうに喉を鳴らして、ゆったりと付いて歩く。


 何か良いモノは無いかと、神護は周辺を確認しながら言う。


 「ああそうそだ、白夜もただ俺に抱っこされているだけじゃ

  つまらないだろう


  できるだけゆっくりと歩くから、歩いている最中に

  今の俺達の役に立ちそうなモノがあったら教えてくれ……

  採取するから………」


 白夜は、神護の言葉に小首を傾げて考える。


 「私達に役に立つもの?」


 その呟きから、どういったモノが役に立つかわからないらしいことを読み取り、神護は説明を付け加える。


 「ああ、例えば風糖ふうとうの時のように

  食べられる植物の実とかハチミツみたいになモノかな


  あと、薬草とか香辛料の原料になるモノかな

  その他、後で役に立ちそうな染料とか


  まぁ…あるかわからないが岩塩とか、塩を高濃度に含む植物とか」


 言いながら、神護は自分が、調味料、特に塩味を使わずに肉や魚を食べ物ことで、切実に最低限の調味料が欲しいと切望していることをさとる。


 はぁ~…流石に、食事するのに、塩すら無いのはつらいな

 肉や魚を食べるのに、塩味系のモノが無いのはきつい


 砂糖の代替には、ハチミツがあるけど…いや、風糖ふうとうも使えるが


 香辛料は、まだ生姜だけだけど、環境的にコショウに似たモノも

 あるかもしんないし……ぅん?…環境?


 そこまで考えてから、神護は小さく舌打ちする。


 あっ?……うわぁぁぁ~……失敗したなぁ……コショウって

 バニラの蔓が育つ環境と似たり寄ったりじゃなかったか?


 最低温度が10度くらいの高温多湿…つったって、ここまで来て

 今更あそこに戻る気ないけど


 いや、この辺だって温度と湿度が高い空間、あるかも知れないし


 完全に、俺が生まれ育った世界と同じとは限らないんだから

 一応探してみるか……


 そう決心した頃に、神護の言葉で周囲を見回していた白夜が、ある一角を指差して言う。


 「父上 樹肌が鱗状になっている あの樹 あの樹の実は

  確か《ショウ》の樹です 色はかなり見た目が良くないですが

  実の中の果汁には 強い塩気が有ります」


 白夜が指差した方向へと歩き、神護は黄緑色のバナナを真っ直ぐにして、先が鋭利なほど尖った実をもぎ取る。


 「これか?」


 白夜に手渡しながら言う。


 「はい これは、中のほとんどが空洞になっていて 基本的に

  黄色い果汁が溜まっています


  そして 樹に生っていた実の根元付近に大きな種が1つあります


  これが落下して 下の土に刺さり発芽するようです」


 そう言われて、神護はその鱗状の樹皮を持つ大樹の下を見回す。

 と、ところどころ、本当に、ポツポツ程度、ソレらしきモノが刺さっていた。


 ふ~ん…高い位置から熟して落ちて来るから、結構は深くまで

 地面に刺さるんだな………





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